『イカゲーム』の非情な女たちが物語る、現代の韓国社会とは?

Culture 2021.12.02

脱北者、生き残るためにはどんな手でも使うペテン師。Netflix視聴者数記録を次々と破るドラマ『イカゲーム』の女性登場人物たちの描写には誇張もあるかもしれない。しかし、そこには、女性の立場が問い直されつつある韓国社会のさまざまな変化が反映されている。

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『イカゲーム』のキム・ジュリョンとチョン・ホヨン。photo: Netflix / Photo presse

バイオレンスは路上で幕を開ける。ソウルの路地裏や地下鉄の駅で、借金を抱え苦境に立たされているあらゆる年齢層の男女が、あるミステリアスなゲームに招待される。離島に設けられたテーマパークを彷彿とさせるカラフルな会場で、彼らは子どもの頃に誰もが親しんだ遊び(だるまさんがころんだ、ビー玉遊び、あるいはせんべいに描かれた型をくり抜く「カタヌキ」)に挑戦することになる。大人たちが競い合い、敗者は次々と殺される。ゲームを勝ち抜いたたったひとりの勝者には莫大な賞金が待っている。これが9月17日の配信開始以来社会現象となった、Netflixドラマ『イカゲーム』の大筋だ。

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しかし、意外な展開と暴力的で過激なシーン満載のスリラードラマである以上に、ファン・ドンヒョク監督が手がけたこのドラマは、経済的・社会的格差が情け容赦ない個人主義を進行させる韓国社会の一面を映し出す。社会的緊張が高まるなか、離婚率の上昇、出産率の低下、労働市場への女性の大量進出、多くの犠牲を伴う自立など、韓国の女性をめぐる状況は変化し続けている。

Netflixで最高視聴数記録を打ち立てたファン・ドンヒョク監督のドラマは、一見、男も女も同等に扱っているかのように見える。誰もが「あっさりと」惨殺され、カメラは性別に関係なく死体の無残な有様を捕らえている。しかし『イカゲーム』には、女性は常に一歩下がるべしという、性差別的価値観が深く根付いた社会の慣習が反映されている。たとえばドラマのなかでゲームの内容が発表されると、女性は身体能力が低いという理由で、参加者が女性とチームを組むのを嫌がる場面がある。「韓国では伝統的に女性の社会的地位が低く、女性は家族のために自分を犠牲にすべきという考え方がある」と、ソウル成均館大学で教鞭をとる映画監督のアントワーヌ・コッポラは説明する。韓国映画についての著作もあるコッポラはこう続ける。「ただそれでも、彼女たちが男を立てつつ、その“後ろ”で時に決定的な役割を演じていることもある」

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社会的原型

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ドラマシリーズ『イカゲーム』で脱北者のカン・セビョク役を演じるチョン・ホヨン。photo: © service de presse Netflix

「イカゲーム」にもそんな女性がふたり登場し、ストーリーが進むにつれて、それぞれ存在感を増していく。まず最初にカメラが注目するのが、北朝鮮を逃れてきたばかりのカン・セビョクだ。冷酷だが純粋な心を持つ若い女性で、ゲームを通して少しずつ他者を信頼することを学んでいく。「端的に言えば、すべての登場人物が韓国社会の原型を表している」とコッポラは分析する。「セビョクという登場人物もひとつの現実に対応しています。韓国には脱北者が30万人近くいます。セビョクが体現する、社会に溶け込むことの難しさ、仲介業者への借金返済、家族の問題は、よく知られた現実。ただこの登場人物には、エロティックで強情で戦闘的、さらには女スパイといった、北朝鮮女性をめぐるファンタスムも盛り込まれています。これは韓国映画に頻繁に登場する架空のキャラクターです。トップモデル(チョン・ホヨンはシリーズの配信後に世界的なスターになった)が演じている点も、こうした側面を強調しています」

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セビョクより年上で、冷静で寡黙なセビョクとは対照的な、おしゃべりで騒々しいハン・ミニョ(演じているのはキム・ジュリョン)は、カメラが焦点を合わせるもうひとりの女性ゲーム参加者だ。コッポラが指摘するように、彼女が自分の言い分を主張する長いモノローグも導入されている。嘘(離婚後、ひとりで子どもを育てていると本人は言うが、真偽のほどは不明)、裏切り、セックス、追従。ハン・ミニョは自分が助かるためにあらゆる手を尽くす。大声を出し、下品な言葉を使うことも辞さない。この一見「ヒステリック」で信用ならない人物は「アジュンマ」(おばさん)の典型だとコッポラは見る。「怒りっぽい、金銭に執着する、社会的成功という野心のために小細工を弄して男たちを操作するなど、既婚女性は批判的に見られることが多い」

