人種、偏見、国境......今月最注目の、劇場上映作3選!
Culture 2022.02.09
偏見に抗った名歌手の、バックステージ秘話。
『ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ』
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不世出のジャズ歌手ビリー・ホリデイを若すぎる死に追いやったのは、ドラッグ癖という自身の弱さゆえ。そんな定説を覆し、政府の密命を受けたFBIの麻薬捜査局が彼女を緩慢な死に陥れる謀略が照らし出される。発掘された新事実を積み上げて。1940年代に胎動した人種差別撤廃の機運の芽を摘む、標的となるビリー。黒人連邦捜査官が彼女を恋い慕うのは真実か、身辺情報取得のおとり捜査のひと芝居か? 張り詰めた中、当局が厳禁したプロテストソング「奇妙な果実」を南部の劇場で血を吐くようにビリーは歌う。名シーンだ。アンドラ・デイがビリーに憑依し、ゴールデングローブ賞(ドラマ部門)主演女優賞を受賞。
監督/リー・ダニエルズ
2021年、アメリカ映画 131分
配給/ギャガ
2月11日より、新宿ピカデリーほか全国公開
https://gaga.ne.jp/billie
新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。
最新情報は各作品のHPをご確認ください。
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歌と踊りを街に解放した、ミュージカル革命の再臨。
『ウエスト・サイド・ストーリー』
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再開発を控えたマンハッタンの一角で、ヨーロッパ系とプエルトリコ系の若者集団両派が不平と憎しみを募らせる。そこに、分断を告発する力を秘めたトニーとマリアの純愛劇が、暴発寸前の抗争劇の渦の中から、泡立つように出現する。華やいでは翳るその緊張感と、歌やダンスと連携したドラマ×カメラの流動性に、スピルバーグの才気と野心が迸る。様式美と跳躍美を誇った1961年版の映画とも趣を変えて。主題曲「Tonight」の場面は、潜入者トニーがバルコニーの床格子から息せくようにマリアを見上げ、初恋の熱がたぎる。名曲「America」では、移民の国への失望と夢を男女が応酬し合う歌と群舞が、街角を祝祭空間に!
監督・製作/スティーブン・スピルバーグ
2021年、アメリカ映画 157分
配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン
2月11日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国順次公開
www.20thcenturystudios.jp/movies/westsidestory
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無情な国境線が綾なす、夜と朝、闇と光の民衆誌。
『国境の夜想曲』
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前2作でヴェネツィアとベルリンの最高位に立った世界的ドキュメンタリー作家が、自国の圧政や他国の侵略、急進勢力のテロにさらされてきたアラブ国境地帯の人々を3年の時を費やして撮影。通訳も伴わないひとり旅をとおしてまずは生身の信頼関係を育み、その体感で対象との距離やカメラ位置を掴んでゆく。廃墟の牢獄の壁を撫で、そこで殺された息子の気配と血潮を、昔痛めたお腹に感じ取ろうとする老婆の苦悶と忘我は神々しいほど。鮮烈な挿話群の中には、繰り返し現れる日常的な逸話も。特に、父亡き家で幼子6人を養うため、狩猟の助手として毎朝早くに日銭を稼ぐ少年の、心細くも意思を宿した瞳が忘れられない。
監督/ジャンフランコ・ロージ
2020年、イタリア・フランス・ドイツ映画 104分
配給/ビターズ・エンド
2月11日より、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開
https://bitters.co.jp/yasokyoku
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*「フィガロジャポン」2022年3月号より抜粋
text: Takashi Goto