「まさに究極の『変』」行定勲が『TITANE/チタン』に感じた芸術性。

Culture 2022.04.19

性の境界線を超越する、比類のない芸術的変質性。

『TITANE/チタン』

観たことがない、感じたことがないものに触れると、人はなんと表現していいかわからず「変」だと口にしてしまう。この映画は、まさに究極の「変」だ。しかし、芸術の域では称賛に値するオリジナリティが本作にはある。

物語は荒唐無稽だ。幼少期に交通事故に遭い、頭蓋骨にチタンを埋め込まれた少女アレクシア。大人になってダンサーとなった彼女は、モーターショーで車のボディの上で踊り、車に対し異常な執着心を抱き性欲を露わにする。男と、女と、そして金属とまぐわいながら、アレクシアは連続猟奇殺人を犯す。逃亡の果てに屈強な消防士のヴィンセントに出会い、彼の10年前に行方不明になった息子になりすまして、ふたりの奇妙な生活が始まる。

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© KAZAK PRODUCTIONS – FRAKAS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINEMA – VOO 2020 消防隊という男くさい場の権化に見えて、その変異種みたいな「隊長」が後半のキーパーソン。息子に化けたアレクシアとの愛の交感が生むのは、呪いか啓示か祝福か?

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女性監督が世界中の映画祭を席巻しているが、その中でも最もアブノーマルな個性で突出した才能を見せつけるジュリア・デュクルノーが只者ではないことをこの映画は証明した。メッセージ性バリバリのスパイク・リーが率いるカンヌ国際映画祭の審査員団がパルムドールに認めたまさかの映画だ。誰もがジェンダーを意識した映画を作るようになったが、性の境界線をとんでもない発想で凌駕してくる演出は、女性にしか耐えられないような痛みを可視化し、限界まで俳優の肉体と精神を追いつめ美しく昇華させる。クローネンバーグの『クラッシュ』や塚本晋也の『鉄男』 などを想起させる理解を超えたその芸術的変質性は、時に常人にはついていけず滑稽に見えてしまう恐れもあった。しかし、この映画はアレクシアが直面する究極の事態においても彼女の心情を実感させ、狂気的でありながらも理解できる領域からはみ出すことなく、むしろ終盤に向かうにつれ女の複雑な心情に共感してしまうような、見事なラブストーリーに結実させていくところが傑出しているのだ。

『TITANE/チタン』
監督・脚本/ジュリア・デュクルノー
出演/ヴァンサン・ランドン、アガト・ルセルほか
2021年、フランス映画 108分 
配給/ギャガ
4月1日より、新宿バルト9ほか全国にて公開
https://gaga.ne.jp/titane

新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。
文:行定 勲/映画監督
2002年、『GO』(01年)で日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞。『世界の中心で、愛をさけぶ』(04年)では興行収入85億円の大ヒットを記録。22年は『リボルバー・リリー』(23年公開予定)で自身初のアクション映画に挑戦する。

*「フィガロジャポン」2022年5月号より抜粋

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