新年から目が離せない、今月の映画3選!
Culture 2022.01.01
年末から公開されている、いまの社会を映し出すちょっとした毒のある映画を厳選! 今年も劇場で、名作を堪能しよう。
福祉社会の徒花のような、悪女が放つ危険な香り。
『パーフェクト・ケア』
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病気をでっち上げて「独居困難」のお墨付きを判事から受け、隠居する資産家の老人を施設に隔離。縁者とは連絡不通にして、法定後見人マーラは、管理下に置いた家財や不動産を合法的にしゃぶり尽くす。重要度を増すケアビジネスや、法の抜け穴を突くブラックコメディの冴え。ダイアン・ウィースト扮する新たな獲物の老嬢が裏の顔を持ち、マフィア一味に溺死体にされそうになっても、マーラはしぶとく生還する。この稀代の悪女をロザムンド・パイクが怪演。男中心社会に単身ぶつかり、墜落覚悟で飛翔する怪鳥には凛々しさの側面も。今春のゴールデングローブ賞(ミュージカル・コメディ部門)の主演女優賞に輝いた。
監督・脚本/ジェイ・ブレイクソン
2020年、アメリカ映画 118分
配給/KADOKAWA
12月3日より、新宿ピカデリーほか全国順次公開、配信
https://movies.kadokawa.co.jp/perfect-care
新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。
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揺るぎないスタイルで、揺れる恋模様を束ねる。
『偶然と想像』
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恋と嫉妬、策略と勘違いをめぐる、エリック・ロメールばりの会話劇。高度な洗練とともに、恋愛現場に鼻面を寄せるような生々しさがある。世界が見守る旬の監督が、『ドライブ・マイ・カー』の撮入前とコロナ中断期間を使って撮り上げた。都会性と野趣が共存し、華やぎの裏にトゲを秘める。大作の谷間に咲く3輪の野バラを思わせる短編集。友だちの恋人候補が未練を残した元カレだった、という第1話『魔法』をはじめ、女と男は「偶然」が招く緊急事態を、自らフィクションを作動させ、「想像」的に乗り越える。筋立てを共有する花々からは色と毒とおかしみが匂い立つ。ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)受賞。
監督・脚本/濱口竜介
2021年、日本映画 121分
配給/Incline
12月17日より、Bunkamura ル・シネマほか全国順次公開
https://guzen-sozo.incline.life
新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。
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牛飼いの訴える繰り言が、地域ぐるみの集団訴訟に。
『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』
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『エデンより彼方に』ほか、古典美のラブロマンスの名匠トッド・ヘインズが挑む、環境汚染の実録劇。テフロン加工の調理器が好況期に売れに売れ、長年地元経済を支えたウェストバージニア州の大企業が、未規制だった化学物質の工場汚染水を川に垂れ流し続けた。ことの根深さに、マーク・ラファロ演じる弁護士ロブは義憤を抱く。牛や人が異変をきたす最前線から隠蔽工作を直感し、変人扱いされるビル・キャンプの老牧夫。子の存在も忘れるロブをたしなめつつも理解するアン・ハサウェイの妻。冴えない企業弁護士だった小男が巨人を一撃せんとするおののきを、時代背景を煮つめ、脇役陣まで分厚く描くリアルな緊迫感!
監督/トッド・ヘインズ
2019年、アメリカ映画 126分
配給/キノフィルムズ
12月17日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
https://dw-movie.jp
新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。
※『フィガロジャポン』2022年1月号より抜粋
text: Takashi Goto