22年前、すでに未来を予知していた映画『マトリックス』の魅力。

Culture 2022.01.08

人工知能からトランスアイデンティティ、そして内部告発者の主人公。カルト的人気を誇る映画シリーズは世界を鋭く洞察していた。4作目の公開に合わせて、キアヌ・リーブスとキャリー=アン・モスが演じる衝撃のディストピアを徹底解析!


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1999年に1作目が公開されたウォシャウスキー姉妹監督作『マトリックス』。これまでに3部作が公開され、2021年には新章『マトリックス レザレクション』が公開された。photo : Courtesy of Warner Bros. Pictures © 2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

「マトリックスとは何なのか」:この問いは何百万人もの映画狂や愛好家を悩ませ続けてきた。カルト的SF映画の待望の4作目『マトリックス レザレクションズ』が公開中。キアヌ・リーブス(ネオ)とキャリー=アン・モス(トリニティ)のコンビがスクリーンに帰ってきた。

予言的シナリオ

22年前に公開されたディストピア映画『マトリックス』第1作は、その予言的な主題とアイコニックな美意識で世界中の人々に強烈な印象を与え、社会現象となった。

ストーリーを一言でいえば、人工知能によって制御された機械と、人類との対決だ。人類は機械に支配され、人間の精神はマトリックスと呼ばれる仮想現実に閉じ込められている。ハッカーのネオと、彼をサポートするトリニティとモーフィアスは、人類を解放するべく戦いに挑む。

映画が公開された1999年6月といえば、情報技術専門家たちが「2000年問題」と名付けてコンピュータシステム上の混乱を予想した西暦2000年1月1日の数カ月前に当たる。この年の末にはロシア大統領のボリス・エリツィンがウラジーミル・プーチンを大統領代行に指名する。映画界ではキューブリックが亡くなったばかりだった。最先端の人たちが手に入れたがった携帯電話の最新機種はNokia 8810。アメリカですでに多くの批評家が記事を寄せていた『マトリックス』の公開を、フランス映画批評界は慎重な姿勢で迎えた。

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論争を巻き起こしたサーガ

最新作『マトリックス レザレクション』トレーラー

1999年3月に全米公開された映画『マトリックス』は、「リベラシオン」紙のワシントン特派員が書いたように、「暴力に魅了されるアメリカの若者たちという議論を再燃させた」として非難を浴びた。

4月にコロラド州のコロンバイン高校で、ティーンエージャーふたりが同級生数十人に向かって銃を乱射する事件が発生する。マスコミはすぐさま映画『マトリックス』の中で重武装のキアヌ・リーブスがゲートを通り抜けながら敵に機銃掃射を浴びせるシーンに結びつけた。実際にはふたりの犯人がインスピレーションを受けたのは、オリバー・ストーン監督作映画『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(1994年)だったのだが。

しかし保守系報道機関が槍玉にあげたのは、むしろ、テレビゲームを彷彿とさせるこの映画だった。テレビゲームは当時、映画プロデューサーや心配性の親たちにとって新たな不安の種となっていたからだ。

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告発者、メシア的ヒーロー

「象徴的なことに、この映画は、20世紀が変わる直前に公開され、当時輪郭を表し始めていた恐怖や幻想の総括として受け止められた」と、パリ=ナンテール大学哲学講師で、2003年に刊行された『マトリックス、哲学機械』(エリプス出版)の共著者のひとりであるエリー・デュリングは説明する。

「映画の中で、機械の権力は人類を支配しています。それは資本主義社会における疎外の寓話であり、デジタルビジネスが主流となった非人間的世界の姿なのです。しかし社会と最も同期していたのは、全世界に向けて警鐘を鳴らすメシア的ハッカーであるネオという人物が持つ、政治的側面でした。党派やイデオロギーをも超えた地下の反乱分子の台頭は、“ウォール街を占拠せよ”運動や“ポデモス”のような、革命というより反抗あるいは憤りに端を発した自発的な動きが次々と生まれる現代に共鳴しています」

