カンヌ、ヴェネツィア、ベルリンに引けを取らない!マラケシュ映画祭を訪れた立田敦子が感じたこととは?

Culture 2023.01.12

文/立田敦子

2022年11月中旬、マラケシュ国際映画祭に参加した。国際的な映画祭は、カンヌ、ヴェネツィア、ベルリンの三大映画祭を始め、1年を通して、世界のどこかで開催されているが、アラブ地域の映画祭に参加するのは初めてだ。

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大勢の観客とともに写真に写る『Daddy or Mommy』の主演ローラン・ラフィット(左)とマリーナ・フォイス監督。

昨今、レバノン出身のナディーン・ラバキー監督の『存在のない子供たち』(2018年)や、アルジェリア出身でフランスを拠点に活動するムニア・メドュールの初監督作で第92回アカデミー賞外国語映画賞(現・国際長編映画賞)のアルジェリア代表に選出された『パピチャ 未来へのランウェイ』(19年)など、アラブ地域発の映画が日本でも注目されていることもあって、アラブ地域の映画祭に興味をそそられたからだ。

モロッコ西部の都市マラケシュは、モロッコの中でも観光地として知られる美しい街だ。不世出のデザイナー、故イヴ・サンローランが愛した街として知られており、彼の別荘の一部はマジョレル庭園として公開されていて、2017年には隣にイヴ・サンローラン美術館もオープンしたことも記憶に新しい(美術館の中にあるオーディトリアムは、映画祭のスクリーニングルームとしても使用)。

マラケシュ映画祭は、2001年にモロッコの国王ムハンマド6世の主導で創設され、2022年で第19回を迎えている。これまでこの映画祭に参加した人たちが一様に口にするのは、その“豪華さ”である。メイン会場となっているパレ・デ・コングレ前のレッドカーペットには、連日、世界中から監督や俳優が登場するが、そのメンバーの豪華さはカンヌに引けをとらない。欧米の華やかなゲストを呼ぶことに苦労している東京国際映画祭や釜山国際映画祭などから比べると、ヨーロッパ諸国から飛行機で3時間ほどという地理的優位性を鑑みても羨ましい限りといえるだろう。

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その豪華さは、審査員にも言える。審査員長を担ったイタリアの巨匠パオロ・ソレンティーノを始め、ドイツ出身の俳優ダイアン・クルーガー、オーストラリア出身の監督ジャスティン・カーゼル、レバノン出身の監督ナディーン・ラバキー、モロッコの出身のライア・マラクシ、アルジェリア系フランス人俳優タハール・ラヒム、イングランド出身の俳優ヴァネッサ・カービーら。いまをときめく監督や俳優を揃えただけでなく、男女比は半々というニュースタンダードをきっちり踏まえている。

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写真左からナディーン・ラバキー、ジャスティン・カーゼル、ダイアン・クルーガー、審査委員長パオロ・ソレンティーノ、ライア・マラクシ、タハール・ラヒム、ヴァネッサ・カービー。

また、「豪華」ということでいえば、最も目を引いたのがマスタークラスの豊かさだ。今年のカンヌ映画祭で80年代を舞台にした自伝的なドラマ『アルマゲドン・タイム』を発表し注目されたジェームズ・グレイ監督は、金の星(エトワール・ドール)賞は、そのキャリアに対するいわゆる功労賞を受賞。『アド・アストラ』(19年)など代表作の特集上映も組まれていた。この金の星賞の受賞者は、毎年何人かいるようで、今年は他にスコットランド出身の女優ティルダ・スウィントン、モロッコの脚本家・プロデュサーのファリダ・ベンリヤシッド、インドの俳優ランヴィール・シンが受賞した。

「In Combersation With …」と称するトークイベントには、レオス・カラックス(フランス/監督)、ジュリー・デルピー(フランス/俳優・監督)、ジュリア・デュクルノ−(フランス/監督)、アスガー・ファルハディ(イラン/監督)、マリーナ・フォイス(フランス/俳優)、ジェレミー・アイアンズ(イギリス/俳優)、ジム・ジャームッシュ(アメリカ/監督)、リューベン・オストルンド(スウェーデン/監督)、ランヴィール・シン(インド/俳優)、ガブリエル・ヤレド(レバノン/作曲家)らが登壇した。

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マスタークラスで長時間のトークを行ったレオス・カラックス。

メディアをあまり好まず(しかも寡作)、『アネット』がプレミア上映された2021年のカンヌ映画祭でもあまり積極的にインタビューを受けていなかったカラックスが制作の裏側をじっくり話してくれる機会は貴重といえるだろう。登壇したカラックスは、ジャーナリストとともに約1時間、そのキャリアや制作について語った後、予め選ばれた地元の3人の学生からの質疑応答に答えるというサービスぶりだった。これほど充実したトークイベントの内容であれば、マスタークラスを聴くためだけに来る価値はあるのではないかと思ってしまうほどだ。

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上映作品は、カンヌなどの国際映画祭で高い評価を受けた有名監督の作品を中心に組まれた「ガラ上映」や「特別スクリーニング」、モロッコ映画部門の「モロカン・パノラマ」、「シネマ・フォー・ヤング・オーディエンス」といった若い観客を意識した部門など多彩だ。コンペティション部門は、長編デビューから1〜2作目の若い監督の作品を中心にセレクトされ、2022年は5大陸14カ国から選ばれた14作品がラインナップされた。

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『A Tale of Shemroon(原題)』で最高賞「エトワール・ドール」を受賞した、イランのエマド・アレエブラヒム・デコルディ監督。

最高賞の「エトワール・ドール」を受賞したのは、イランのエマド・アレエブラヒム・デコルディ監督の『A Tale of Shemroon』。テヘラン北部のシェムルーンで、弟のパヤルとともに、父親とふたりで暮らしている若い青年イマンが、母の死をきっかけに、荒んだ生活から抜け出そうとするドラマ。カンヌなど三大映画祭で上映されても遜色ないほどの見応えがあった。

 

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以下、審査員賞は、Cristèle Alves Meira監督(ポルトガル)の『Alma Viva』とMaryam Touzani監督(モロッコ)の『The Blue Caftan』、監督賞は、カルメン・ジャキエ監督(スイス)の「Thunder」。最優秀女優賞は、アンソニー・シム監督(カナダ)の『Riceboy Sleeps』に主演したチェ・スンユン、最優秀男優賞は、マクブル・ムバラク監督(インドネシア)の『Autobiography』に出演したアルスウェンディ・ベニング・スワラが受賞した。

 

公用語がフランス語であるため、日本からは気軽に参加を進めるにはハードルが高いが、引き続き、注視したい映画祭のひとつであることは間違いない。

text: Atsuko Tatsuta

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