小泉今日子にインタビュー、主人公の彼氏&彼女を演じる舞台。

Culture 2021.11.26

小泉今日子が、チャレンジングな舞台に臨む。2022年1月、東京・青山のスパイラルホールで日本初演される『ミネオラ・ツインズ~六場、四つの夢、(最低)六つのウィッグからなるコメディ~』だ。俊英・藤田俊太郎が演出するピュリッツァー賞受賞作家ポーラ・ヴォーゲルによるこの戯曲は、1950年代から80年代の激動の時代のアメリカに生きる双子のマーナとマイラの物語。一卵性双生児ながら正反対の性格を持つふたりの主人公を大原櫻子がひとりで演じるという話題作だが、共演者としての小泉にとってもまた、深い意味を持つ舞台となりそうだ。

211126_kyon2.jpg

小泉今日子
1966年、神奈川県生まれ。82年、歌手デビュー。女優として映画や舞台に多数出演し、執筆家としても活躍。2015年より株式会社明後日を立ち上げる。

──この作品と出合った時の印象を教えてください。

プロデューサーから、「ちょっと話がある」と連絡をいただき会いに行くと「20年前からずっとやりたいと思っていた戯曲があるのだけれど、主役の双子にふさわしい女優が見つからなかった。その役者を、やっと見つけた!」と言うんです。大原櫻子さんのことです。それを語るプロデューサーのエネルギーの純度がとても高く、その時点で「何か素敵なことが起こりそう!」と思ったんです。

──その後戯曲を読んで、どう感じられましたか。

問題作というか、ともすれば難しくなりそうなのだけれど、おもしろく読むことができました。同じお腹から生まれた一卵性双生児なのに、保守とリベラルという正反対に分かれていくというのもおもしろいし、それぞれが選んだ道で生じる問題もすごくよく描かれている。最後に辿り着いた場所もちょっと素敵だったりするし、双子のどちらかの夢の中でどちらかが呼ぶ声が聞こえる、というのも気になる。それは、本当はひとりの中にあるふたりなのかな、とも想像できて……。いろんな形で読める、立体感のあるお話だと感じました。その物語の中で、この双子をサポートしながらふたつの役を演じることができるのは楽しそうだなと思ったんです。

──小泉さんが演じるのは、保守的なマーナの婚約者・ジムと、その後マイラの同性の恋人として登場するサラの二役。主人公の双子をひとりの役者が演じるようにと作者が指定したのと同じく、ジムとサラをひとりの役者が演じることも作者は指定しているそうですね。この二役を小泉さんはどのように捉え、演じようと考えていますか。

私は、“愛”担当じゃないですか。どちらも恋人の役。でも、このお芝居でまず描かれるのはアメリカの1950年代の若者。私は60年代生まれですが、子どもの頃はまだ50年代のあのムードが残っていたように思います。ここから先、暗闇なんて一切なくて、希望ばかりを見ていた時代。日本も戦争が終わって高度成長期に入って、どんどん豊かになっていくことしか見えていなかったし、その先には21世紀という明るい未来があると信じていた。でも、そうした経験をしてきたいまの私は、そうとは信じられなくなっている。未来や希望が見えないところに辿り着いて、いま、ここに立っている。だから私は、ジムとサラという役で、その間の時間を繋げることができるのではないかな。さっき喋っていたら、そう思うようになりました(笑)。誰かと話してみると気づけるものですよね。会話ってすごい。

──すでに演出の藤田俊太郎さんによるワークショップが実施されたそうですが、手応えはいかがでしたか。

実際に声を出して本読みをしましたが、藤田さんとは、その二役を無理に演じ分ける必要もないんじゃないかと話しました。ステージングを手がけられる小野寺修二さんもいて、動きのシミュレーションにも取り組みましたが、“覚悟”ができました。同じ場面にふたりともいる設定の場面もあるのに、どうやって双子を演じわけるのだろうと思っていたのだけれど、その見せ方のアイデアのもと、みたいなことを試したりして。小野寺さんの舞台でも、すれ違っただけでスッと上着が変わるようなトリッキーなことがありますが、今回はそういう点でもおもしろくなるはず。サブタイトルにも書かれていることだけれど、そういったことを見つつ、お芝居を楽しんでいってね、ということなんだと思います。だから厳密に双子を演じわけるとか、男女を演じわけるということよりも、ひとりの人間がふたつの役を演じること自体に意味があるように書かれているのかな、と感じています。

