お金を稼ぐことより、子どものそばにいる時間を望む男性たち。

Culture 2022.05.05

フランスで、子どもの面倒を見るために仕事のスケジュールを組み、日頃から子育てに参加したいという新世代の父親たちが現れている。母親にとっては嬉しい動き、そして、ビジネスの世界には新たなバランスをもたらしている。フランスのマダム・フィガロがリポート。

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子どもの面倒を見るために仕事のスケジュールを組み、日頃から子育てに参加したいという、新世代の父親たちが現れている。photography: Getty Images

インタビューのために35歳のアレクサンドルが指定した時間に電話をすると、思いがけないゲストが出現した。6カ月になる彼の赤ちゃんだ。「小児科で診てもらったら、両耳とも中耳炎に罹っていて。子どもが寝ている間に話しましょう」。そう話す彼は、その日は子どもの看護のために休暇を申請したという。母親の方は仕事に出ている。ごく当たり前のことといった様子だ。

大手グループ企業の上級管理職であるアレクサンドル・マルセルは、パパ・プリュムの名で知られるブロガー。出産時の父親休暇の期間延長を実現させた立役者の一人だ。「いまの父親はお金を稼ぐことより、あらゆる機会を逃さないよう時間を稼ぐことを求めています。娘が立っちしたとか、息子が初めておしゃべりした、とパートナーから聞かされるのではなく、自分もその瞬間を経験し、語りたいと思っている」

睡眠時間が460時間減り、取り替えたオムツの量は20kg、ベビーカーを押した距離は40km......。アクレサンドルは娘の誕生を機につけ始めた育児日誌を、2021年1月に出版した(『Je ne m’attendais pas à ça(まさかこんなことになるなんて)』ラルース出版刊)。子どもにミルクを飲ませるために、ズーム会議を欠席するのをためらう男性たちのコンプレックスを取り除きたかった。アレクサンドルは自分が子煩悩な父親になるのは予想していた。しかし、まさか自分が子どもがいない寂しさを紛らすためにぬいぐるみの匂いを嗅いだり、車の中で同じ童謡を5時間歌い続ける(「ぶらんこに乗るゾウさん」を1671回......)なんて思いもしなかった。そのうえ、法律を変えるために現役大臣たちに会うことになるなんて。

フランスでは、2021年7月1日に出産時の父親休暇が14日から28日に延長された。「父親が家庭内でしかるべき位置を占めないかぎり、家父長制から脱することは絶対に不可能。それが僕の信念です」と彼は言う。「父親たちに手段を提供するだけでなく、やる気も与えなければ。職場でロールモデルが果たす役割はとても重要です」

緊急メールが入ろうが、電話がかかってこようが、何があろうとアレクサンドルは17時30分に退社し、娘のアンブルを学校に迎えに行く。「オープンスペースの同僚たちの視線に耐えるのは必ずしも簡単ではありません。それなりの姿勢を見せることが必要です。自分なりに自分のレベルで、ものごとを動かそうと努めています」

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注目される管理職

最上層部のハイ・パフォーマー・ダディたちの間でも、事態は変化しつつある。ツイッター社の新たな最高経営責任者に就任したパラグ・アグラワルは第2子の誕生にあたり「数週間」休暇を取ると発表した。連邦レベルで育児休業を規定する法律が存在せず、大半の父親たちが10日以下の休暇しか取らないアメリカにおいて、強力なシグナルだ。

フランスでは700人近くの雇用主が「親憲章」を批准しており、「unmoisminimum(最低1カ月)」「equilibreProPerso(仕事とプライベートのバランス」「50-50」などのハッシュタグを掲げ、SNS上で自ら子育ての話題を取り上げるマネージャーもいる。彼らは子どもに離乳食を与えるために、フルスピードで駆け抜けてきたキャリアをスローダウンすることも辞さない。

「大企業ではこうした動きが広がりを見せています。子どもの学校休暇に合わせて休暇を取得する、と雇用契約に明記する管理職もいます」。こう指摘するのは「職場における時間のバランスと子育て支援監視団体」代表のジェローム・バラランだ。「育児に積極的に取り組む父親としての姿を見せ、子どもの写真を投稿し、保護者会に出席するために仕事を休む。そういう幹部は、人間的で、誠実で、共感力があるというイメージを与える。いま、社会が強く求めている資質です」