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プラトンの洞窟にカンフーを持ち込んだ

千年紀がもうじき終わろうという時期に公開された、サイバーパンクカルチャーの精華であるこの映画は、東洋思想、聖書やボードリヤールからの引用、『不思議の国のアリス』への暗示、フィリップ・K・ディックやウィリアム・ギブソンが好んで扱ったテーマ、これらをすべて混ぜ合わせ、初めて「カンフーをプラトンの洞窟に持ち込んだ」(デュリング談)だけではない。次の世紀で問われることになる多くの問題がこの映画には凝縮されている。ストーリーには早くも環境危機が織り込まれ、世界が人類によって破壊し尽くされたことが示唆され、エージェント・スミスは人類を地球にとっての「ウイルス」あるいは「ガン」にたとえる。「環境危機で荒廃した世界を黙示録的に描いた映画はこれが最初ではない」とデュリングは指摘する。「しかし『マトリックス』の構想の優れた点は、現状をまったく意識することなく生きる人々を視覚的に表現したことにあります。ここに反映されているのは、人類は徐々に地球を荒廃へと導いているが、そのことを直視しないようにしているという見方です。こうした否認の描き方としては、非常に素朴で直接的ではあるものの、グラフィックとしては非常に効果的です」

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ハリウッドで初のトランスジェンダー姉妹

映画の根底にあるもうひとつのテーマが、トランスアイデンティティだ。当時は社会的、性的規範の問い直しがなされる前で、トランスジェンダーの人たちは見えない存在だった。当時はまだ医療用語であった「トランスセクシュアリズム」に由来する、トランスセクシャルという言葉が用いられており、世界保健機関がトランスセクシュアリズムを精神疾患から除外するのはようやく2019年になってからだ。

ハリウッドで初のトランスジェンダー姉妹となったラナ・ウォシャウスキー監督と妹のリリーは、共同で『マトリックス』の脚本と監督を務めた当時はラリー&アンディと名乗り、性別適合手術はまだ受けていなかった。だが後に『マトリックス』シリーズ3作品ですでにこの概念を扱っていたと明かしている。「私たちにはもともとその意図がありましたが、世界はまだ準備ができていなかった」とリリー・ウォシャウスキーは語っている。「それでもトランスの人たちにとってはメタファーは最初から明快、多くの人たちがこの映画シリーズによって救われたと言ってくれました」

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哲学的議論の宝庫

デュリングによれば『マトリックス』は哲学的議論の宝庫だが、この映画を時代を超越した作品たらしめているのは、登場人物の動きがスローモーションで見える有名なバレットタイムのような特殊効果や、カリスマ的なモーフィアス、優柔不断なネオ、強い女トリニティといった、独特な登場人物たちだ。

アメリカ人ジャーナリストのターシャ・ロビンソンは、トリニティという人物設定にインスピレーションを得て、2014年に「トリニティ・シンドローム」と題した論考を発表し、この登場人物がその後のアクション映画のヒロイン像の原型になったと論じた。ヒロインたちは、トリニティと同様、みな高い知能と能力を備えていながら、男性主人公の右腕という役割に押し込められているという。トリニティも結局どの作品でも、ネオを蘇らせる控えめな恋人という役目に収まっている。

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人工知能からの挑戦

ロビンソンの解釈によれば、『マトリックス』はフェミニスト映画にはなれなかったものの、「メタバース」をはじめとするSF文学でおなじみの概念を大衆化することに寄与した。

3次元の仮想メタ宇宙を意味する「メタバース」は、“メタ”に社名変更したフェイスブックの新たなサービスを宣伝するために、マーク・ザッカーバーグが目下さかんに言及している。フランシュ=コンテ大学情報コミュニケーション科学講師で『メタバース、デバイス、用途、表象』(ラルマタン出版、2015年)の著者でもあるジュリアン・プキニョはこう語る。「ザッカーバーグの野望はいまのところ無謀な試みの域を出ない。彼が想定する経済モデルには産業上の課題があるからです。それは3Dの世界にアクセスするための装置があまりに重すぎること、そしてサーバーが環境に及ぼすインパクトが甚大であること」

いずれにせよ『マトリックス』はつねに、人工知能が人類につきつける挑戦という点で、一歩、いや二歩も三歩も先に進んでいる。

(1)ラナ・ウォシャウスキー監督作『マトリックス レザレクションズ』。出演:キアヌ・リーブス、キャリー=アン・モス他。公開中。

text : Justine Fooscari (madame.lefigaro.fr)

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