──女性としての生き方、働き方についても考えさせられますね。

私自身は、男性社会の中で辛い思いをしたということは全然ないんです。昔から女性が多い現場だったので。それに、結婚したら君は家庭で子どもを育ててご飯を作っていればいい、という時代に育って、実際私もそう思っていて、そうなることを夢見ていた。その価値観に引っ張られて、結婚に憧れていたんです。が、結婚したら全然そんなことできない。ごめんなさい、という感じで(笑)。それなのに、その価値観は結構長い間捨てられずにいました。できないのにね。一方で、物語の中の彼らは、そのままその時間を生きている。いまこうやってこの物語に触れると、やっとこういう時代になって、ここまで来たんだな、という感じがしますよね。

──2022年、デビュー40周年の節目の年を、刺激的な舞台でスタートすることになりますね。

たまたまなのだけれど、毎日お芝居するために青山に通うこと自体に気持ちが上がっています。2022年は上がってそのままうまく進みそう!(笑)。真面目な話をするなら、この舞台の後、2月の途中から3月いっぱいまで、歌手としての仕事で全国ホールツアーが控えているのですが、女優としての私と、歌手としての私──そこには、私の中のふたり、というような感覚があります。全然違うんです。やることも考えることも。もう、“小泉ツインズ”ですよ(笑)

──どのような場面で違いを実感されるのですか。

久しくコンサートをはじめ歌の仕事はしていなかったのだけれど、去年くらいから思うところがあって歌う仕事を増やしたら、女優とは全然違ったんです。懐かしかったし、自由だし。少し勘を取り戻したら、バーッとまわっていく。ああ、私はやっぱり“ここ育ち”なんだなとも感じました。演じることは、私にとってはどちらかというと難しいこと。「なんか全然上手にできない」という感じでしたから。でもこの『ミネオラ・ツインズ』に関しては、3人の役者それぞれが二役を演じて、本当に皆で助け合って作るしかない。主役として背負わされるものと、私が今回求められているものは全然違うと感じてもいます。私は本当にこの双子を救いたいと思っていて、自分が出ていないシーンでもサポートしていきたいし、役の上で、大原さんが負担しなくてもいいもの、たとえば、私がこうやったらもっとその時代が見えてくるんじゃないかと思えるところは、よく考えていきたい。「見て、私、小泉今日子よ!」ではなくて……そういうのはもともと苦手なんですけど(笑)

──小泉さんにとって2022年はどんな年になるでしょうか。

やりがいのある作品に関わることができて、そのあと歌を歌って。身体にだけは気をつけて、そうすれば楽しい2022年になる、と思っています。いま整体に行ったり、ジムの人にストレッチをやってもらったり、ボイストレーニングをやったりして、負けないように努力中。だから皆さんも良いお年を。来年は良い年になります……ように、ではなく、「なりますよ!」です(笑)

211130_v.jpg

211120_Cast3.jpg

『ミネオラ・ツインズ』
期間:2022年1月7日〜31日 
会場:スパイラルホール(東京・青山) 
料金:全席指定¥10,000  
●問い合わせ:
シス・カンパニー 
tel:03-5423-5906 
www.siscompany.com/mineola

Text: Tomoko Kato

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest
Business with Attitude
コスチュームジュエリー
35th特設サイト
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories

Magazine

FIGARO Japon

About Us

  • Twitter
  • instagram
  • facebook
  • LINE
  • Youtube
  • Pinterest
  • madameFIGARO
  • Newsweek
  • Pen
  • CONTENT STUDIO
  • 書籍
  • 大人の名古屋
  • CE MEDIA HOUSE

掲載商品の価格は、標準税率10%もしくは軽減税率8%の消費税を含んだ総額です。

COPYRIGHT SOCIETE DU FIGARO COPYRIGHT CE Media House Inc., Ltd. NO REPRODUCTION OR REPUBLICATION WITHOUT WRITTEN PERMISSION.