さらにコッポラは、韓国ではハン・ミニョという登場人物がフェミニスト団体の非難の的になっていると話す。時代錯誤な古臭い女性像を誇張的に描いているとフェミニスト団体は批判しているのだ。しかし彼によれば、この人物は韓国社会のなかでの女性たちの軌跡を一身に体現する存在だという。「伝統的な社会的役割を押し付けられる一方で、1910~1945年の日本統治時代、そして1948~1988年の性差別主義的な軍事独裁時代を通して、不幸な境遇に置かれてきたアジュンマたちは、何としても成功を手にするべく、本人にも周囲の人たちにとっても過酷な道を自ら選び取ってきた」。こうした文脈のなかで彼女たちは、ゲームの闘いぶりそのまま、生き残るために手段を選んではいられなかったのだ。

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勇気のある母親たちと幻滅したティーンエージャーたち

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『イカゲーム』でハン・ミニョ役を演じるキム・ジュリョン。photo: © service de presse Netflix

彼女たちの背後にも、別の女性たちが登場する。一見脇役のように見えるが、彼女たちもまた、韓国女性の別のファセットを代表している。息子たちが巨大な滑り台で殺し合いを演じている間、ソウルではふたりの高齢女性がわずかな額の生活保護でどうにか暮らしている。彼女たちは愛する息子のために食事を抜き、生活を切り詰めることも厭わない。息子たちは彼女たちの犠牲に値するようなことをしているわけではない。「ここで描かれているのは韓国の伝統的なドグマです」とコッポラは説明する。「韓国では高齢者は尊敬の対象です。しかしそのかわり、家族のために自分を犠牲にするという社会的な役割がある。これには歴史的・経済的な側面があります。韓国国民にとって、自分たちの遠い祖先は自国のエリートに、その後は日本軍に、続いて自国の軍隊に虐げられてきた貧しい農民たちだったという事実を思い出させる。彼女たちはドラマのなかで、連綿と受け継がれてきた連帯と質素な自給自足の生活という韓国の伝統を体現しています。これらすべてが現代の社会的成功を目的とする競争社会によって損なわれつつある。『イカゲーム』はこの競争社会を暗喩しています」。コッポラは彼女たちのそばに夫の姿が見当たらないことも指摘する。「こうした致命的な状況を招いた古い世代の男たちを非難しているのです」。ドラマには高齢男性がただひとり登場するが、彼もまたゲーム会場に閉じ込められている。

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イカゲーム参加者のなかには、アジュンマの対極に位置する若い女性(イ・ユミが演じるジヨン)もいる。周囲から孤立し、厭世感を漂わせる彼女は、韓国社会に新しく登場した一群の若者たちを代表している。インターネットで流行する「ヘル・コリア」という言葉を生み出し、社会の圧力、資本主義、熾烈な競争によって完全に無意味なものとなった世界を告発する世代だ。経済協力開発機構のデータによると、韓国は自殺率が世界で最も高い国だ。自殺は10~39歳の死亡原因の第1位で、2019年には20~29歳の死因の51%を占めるというぞっとするような数字が発表されている。さらにパンデミック以後は、若い女性たちの自殺数が増加しつつあり、政府はついに20~39歳の女性を自殺リスクの高いグループと位置づけるに至った。

「女性が担っていた伝統的な役割が解体し、それに伴って、女性たちを庇護してきた結婚や出産といった事柄にも綻びが生じ、新しい世代の若い女性たちは拠り所も支えもない経済ジャングルに放り込まれてしまった(家族の支援は伝統的に息子たちが優先される)」とコッポラは解説する。「このことから、彼女たちは労働と肉体の搾取という二重苦の犠牲者でもあると言えます」。ドラマでも触れられているように、韓国では女性たちが頻繁に暴力に晒されているが、数字に表れているのはそのうちのほんの一部だ。「暴力は私的領域での社会経済的な力関係に完全に組み込まれているように見えます。そのなかで、女性とくに独身の女性はとても不利な立場に置かれている。韓国では世代間暴力と言いますが、年長者が年下の者に対して横暴に振る舞う。そのなかには性的虐待も含まれます。女性団体は政府の対策だけでは限界があると見ています。法的レベルで家庭内暴力が温存されているだけでなく、犠牲者への支援が不足しており、被害を訴えた後で被害者が不安定な状況に陥ったり、社会的に排斥されることさえあるのです」

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MeTooの影響は限定的

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『イカゲーム』に出演するイ・ユミとチョン・ホヨン。photo: © service de presse Netflix

MeToo運動以後、映像産業が女性たちを前景に押し出すよう努めている欧州に比べ、韓国ではこの運動のインパクトは限定的だ。したがって彼女たちはいまも『イカゲーム』の貧しい母親たちと同じ状況にある。しかし彼女たちが映し出す韓国の社会経済的変動を見る限り、女性の立場も変化しつつあるようだ。コッポラが指摘するように、いま韓国の女性たちは「花嫁修行中の若い女性、妻、母親という、女性に割り当てられた伝統的な社会的役割から徐々に脱しつつある」。変容する世界のアウトラインを浮かび上がらせるカン・セビョクとハン・ミニョはその代表だ。この世界で女性たちにとって頼みとなるのはもはや自分だけ。それが彼女たちが窮地から脱するための究極の手段なのだ。

text: Pascaline Potdevin (madame.lefigaro.fr)

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