「エミリー、パリへ行く」2、またもやパリジャンからツッコミの嵐。

Culture 2022.01.23

「エミリー、パリへ行く」新シーズンがNetflixで配信されている。フランスでは、シーズン1と同様、現実離れしたステレオタイプの連続になかば呆れ気味の視聴者によるツイートが後をたたない。

EIP_201_Unit_00013R.jpeg「エミリー、パリへ行く」シーズン2に出演するリリー・コリンズ。photo : CAROLE BETHUEL/NETFLIX

「ハッシュタグ#EmilyInParis2を始めました。このドラマを見ると、私もパリで暮らして働きたい!と思ってしまいます。おっと、私はすでにパリに暮らしているんだった」。こうしたコメントを筆頭に、昨年12月22日にNetflixで配信開始されたダレン・スター監督による「エミリー、パリへ行く」シーズン2を見たネットユーザーが、SNS上に多くのコメントを投稿している。

シーズン1では、マーケティング会社に勤務するエミリー・クーパー(リリー・コリンズ)がパリに赴任。仕事上の失敗、恋、波乱含みのパーティーまで、数々のハプニングに見舞われる新生活を描いた。

そもそもこの2020年に公開されたシリーズ第1弾からして、荒唐無稽なステレオタイプが満載だった。ゴミひとつないパリの街、路上生活者の気配すらない街角、「メイド部屋」というわりに広々としたエリミーのアパルトマン。モンマルトルで買ったクロワッサンを食べながら、数km離れたチュイルリー公園でジョギングをするエミリー。人は間違いから学ぶものだが、どうやらダレン・スターは批判など気にも留めないようだ。

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めちゃくちゃな地理感

まずはシーズン2の最初のエピソードで最も目に余る点を見てみよう。週末旅行に出かけることになったエミリーは夜行列車の寝台車でサントロペへ向かう。通常ならリヨン駅から発つはずだが、エミリーが出発するのはパリ東駅。旅の始まりからしてさっそくちょっとずれている。そして列車内の様子も、古きよきTGVというより、まるでオリエント急行。さっそく、農村問題担当副大臣ジョエル・ジローが皮肉まじりのツイートで指摘している。

 

「エミリー、夜行列車でサントロペに行く、というのはちょっとやりすぎかもしれない…夜行列車なら、アルプスの真っ只中で目が覚めたり、全面改装された車両で旅ができるということのようだ!」

@PonterluXはこんなコメントを寄せている。「『エミリー、パリへ行く』シーズン2の列車に大ウケ。アメリカ人はフランスに行ってoui.sncfのサイトで予約すればオリエント急行に乗れると思ってしまう。それで普通の列車に乗せられたら、興奮も一気に冷めるね」

@tygryskxのように、地理的に非現実的な箇所を指摘しているネットユーザーもいる。「ちょっと待って。『エミリー、パリへ行く』で地図にあったのはトゥールーズのポンヌフ。おかしすぎる」。ちなみにシーズン2はパリとサントロペが舞台。トゥールーズはまったく関係がない。

地理的におかしい点はまだある。たとえばミンディと彼女のバンドがコンサートをするレストラン。エチエンヌ(ジン・スワン・マオ)は「ベルヴィルのイケてるクラブ」というが、スクリーンの地図に表示されているのは、パリから3kmほど離れた南東の街アルフォールヴィルにある、セーヌ河沿いにそびえる有名なレストラン「シナゴラ」にほかならない。

@justesublimeのように、エミリーの旅行先のサントロペも実は別の町だと指摘する人たちもいる。「Netflixさん、サントロペって本当? むしろヴィルフランシュ=シュル=メールじゃないの?」

昨年9月、Netflixは「サントロペで会いましょう」と書かれた絵葉書の画像を投稿して新シーズンの公開を発表した。ところが、この絵葉書の風景はアルプ=マリティム県のヴィルフランシュ=シュル=メールで、サントロペのあるヴァール県ではないという。

新シーズンの最初の2話でエミリーが滞在するサン=ジャン=カップ=フェラのグランドホテルは、サントロペから車で2時間(道路がそれほど渋滞していなければ)かかる場所にある。

 

「私に見えるのはむしろ、『エミリー、サン=ジャン=カップ=フェラに行く』だよ」
リツイートされているのは、NETFLIXの告知ツイート。「人生にはパリだけじゃない。サントロペもある!」

 

