ウィル・スミスの平手打ち、その行動の裏に隠された心理とは?
Culture 2022.04.03
3月27日、第94回アカデミー賞のステージでウィル・スミスがクリス・ロックを平手打ちにし、多くの人を驚かせた。臨床心理士がその状況を読み解き、俳優ウィル・スミスの頭の中で何が起こっていたのかを紐解く。
ウィル・スミスは第94回アカデミー賞でコメディアンのクリス・ロックを平手打ちにした。(ロサンゼルス、2022年3月27日) photography: REUTERS/Brian Snyder/Aflo
冗談が悪い方向に転じてしまった。3月27日、ロサンゼルスのドルビー・シアターで開かれたアカデミー賞の授賞式に、コメディアンのクリス・ロックが登壇した時の話だ。コメディアンは、会場にいたウィル・スミスの妻、ジェイダ・ピンケット・スミスについて、その刈り上げた頭がリドリー・スコット監督の映画『G.I.ジェーン』のデミ・ムーアの坊主頭に似ているとジョークを飛ばした。
脱毛症であるジェイダは憤慨して目を丸くしたが、夫のウィル・スミスの反応はまったく違った。彼はステージに上がり、コメディアンの顔を平手打ちし、「お前の口から俺の妻の名前を出すな!」と叫んだ。この暴力をどう解釈するか。精神病理学博士で臨床心理学者でもあり、著書『治療への道(1)』の著者であるサミュエル・ドックにフランス・マダムフィガロがインタビュー。
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——(マダム・フィガロ) 私たちは何を目撃したのでしょうか? 愛する人をばかにされ、傷ついた男性の反応なのでしょうか?
サミュエル・ドッグ:このジョークを聞いたとき、彼の中で何かが切れたのだと想像できます。この冗談は妻を傷つけ、それに彼は耐えられなくなった。個人的な感情と距離を取ることができなかったのです。言葉で反応できない時には、ジェスチャーがあります。彼はその時、攻撃的な衝動が強すぎて、相手を平手打ちしてしまったのです。
俳優という職業が、相当な精神的鍛錬を必要とすることを知ると、この反応にはいっそう驚かされます。ウィル・スミスのほんの数秒の間のこの衝動的な暴挙は、夫として、父親として、とりわけ若者にとって非常に強力なロールモデルとしての彼のパブリックイメージを粉砕してしまったのです。クリス・ロックに対抗した時、彼はそれを認識していたはずです。
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——冗談に対するこの物理的な攻撃は効果があったのでしょうか?
もちろん。身体は私たちの近代の中心的な対象であり、クリス・ロックはジョークを通じて、病気の身体を笑いものにしました。ウィル・スミスの目には、タブーを越えたと映ったのです。
しかし、すべてのタブーの裏側には、たいていの場合、詳しく述べられていない何かが存在するものです。クリス・ロックは、ジェイダ・ピンケット・スミスのアイデンティティを攻撃したのではなく、彼女の身体の特殊性を攻撃した。ウィル・スミスはそれに耐えられなかったのでしょう。その激しい反応は、彼自身の身体に対する解釈を問うものです。
このにジョークに反対したことで、彼にとっての身体とは、完璧で、華美で、弱点がないものだと解釈することができます。彼は、親密な理想を守りたいという自己愛的な衝動に駆られたのでしょう。
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——「愛があればクレイジーなことができてしまうものです」と、自分を正当化するウィル・スミス。この反応は、騎士道精神といえるのでしょうか?
これは愛の行為などではなく、ウィル・スミスはこのジョークによって屈辱を受け、コメディアンを平手打ちすることによって救いを求める必要があったのです。無関心でいることもできたのに、そうしませんでした。妻の意志を自分のものとして置き換え、あたかも妻が弱い生き物であるかのように扱って守りに入ったのだから、騎士道精神とはかけ離れた行為です。
ジェイダは目を丸くして、カメラに向かって冗談で笑っているのではないことをはっきりと伝えました。ウィル・スミスが平手打ちしたことで彼女の気持ちを無視し、さらにスポットライトを浴びせ、その結果、彼女を傷つけてしまったのです。
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——オスカーの観客たちは、衝撃を受け、怯え、難色を示す表情を浮かべていました......。
ただでさえ緊迫した情勢の中で、この平手打ちは心が崩壊した状況を表します。新型コロナウィルスのパンデミックやウクライナ戦争の後、人々は非常にもろく、傷つきやすくなっています。このアカデミー賞の授賞式は、文化、ともにいる喜び、分かち合い、ユーモアを称えることが期待されていました。このように暴力が登場するのは、これまで以上に社会が影響を受け、より一層緊迫していることの表れであり、非常に憂慮すべきことです。
どんな紛争も「暴力」によって解決することはできません。そうでなければ、強者に優先権を与え、文明の崩壊を引き起こすに等しいのです。
(1)Samuel Dock、「Les Chemins de la thérapie」、Flammarion社刊
text: Tiphaine Honnet (madame.lefigaro.fr), translation : Hanae Yamaguchi