まさか佐藤浩市主演作と上映されるなんて。短編映画企画「ミラーライアーフィルムズ」に参加!
Culture 2022.02.19
長谷川安曇
私はニューヨーク在住のライター/プロデューサー/ディレクターで、雑誌や新聞にカルチャー系の記事やインタビューを執筆する傍ら、ブランドのキャンペーンやミュージックビデオの撮影プロデュースを手がけ、コマーシャルのディレクターとしても活動する。
いちばん好きなことはショートフィルムの制作で、これまでにニューヨークと香港で自主制作の映画を何本か撮ってきた。しかし、パンデミックが2020年の春に始まってからはすべての撮影がキャンセルになり、ロックダウンが厳しかったニューヨークで不安な毎日を過ごすなか、アジア系の人々へのヘイトクライムも増発し、どんどん心細くなっていった。何かしないとパンデミックに負ける気がする。先が見えない焦りは、いつしかクリエイティブへの欲求へと変わっていった。
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それは2021年の春。よく晴れた日の早朝だった。ブルックリンからロングアイランドへ週末旅行に行くべく、ベッドから起きてパッキングをしていた。ふと携帯を開くと、一通のメール。「ミラーライアーフィルムズプロジェクトの一般公募作品に選ばれました」……おおお!春のうららかな陽気と眠気が一気に吹き飛ぶほど、うれしかった。
「ミラーライアーフィルムズ」は、“変化”をテーマに、俳優や映画監督、ミュージシャンなど、総勢36名が監督した短編映画をオムニバス形式で4シーズンに分けて公開する試みだ。阿部進之介と山田孝之、映画プロデューサーの伊藤主税が「誰でも映画を撮れる時代」に、自由で新しい映画製作の実現を目指して、年齢や性別、職業、若手とベテラン、メジャーとインディーズの垣根を越え、切磋琢磨しながら映画を作り上げる。
シーズン1は2021年9月に公開され、第2弾となるシーズン2が2月18日から全国で順次公開されている。
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参加作品は、プロジェクトの発起人のひとり阿部進之介が初監督を務めるロードムービー「point」、ハリウッドでも活躍する紀里谷和明監督が山田孝之主演で描く「The Little Star」、若手俳優の志尊淳が共演経験のある板谷由夏主演で初監督に挑んだ「愛を、撒き散らせ」、柴咲コウが貧困や孤立を題材に描いた初監督作「巫.KANNAGI」、『幼な子われらに生まれ』の三島有紀子監督が佐藤浩市主演で撮った私小説的な作品「インペリアル大阪堂島出入橋」、『タイトル、拒絶』の山田佳奈監督が母と息子の心の旅路を綴った「煌々 go on a picnic」。
志尊淳が1年以上をかけて作った意欲作「愛を、撒き散らせ」は、無縁社会に生きながら繋がりを求めてもがく人々を描く。命に対する価値観は人それぞれで、その考えは他人に強要するものではない」と志尊。表現の余白にこだわったという。
阿部進之介が監督したロードムービー「point」は、言葉の通じない外国人青年と老年の男の年齢や国籍を超えた交流を描く。サンディー海、中本賢、内田朝陽が出演。
佐藤浩市が出演する三島有紀子監督の「インペリアル大阪堂島出入橋」。監督自身の思い出の洋食レストランを舞台に在りし日の店を記録として残そうとした私小説的作品。
紀里谷和明監督「The Little Star」は愛する者を失った男をミラーライアーフィルムズのプロデューサーでもある山田孝之が熱演。妻役に松本まりか。
そして、選定クリエイター枠として一般公募から選ばれた柴田有麿監督作「適度なふたり」、駒谷揚監督作「King&Queen」と私の作品「Denture Adventure」の計9本で構成されている。
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19年のニューヨークで開催された映画祭で出会い出演してもらったジョイス・キオカムに連絡して、一緒に映画を作ろうと持ちかけた。色々な案を出し合ううちに、お互いの家族のおもしろい逸話をシェアするようになった。そこで生まれたのが「Denture Adventure」だ。
夫を亡くし孤独な日々を送るミセス・ワン。毎日金属探知機で「お宝」を探しては、彷徨う。ある日、ビーチで不思議な金歯に魅せられて、自分の歯にはめてみる。すると翌朝、彼女は25歳に若返っていた…。誰もが持つ変身願望や孤独をマジカルに描いたファンタジー。
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コロナ禍のニューヨーク撮影、その舞台裏。
2020年冬に制作を開始した時はパンデミック下でブロードウェイなどがすべてキャンセルになっていたこともあり、俳優への応募が殺到した。スコット役だけで約300人の応募があり、オーディションはズームで開催。ワクチン接種も始まる前だったのでミセス・ワンの家のロケーションを提供してくれる人は見つからず、私の自宅をセットにして撮影。友人が壁紙を貼ってくれ、デコレーションした。途中、家の大家に怒られ(後に和解)、ロケーションを急遽変更するなど紆余曲折もあったが、撮影は無事終了し、特にロフトパーティーのシーンは各俳優の演技が光り満足の出来だった。
ミラーライアーに応募したきっかけは、日本の友だちが教えてくれたこと。コンセプトやテーマが自分の作品にぴったりだったので、応募用により作品の完成度を上げるため、いくつかのシーンを再撮影した。締め切りが近かったので「もしこれに受かったらみんなを日本に連れていく!」とクルーを急かし、編集作業を完成させた。そんなことがあったので、作品が選ばれ上映が決まった時の喜びもひとしお。自分の作品が佐藤浩市出演の作品と一緒に上映されるなんて、夢にも思わなかった。私はこの初日舞台挨拶に合わせて一時帰国中。一線で活躍するアーティストらと一同じ舞台に立てることになって、とてもうれしい。
●監督/Azumi Hasegawa、 阿部進之介、紀里谷和明、駒谷揚、志尊淳、柴咲コウ、柴田有麿、三島有紀子、山田佳奈
●出演/板谷由夏、片岡礼子、駒谷由香里、佐藤浩市、サンディー海、柴咲コウ、しゅはまはるみ、ジョイス・ケオカム、山田孝之ほか
●2021年、日本映画
●121分
●配給/イオンエンターテインメント
●渋谷ユーロスペースほか全国にて順次公開
©2021 MIRRORLIAR FILMS PROJECT
https://films.mirrorliar.com
text: Azumi Hasegawa
長谷川安曇
東京出身、2004年からニューヨーク在住。フリーのライターとして活動しながら、映像制作にも携わり、キャンペーンやミュージックビデオのプロデュースとフィルムメーカーとしても活動する。www.azumihasegawa.com