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可能だと証明する

時代の変化を象徴するように、LinkedInはいまやビジネス上のネットワーク作りだけでなく、プライベートな報告にも利用されている。ブイグ・トラボー・ピュブリックのビッグ・データ副部長を務めるニコラ・ジャニコ=ゴンドワンは、昨年12月に第2子が誕生した際に、ゆりかごの中ですやすや眠る赤ちゃんの写真を公表した。投稿記事のなかで36歳のエンジニアは「素晴らしい」妻と自分の会社に宛てて、感謝の言葉を述べている! 「ブイグ・トラボー・ピュブリックは、マクサンスが生まれる前にさっそく託児所を見つけてくれました」と彼は書いている。「また父親休暇延長期間中も給与が支給されたので、積極的に妻をサポートし、より公平なやり方で男女平等を目指すことができた」

幸せいっぱいのパパは生殖補助医療に関わるタブーも取り払った。「勤務時間にも柔軟性が認められ、体外受精のために通院する妻に付き添うことができた」

彼の投稿は20万近い閲覧数を記録した。「これほど反響があるなんて思いもしなかった!」とニコラは語る。「自分のチームの才能のある仲間たちに、マネージャーとして、こういうことが可能なのだと証明したかった。プライベートと仕事を分けるカーソルの位置は固定されておらず、フレキシブルに設定できるのだと。社会が進歩することで、プライベートの領域でもビジネスの世界でも親になることに誇りを持てるようになる」と強調する彼は、ふたりの息子を持つ父親。長男を学校に迎えに行ったり、午後に小児科に行くことも可能な勤務形態を望んでいる。

建設・公共工事という男性の比率が高い業界において、彼の証言は男女平等推進への取り組みを加速させる一撃となった。「30~40代の男性たちの精神構造に変化の兆しが見られます。彼らは新米の父親としての役割を十分に果たしたいと願っている」とブイグ・トラボー・ピュブリックで能力・研修・開発部長を務めるドミニク・テサンディエは指摘する。「私たちは彼らから言葉を引き出そうと努めています。私たちには自分の体験を語ってくれるアンバサダーが必要。彼らはポジティブな効果をもたらし、インセンティブを与えます。私たちが実施する子育て支援策をサポートしてくれる存在です」

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アクティブな父性

彼らの特徴は? 定番スタイルは、スーツと三つ折りベビーカーのコンボ。読む本はビジネス書と『ペッパピッグ』。分刻みでスケジュールが書き込まれた予定表には、経営会議の後に、16カ月の娘の三種混合ワクチン(はしか、おたふくかぜ、風疹)の追加接種の予定がメモされている。

アクティブな父親像を体現するこうした新世代アンバサダーたちは、キャリアとプライベートの両立はカップルで取り組む問題だと考えている。フランス国立統計経済研究所の調査によると、今でも女性の2人に1人が子どもの誕生後に働き方を変えている。男性の場合は9人に1人だ。また女性の収入は出産から5年後に平均25%減少している。こんな状況を阻止すべく、新世代の父親たちはパートナーの精神的負担を減らすために仕事のスケジュール管理をやりくりしている。

子育てに積極的に関与するのは彼らにとって自然なことのようだ。彼らは自分をスーパーヒーローと見なしてはいない。2021年9月に労働省に提出された「子どもの生活と親の生活と企業の生活のバランス」に関する報告書の中で、社会学者のジュリアン・ダモンとシュナイダー・エレクトリック・ヨーロッパ最高経営責任者のクリステル・エドゥマンはこう強調している。「最近よく聞かれる表現は“ロールモデル”というものだ。もともとは社会学の用語で、共同体のメンバーの行動様式に影響を及ぼす手本となる人物を指す」と強調している。いま期待されているのは父親側の動きだ、と著者たちは力を込める。「社内で幹部層が実践することは、指針を与えることにはならなくても、全体のムードに影響を与える。特に彼らの父親としての選択の仕方は、企業文化の変革を助けることになる」

