型を、そして殻を破る。自分の常識を見つ直す必読書。

Culture 2023.01.08

植物の声を聴く少女が見た、この世界の未来予想図なのか。

『香君』(上下巻) 

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上橋菜穂子著 文藝春秋刊 各¥1,870

はるか昔、香君がもたらした奇跡の稲、オアレ稲が虫害に侵され、人々は食糧危機に陥る。植物の香りの声を聴くことができる少女アイシャがこの謎に挑む。前作『鹿の王』は奇しくもパンデミック後の世界を描いていた。植物が香りでコミュニケーションしているという事実にインスパイアされた本作では、命の本来あるべき姿を描き出す。国際アンデルセン賞を受賞した著者による異世界ファンタジーは、示唆に富んだ未来予想図さながら。

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いまからでもなんとかなる、美容道開眼エッセイ。

『きれいになりたい気がしてきた』 

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ジェーン・スー著 光文社刊 ¥1,540

美魔女たちを横目に眺めて苦々しく思っていたはずが、きれいになりたい気がしてきたのは、加齢とともに「もう若くはない可哀そうな女」に収まることを全力で拒絶する生きざまに共感したから。どうせ生きるなら、自分の好きな自分で生きたい。無造作まとめ髪に美容医療、試しては知るその奥深さ。誰のためでもない、自分のための美に向き直った美容開眼エッセイは、対岸にいた彼女たちの流儀に学ぶシスターフッドな一冊。

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苦い挫折感の先にある沈黙に、耳を澄ます再生の物語。

『タラント』

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角田光代著 中央公論新社刊 ¥1,980

38歳のみのりは、責任ある仕事を避け、無気力な日々を送っていた。不登校の甥が難民の記事に興味を持ったことから、大学時代の友人が記者として活躍していることを知る。使命感に駆られ、誰かを救おうとする人たち。みのりも、かつてはそうありたいと願った。『源氏物語』の現代語訳に専念していた著者の5年ぶりの小説は、自分は意義ある人生を送っていないのではないかという負い目に苛まれる人たちに寄り添った再生の物語。

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ヒップホップ界のボスが伝授する、ユニークな料理本。

『スヌープ・ドッグのお料理教室』

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スヌープ・ドッグ著 KANA訳 晶文社刊 ¥3,410

ヒップホップ界のギャングスターの料理本はセレブのイメージ戦略と侮れないユニークさ。ホイップする時は「ベイビー、鞭で叩くようにバシバシ」。チョップドサラダは「一番鋭い刃のナイフを用意して、切り刻んじまえ。わかったか?」。材料のひとつやふたつ用意できなくても「フリースタイルでキメればいい」。贅沢な食材を使って上位互換したジャンクなソウルフードを作りたいかどうかはさておき、レシピの型破りな自分語りにグッとくる。

*「フィガロジャポン」2022年6月号より抜粋

text: Harumi Taki

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