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フランス人と仕事

シーズン1を見たフランスの視聴者は、自国のオフィスで心置きなく煙草を吸える(1991年にエヴァン法が制定されたにもかかわらず)ことを知ったが、彼らがシーズン2で新たに知ったのは、フランスでは週末に働くのは固く禁止されているということ。「#EmilyInParis2で知ったんだけど、週末に働くのはフランスでは違法なの?!  そういうことならちゃんと教えておいてよ」と書いているのは@Xav_Stonem。

また、シーズン2によると、フランス人は10時30分にようやく働きはじめ、昼の休憩は延々と2時間近く取り、もちろん昼からアルコールはふんだんに味わうという。

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実際のパリ

「『エミリー・イン・パリ』の新シーズンを見て知ったのは、たとえパリのど真ん中でも、何気なく道端にテーブルを出して、友だちをディナーに招待できること」。@hortense_crepinはエミリーの誕生日会のシーンについてこんなコメントを寄せている。ちなみに、誕生日会場となったパリ5区のエミリーのアパルトマン前の通りに人の姿はない。

古めかしいステレオタイプとして話題になっているのは、トイレの入り口に陣取る掃除係、ダム・ピピだ。シーズン2では、アシュレー・パークが演じるミンディがキャバレーでこの仕事に就くことになり、そこで出会ったミュージシャンのエチエンヌとブノワ(ケヴィン・ディアス)から路上ライブバンドのメンバーにならないかと勧誘される。「ダム・ピピからスターミュージシャンになるなんて、#EmilyInParis2でしかありえない!現実はまったく違う。僕がクラブで出会ったダム・ピピはみんな、くわえタバコの50代女性で、2ユーロを渋ろうものなら便意をこらえたくなるような目で睨まれたもんだ」と@Laurenpettorruはツイートしている。そんなダム・ピピも、いまや探しても見つかりにくい、レアな存在だ。

 

「『エミリー・イン・パリ』の新シーズンを見て知ったのは、たとえパリのど真ん中でも、何気なく道端にテーブルを出して、友達をディナーに招待できること」

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フランス流恋愛

「ペール・ラシェーズでデートって、パリジャンの定番なの? それともただのステレオタイプ?? #EmilyInParis2」と疑問を投げかけているのは@Blss_bee。エミリーの誕生日に同僚のリュック(ブリュノ・グリ)がペール・ラシェーズ墓地でランチをしようと彼女を連れ出す。ペール・ラシェーズはもちろん、死や生、そして愛について瞑想するのにもってこいの場所というわけ。ただアメリカ人のエミリーは、恋愛についてはどうも『ロスト・イン・トランスレーション』状態に陥りがちだが。

 

「ってことは、ペール・ラシェーズの墓地でデートするのは、パリジャンの定番、それともステレオタイプ???」

シリーズのなかでフランス人はかなり自由な恋愛観を持った国民として描かれている。どうやらフランス人はとてもオープンな心の持ち主で、不倫や三角関係のリピーターなのだそうだ。その典型がマーケティング会社サヴォワールのボス、シルヴィ(フィリピーヌ・ルロワ=ボリュー)。彼女は既婚者だが、アバンチュールを楽しみ、若い男の子をとっかえひっかえ。半ば別居中の夫も事情を知った上で了解している。

そしてエミリーとカミーユとガブリエルの三角関係は、映画『突然炎のごとく』よろしく、長いモノローグをつないだ白黒映像のシーンで描き出される。フランス映画のあらゆる傑作がそうであるように。

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ハマムでは裸

ツイーターが失笑しながら指摘したくなるほど、ステレオタイプの数は実に多い。ざっと挙げると、エミリーがジョギングやミンディとおしゃべりをするときに行く公園はいつも人がいない。人影のほどんどない真夏のヴォージュ広場なんて、まるでSFだ。また第4話に登場するポロネギ生産者たちのスタイルが極端に「田舎」じみている点も目を引く。

第3話のハマムのシーンでも、フランスの女性たちが素っ裸で浴場を利用しているが、実際には水着を着用している人がほとんど。要するに、新シーズンもパリとパリジャンにまつわるステレオタイプが満載というわけだ。そしてそれを揶揄するパリジャンも相変わらず。

パリジャンたちも、超ファンタジー化されたパリの姿も含めて、ちょっと後ろめたい気持ちになりながらシリーズを見ることに喜びを感じているのかもしれない。

text : Alice Marcher (madame.lefigaro.fr)

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