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強力なモデル

今朝、トニー・コクアルはロレアル本社に10時30分に出社した。「息子を医者に連れて行った」と明かす彼は、2022年2月1日にロレアル・フランスの一般消費者向け製品開発部門の人事部長に就任したばかりだ。統括部門の社員1千人に向けてビデオ会議で就任挨拶をした際、30代の彼は最も重要なことから話し始めた。「まず最初に、自分は幼い男の子の父親で、そのことをとても誇りに思っていると言いました」とトニーは語る。「僕がどういう人間かを明確に伝えるためです。見せてと言われてもいないのに自分の子どもの写真を人に見せたがる、僕はそういう父親のひとりです!」

推進力と影響力を持つこの新米パパは、家庭にエネルギーを割くことは、決して仕事の妨げや、キャリアや転職のブレーキにはならないことを証明したいという。2017年にロレアルに入社したトニーはこれまで、カナダでのポストをはじめ、複数の役職についてきた。

2020年12月31日にガスパールが誕生し、会社から提案された6週間の夫婦出産休暇を取得。いまは少なくとも週に2回は保育園への送り迎えができるよう仕事のスケジュールを組んでいる。「自分のようにしなさいと男性社員を説得するつもりはありません。ただ、こういうことも可能なのだと彼らに身をもって示したい」と彼は言う。「父親であろうが母親であろうが、16時に退社するときに、“半休を取るの?”と言われなくてすむように」

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“こうあるべき”という思い込みから自由になる

親であることに誇りを持つ上級職員の育児への熱意は、オープンスペースに波及する。彼らは未来の父親たちにとってインフルエンサーの役割を果たし、インクルーシブ・マネージメント推進のための人事部の施策考案(18時以降の会議の廃止、テレワーク)に参加し、自分の経験を語ることで「ロビー活動」を行ってもいる。

双子の誕生を前に、嵐の到来を予感したパスカル・ヴァン・ホールヌは「とても素晴らしい会社」の「とてもいいポスト」を手放し、育児コンサルタントに転身した。ブログ「Histoires de papas(パパたちの物語)」創設者の彼は、さまざまな企業で講演を行なう。「いつも飛行機で各地を飛び回っている典型的な上級管理職から、父親という役割と仕事のどちらにも満足している人間へ転換しました」と彼は語る。「男女の賃金格差や産後女性のキャリアダウンといった問題を是正するためには、男性たちの声を解放して、テーマに具体性を与える必要があります」

2月17日、パスカルは診療予約プラットフォームのドクトリブが協賛する「仕事とプライベートの両立に悩む親たちをどう援助するか」と題されたウェブセミナーで共同司会を務めた。スタートアップ企業からキャタピラーのフランス代理店まで、パスカルは講演先の企業でメッセージを発信する。「自分が憧れる父親になっていいのです!」と。「子育ては母親の仕事と考える同僚や上司の間で伝播する“こうあるべき”という思い込みから自由になりましょう。父親といえば、仕事、セキュリティ、男らしさを連想するステレオタイプと私は闘っています。長い間、男たちはキャリアにエネルギーを集中させるべきと言われてきました。でももしプライベートにしっかりコネクトすることで、仕事のパフォーマンスが向上し、仕事をもっと楽しめるとしたら?」

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より公平な社会

トリスタン・シャンピオンは、正直なところ自分に突きつけられた挑戦状に動揺したという。彼が育児休暇50/50の伝道師となる前の2017年5月、パートナーは落ち着き払ってにこやかに彼にこう言った。「仕事だけが人生ではないわ。あなたも世界中のすべての女性たちと同じようにしてね!」

マーケティング部門管理職のトリスタンは切羽つまった気持ちになった。妻の母国であるノルウェーに移住した彼にとって、妻の言葉に従うしかないのは明らかだった。ノルウェーでは、父親の70%が子どもの面倒を見るために数カ月間休職する。「5カ月間、僕ひとりで赤ちゃんと?」フランス男のトリスタンは最初は不服だった。コーヒー関連の国際企業に勤務する彼は自分のキャリアのことも心配だった。しかし最終的には折れた。

37歳のトリスタンは、自らの経験をもとに「男らしさの最後の印としてあご髭を蓄えつつ、女性と同じように母親となったバイキングのパパたちへのオマージュ」として、ブログ「poilu et poilant Barbe à papa(髭面のおかしなバーバパパ)」を開設し、その後『La Barbe et le Biberon(ヒゲと哺乳瓶)』(マラブー出版)と題した物語を上梓した。

