衣装はディオール。エレオノーラとフリーデマンが踊る『ローマの夜』。

Culture 2022.05.13

毎年4月29日は国際ダンスデー。その40周年を迎えた今年、在伊フランス大使館とローマ歌劇場とメゾン ディオールの共同制作による約40分の映像作品『Nuit Romaine(ローマの夜)』が、この日、ディオールのYoutubeチャンネルで配信された。ローマ歌劇場の芸術監督エレオノーラ・アバニャート自身もシュツットガルト・バレエ団のプリンシパルであるフリーデマン・フォーゲルと踊るこの作品を振り付けし、撮影したのはアンジュラン・プレルジョカージュだ。作品の舞台に選ばれたのは、現在イタリアにおけるフランス大使館として使用されているローマの美しい建築物であるパラッツォ・ファルネーゼ。これは途中からミケランジェロが建築を引き継ぎ、16世紀半ばに完成した建物である。イタリアとフランスの芸術作品の発展に尽力する在伊フランス大使館は屋根とファサードの改修工事中に、複数の革新的なアートプロジェクトを迎え入れた。たとえばフランス人アーティストのJRが宮殿内の写真で外壁を覆うというトロンプルイユの試みも、そのひとつ。コンテンポラリーなスピリットがルネサンス期を象徴する壮麗な建築物に吹き込まれた。

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マリア・グラツィア・キウリが衣装をデザインし、アンジュラン・プレルジョカージュが監督した『ローマの夜』より。物語を展開する夜の女神を、エレオノーラ・アバニャート(写真左&写真右の中央)が踊った。photos:Valentin Hannequin

『ローマの夜』はアバニャート演じる夜の女神ノックスが宮殿内の回廊、部屋、庭園といったさまざまな場所で教皇、君主、貴族の女性など何世紀もの間この中で過去に暮らした人々に出会う着想で、ミステリアスでダークな雰囲気に包まれた作品だ。ラファエロの絵画を思わせるふたりの天使や彫像も登場する。複数のタブローで構成され、43分の間、視聴者は日頃入ることのできない空間をダンスとともに愛でることができる。プレルジョカージュはかつてパリ・オペラ座のための初創作でフランスの18世紀の宮廷の庭園を舞台にした『ル・パルク』を創作したが、その作品同様に『ローマの夜』でも音楽も振り付けもコンテンポラリーとクラシックをミックスし、過去と現在を見事に交差させた。

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現在は在伊フランス大使館として使われているパラッツォ・ファルネーゼ。ダンサーたちに導かれ、その美しい宮殿内をめぐり、最後は庭園へ。

衣装を託されたのは、ディオールのアーティスティック ディレクターのマリア・グラツィア・キウリだ。ムッシュ ディオールがダンスを愛したように、彼女もダンスへの大いなる情熱の持ち主である。クチュールとダンスは人間の身体をベースにする生身の芸術という共通項がある。エレオノーラ・アバニャートとは彼女がパリ・オペラ座のエトワール時代にローマとパリを行き来する機内でふたりはよく出会い、親交を深めたという関係である。マリア・グラツィアは2019年3月にローマ歌劇場で踊られた『白夜(ニュイ・ブランシュ)』の衣装を手がけ、また来年1月にはパリで公演のある『四季』のためにもエレオノーラ・アバニャートの衣装をデザインしている。今回もディオールのアトリエとローマ歌劇場の両者が持つ巧みな技術が反映されたコスチュームが製作される機会となった。繊細なドレープやプリーツ、さらにマリア・グラツィア特有のサヴォワールフェールであるレースのインレイ、カラーグラデーション……。宮殿がインスピレーション源となった衣装もある。それはハンドペイントされた「トロンプルイユ」で、宮殿のガレリアの丸天井を飾るカレッチのフレスコ画に描かれた人物の描写なのだ。プレルジョカージュは「僕の提案する以上のものを彼女は返してきた。実り多いコラボレーションでした」とマリア・グラツィアの仕事にとても満足している。ビーズのフリンジがかしゃかしゃ音をたてる白いドレスはプレルジョカージュが“音のする衣装”を求めたことから生まれたものだそうだ。ダンサーたちがデニム、Tシャツ、スニーカーという装いで踊る場面もあり、過去、現在、未来の時空の旅は振り付けのみならずコスチュームでも表現されている。

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パリのディオールのアトリエにて。エレオノーラ・アバニャート演じる夜の女神のドレスとケープ。photos:Sophie Carre

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教皇のコスチュームを製作したローマ歌劇場のアトリエ。photos:Valentin Hennequin

エレオノーラ・アバニャートがパリ・オペラ座でエトワールに任命されたのは2013年。35歳の時で決して早かったとはいえない。しかし、その2年後に彼女はローマ歌劇場のバレエ団芸術監督に就任し、2021年にオペラ座でアデュー公演を行うより前に引退後の道を見つけていた。現在は芸術監督でありまたプリンシパル・ダンサーとして舞台に立ち、イタリアでは元サッカー選手の夫と共にセレブリティとしてメディアを飾る存在である。ダンスの世界でいまも輝きを失うことなく、イタリアとフランスの文化振興に貢献する彼女の第2のバレエ人生。今後も目を離せない。

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左:エレオノーラ・アバニャートとフリーデマン・フォーゲル。リハーサルより。右:硬質な彫刻が夜の女神によって命を吹き込まれる瞬間をフリーデマン・フォーゲルの身体が見事に表現。なお、これは撮影用にポーズをとったもので、映像のシーンとは異なる。photos:(左)Valentin Hennequin(右)Noemi Ottilia Szabo

editing: Mariko Omura

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