アカデミー賞候補『コーダ あいのうた』主演女優エミリアに聞く。

Culture 2022.01.26

聾の両親と兄とともに暮らすルビー・ロッシは、家族で唯一の聴者であるため、子どもの頃から家族の“通訳”を務めていたが、ある日、才能を認められたことから歌手を夢見るようになる……。サンダンス映画祭において、観客賞、監督賞を含む史上最多の4冠に輝いた『コーダ あいのうた』で主役に大抜擢され、“第二のエマ・ワトソン”と期待される新進女優エミリア・ジョーンズにインタビュー。

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エミリア・ジョーンズ Emilia Jones/2002年、イギリス生まれ。父は、歌手やTV司会者で知られるアレッド・ジョーンズ。2011年、TVシリーズ「ハウス・オブ・アヌビス」でデビュー。『パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉』(11年)で映画初出演後、子役として幅広いジャンルの映画に出演。20年、Netflixオリジナルシリーズ「ロック&キー」の主演抜擢で注目される。

――『コーダ あいのうた』は、大ヒットしたフランス映画『エール!』のアメリカ版リメイクですね。どのような経緯で主役を勝ち取ったのですか?

フランス版に主演していたルアンヌ(・エメラ)とは仲もいいんです。そうこうしているうちにリメイクの話があり、オーディションを受けました。とにかく物語が素晴らしいし、ロッシ家が魅力的でしたね。どこの家族でもそうであるように、どこか機能不全的なところもあるけれど、みんな思いあっていて温かい。オーディションには、4つの台詞のあるシーンの演技とフリート・ウッドマックの「ランドスライド」を歌っている映像を送りました。その時点では、実はこの曲は映画の最後に入る予定だったんです。その後、監督のシアン・ヘダーから、ルビーというキャラクターについて話を聞いて、どうしてもこの映画に参加したいと思うように。見よう見まねで手話をしている映像も送りました。当時は手話はできなかったし、歌のレッスンを受けたこともなかったけれど、出演が決まってから撮影までの9ヶ月間で必死に特訓を受けたんです。

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――歌も本格的なレッスンを受けたことがなかったというのは驚きですね! 素晴らしいパフォーマンスでした。

父がミュージシャンだったので音楽や歌があふれていて、家ではよく歌ったりしていたのですが、きちんとしたレッスンは受けたことがなかったんです。学校で1学期だけ、合唱部に所属していたことはあったけれど(笑)。とにかく、ルビー役に必要な歌の技術はなかったんです。不安はあったけれど、良いチャレンジだし、ここで学ぶことが自分の領域を広げてくれると思いました。未知のことに挑戦するのは好きなんです。そんな私を監督が信じてくれたこともうれしかったですね。

――ジョニ・ミッチェルやデヴィット・ボウイ、マーヴィン・ゲイなど、若い世代にはなじみのない1960〜70年代の曲が登場しますよね。

私は、古い曲が好きなんです。ジョニ・ミッチェルやマービン・ゲイも、もともと大ファンでした。実はフリート・ウッドマックの「ランドスライド」も、ギターで弾いて歌っていたんです。優しい良い曲ですよね。でもリハーサルで渡されたのは、エタ・ジェームスやアレサ・フランクリンなど、いわゆる歌い上げ系の難しい曲ばかり。17歳で声もまだ大人になりきっていなかったので、どうしようと悩みましたね。でも歌のシーンは順番通りに撮ったので、ルビーと一緒に私も上達していくことができました。成長の過程を見せられたのはうれしいですね。

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――この作品では、演技、歌、手話など、通常よりも現場でやらなければいけないことが多かったと思いますが、どんなふうにこなしていたのですか?

そういう意味では、映画に出演すること自体が大きな挑戦だったといえます。でも、それが同時に醍醐味だったんです。間違いなく、覚悟を決めなければできない役だったから。いちばん大変だったのは、歌いながら手話も一緒に行うことでしたね。最初に(ジョニ・ミッチェルの)「青春の光と影」を歌ったシーンは緊張しました。歌もライブで収録しているので、上手に歌えても手話が完璧でなければ、そのテイクは使えません。すべてが揃わなければならなかったことは大きなプレッシャーでした。

――聾の家族の設定ですが、親離れの普遍的な物語でもありますよね。あなたも親と葛藤した経験はありますか?

私は小さい頃から演技をしているので、ルビーの家族とはまったく違って、自分のアイデンティティを作らなければならないという考えがなかったんです。早く大人にならなければならなかったというのはあるけれど。家族とは仲が良いし、いまでも仕事が入っていない時は、実家に帰って家族と生活をしています。この作品で私が好きなのは、家族に対するラブレターであるところ。それから成長の物語だという点です。若い女性が、自分が何者であるかということを知っていく過程に共感しますね。

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――耳の聞こえない役には聾の俳優をキャスティングするという方針が採用されていますが、母親役のマーリン・マトリン、父親役のトロイ・コッツアー、兄役のレオ・ロッシとはどのようにコミュニケーションをとったのですか?

準備期間の9ヶ月間は、アメリカ手話だけでなくろうカルチャーに関することを学びました。忍耐強く教えてもらいましたね。現場でもコーディネーターが入っていろいろ指導してくれたのですが、家族役の俳優とのコミュニケーションをリアルにするために、私には通訳がつかなかったんです。でも特訓の成果もあり、撮影に入った時点で、予想していた以上に手話でコミュニケーションがとれるようになっていました。マーリンたちも手話を教えてくれたし、両親のように守ってくれたので、安心して本当の家族のように過ごしていました。今回、こういった作品には、聾のコーディネーターやコンサルタントが大事であると改めて感じましたね。聴者に理解できないのは、手話だけではないんです。彼らの生活や文化にも、きちんとリスペクトすることが大切だと身をもって知りました。

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海に近い町で暮らす、高校生のルビー。両親と兄はろう者で、家族の中でひとりだけ耳が聞こえる。憧れのマイルズと同じ合唱クラブに入ったルビーは、歌の才能が開花。都会の名門音楽大学を強く勧められるが、歌声が聞こえない両親は大反対し……。サンダンス映画祭で観客賞をはじめ4冠を達成し、賞レース席巻中の話題作。
『コーダ あいのうた』
●監督・脚本/シアン・ヘダー
●2021年、アメリカ映画
●112分
●配給/ギャガ
●TOHOシネマズ新宿ほか、全国にて公開中(バリアフリー字幕版も上映)
https://gaga.ne.jp/coda

text: Atsuko Tatsuta

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