彼は日々の子育てについて語る。5時に起床し、子どもにご飯を食べさせ、寝かしつけ、慰める。娘のノラとの強い愛の絆、子どもたちが成長する姿を見る贅沢......。現在、トリスタンは職場に復帰し、家族とともにスイスのローザンヌに引っ越した。彼はそこで重要なポストに就いている。だからといってアンバサダーの任を退いたわけではない。

いまや3人の子どもの父親である彼は、ディズニー、イプソス、BNPパリバといった大企業に請われて講演を行い、ノルウェーの恵まれた環境での子育ての顛末を語っている。「僕の話から刺激を受けてくれるに違いないと思っています。誰にとっても他人事ではない話ですから。国際企業で働く管理職が“彼がやったんだから、自分でもできるんじゃないか”と考えてくれたらいい」とトリスタンは話す。「父親として子どもとともに過ごす喜びについてよりも、男女平等について話すことに時間を割くようにしています。より公正な社会作りに貢献するためには、ひとりで子どもの世話をするために数カ月休職するよりもっと大変なことがあります! 僕は男性性と責任という二つの概念を一括りに捉えて、男性たちにこう問い掛けています。“卑怯者になりたいか、それとも責任を負う男になりたいか?”と」

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すべて分担する

フランスでは、いまや10人に7人の父親が出産休暇を取得している。しかし育児休暇を取る父親は1%以下だ。依然としてブレーキは残っている。心理的ブレーキ、経済的ブレーキ(完全育休の場合、支給される給与は月399ユーロ)、役職序列に関わるブレーキ。

ピエール=エドゥアール・バタールは「かなり恵まれた」立場にあると自覚している。クレディ・ミュチュエルの中央機関である全国連合会の会長を務める彼は、息子の誕生時に3カ月間の休職を申請した。理事会も彼の要望を支持してくれた。

「夫婦で時間をかけて話し合いました。子どもは欲しいけれど、プライベートと仕事のバランスを取りたいというのが妻の要望でした。妻から“あなたは私に何を保障をしてくれるの?”と聞かれました」と彼は語る。「僕たちはすべて分担する、何もかも50/50にすることに決めました。僕も妻の産休と同じ日数だけ休暇を取りました」

「素晴らしい」体験だとピエール=エドゥアールは社内でもアピールしている。「この選択は間違っていないという確信があったので、僕はこの選択に二重の政治的メッセージを込めました。まず、責任のある役職に就いている男が子どもが生まれるという理由で休職するということ。そして自分の右腕の女性に代行を任せたこと」。職場復帰はとてもスムーズに進んだ。「3日後には、僕が休職していたことをみんなすっかり忘れていました!」

社内にも変化があった。48時間前に父親になった親しい同僚が2カ月休職することに決めた。同僚は彼にこう明かした。「君を見てやる気になった」

コラム・インタビュー:
クリスティーヌ・カストゥラン=ムニエ(社会学者):「現場で闘うのはもう女性だけではない」

ーー職場に男性のロールモデルがいるのは重要なことですか?
その通りです。そうした男性の存在はステレオタイプを揺さぶる上で、有益な役目を果たします。男女格差の問題に関しては、現場で闘うのはもう女性だけではありません。男性たちも、キャリア、家庭、自分の時間、これらをできるだけバランスよく両立させたいと主張し始めています。企業側もこの動きについてゆき始めています。

ーーマネジメント側は父親たちの主張にどう対応すべきですか?
仕事という概念は変化しています。以前は、男性は家の外に出て、スーツを着て、社会で役割を担うものだと考えられていました。いまは、有能であることは、私生活が充実していることでもあるのです。人事部担当者たちは、自分たちの経営スタイルを潰してしまうような“超有能マネージャー”を選ぶつもりはないと言います。むしろ育児に積極的に関与する父親、自分がより幸せで、企業にも恩恵をもたらすような人物が求められています。10年前には、このような話を聞くことは絶対にありませんでした。

(Christine Castelain Meunier社会学者。著書『Et si on réinventait l’éducation des garçons?』Nathan出版、2020年刊)

 

text: Marie Huret (madame.lefigaro.fr)

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