立田敦子のカンヌ映画祭レポート2022 #05 ウーマン・イン・モーション賞はヴィオラ・デイヴィスに!

Culture 2022.05.27

#MeTooムーブメントが起こってから早5年。早くからカンヌ映画祭は力を入れており、2015年よりオフィシャルパートナーであるケリングと組んで、ウーマン・イン・モーションというプロジェクトを進めています。

昨年のカンヌでは、パルムドール(最高賞)をフランス人監督ジュリア・デュクルノーの『TITAN/チタン』が受賞。これは72年の歴史を誇るカンヌ国際映画祭において、1993年のジェーン・カンピオン監督『ピアノ・レッスン』以来、女性監督としてふたり目の快挙であり、話題となりました。個人的にも女性監督の活躍が目立つようになってきたと感じますが、それでも、2022年にCNC(フランス国立映像センター)が認証した239本の作品のうち、女性監督の作品は25%ほど。2011年からそのパーセンテージには変化がないそうです。1950~60年代から第一線で活躍してきたアニエス・ヴァルダに象徴されるように、比較的、女性監督が活動しやすい環境であるフランス映画界でさえ、この割合なので、世界的には女性監督の数は全体の10%以下とも言われています。

そんな映画界での女性の地位を高め、活躍をサポートするウーマン・イン・モーションのプロジェクト。フランス以外でもトークイベントが開催されるなど、年を追うごとに広がりを見せていますが、その活動の拠点となるのがカンヌ国際映画祭です。

映画祭の最初の週末である5月22日には、カンヌの街を見下ろすカルトル広場に設営された特設会場で、ウーマン・イン・モーション・アワードのディナーを兼ねた授賞式が開催されました。

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ウーマン・イン・モーション・アワードのディナー会場。Credit Boby Getty Image

ケリング会長兼CEOのフランソワ=アンリ・ピノー、カンヌ国際映画祭総代表のティエリー・フレモーが共同開催するこのイベントには、今年の審査員長である俳優ヴァンサン・ランドン、イザベル・ユペール、ヴァレリア・ゴリノ、パオロ・ソレンティーノ、ルーカス・ドン、メラニー・ロラン、マイ・ウェン、レティーシャ・ライト、ノオミ・ラパス、ヨアキム・トリアー、ジェフ・ニコルズといった俳優や監督、「ある視点」部門に『PLAN75』が選出された日本の早川千絵監督も出席しました。また、招待されたセレブリティの中にはカーラ・ブルーニとサルコジ元大統領夫妻の顔も見られました。

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左はイザベル・ユペール、右はフランソワ=アンリ・ピノー。Credit Boby Getty Image

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会場に登場したメラニー・ロラン。Credit Daniele Venturelli Getty Image

フィレンツェのグッチ ガーデン内にある、グッチ オステリア ダ マッシモ ポットゥーラで、ミシュラン1ツ星を獲得しているスターシェフのカメリ・ロペスによる華やかな料理が提供される中、今年の受賞者が発表。映画界での顕著な活動と功績を称えるこの賞の第8回目の受賞者は、アメリカの俳優ヴィオラ・デイヴィスです。『フェンス』(2017年)でアカデミー賞助演女優賞を受賞しているほか、エミー賞、トニー賞の3冠を達成している実力派です。また、将来有望な若い才能をサポートするヤング・タレント・アワードは、スウェーデン人監督のニンジャ・サイバーグが受賞しました。

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左から、ティエリー・フレモー、ニンジャ・サイバーグ、ヴィオラ・デイヴィス、フランソワ=アンリ・ピノー。Credit Vittorio Zunino Celotto Getty Image

ウーマン・イン・モーションはカンヌの期間中、さまざまな映画人を招いてトークイベントを開催していますが、授賞式に先立ってイベントに登壇したヴィオラ・デイヴィスのトークは、とても力強く説得力のあるものでした。

「誰もがこの世を去る時、生きた証を残したいという気持ちがあると思います。そのためにはどうすればいいのでしょう? 私は演技で実現します。私には夫と娘と母親と妹がいて、人生にとって大きな意味を持つ人たちですが、仕事も本当に大切なもの。作品は、自分が実現した証、レガシーの一部なのです。どのような形でも拒絶されると傷つくし、見た目が役不足と言われると、腹立たしい気持ちになります。そういった言葉の多くは、私の人種に起因していると思います。正直に言うと、もし私の肌の色が5トーン明るかったら、もしブロンドの髪と青い目で鼻筋が通っていたら、いまとは違っていたでしょう。カラリズム(肌の色の濃淡による差別)や人種差別によって、私はたくさん傷ついてきました。具体的には言いませんが、数多くのプロジェクトでそんな経験があります」

黒人で女性であるということがハンデだった時代に、映画業界で壁にぶち当たりながらキャリアを築いてきたことを振り返ったデイヴィスですが、その不屈の精神こそが人生を切り開く秘訣だったと語ります。

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イベントに登壇し、自身のストーリーを語ったヴィオラ・デイヴィス。

「生い立ちのおかげで、私はファイターでサバイバーになりました。過去や子ども時代にトラウマがあり、白人の多いコミュニティで育ったので周囲から可愛がられた経験もなく、自分を可愛いと感じることもありませんでした。でも、そうした気持ちに負けずに、私は進み続けました。アン・ラモットの言葉を口ずさみ続けました。『勇気とは、祈りを捧げた恐怖である』。私は自分に恐れがあること、不安があること、自己不信があることをよく理解しています。そうしたものが、私を止めることはありません。目標や前進することが、恐怖がないということではない。素晴らしい人生には、失敗や心の傷、トラウマがないということではない。そのすべてが人生という旅の一部なのではないでしょうか。大変なことも人生ではたくさん起こりますが、確実に言えるのは、自分にはそれだけの価値があると感じたということです。地平線の向こう側にきっと何かあるような気がしました。どこかにオズの国があると。そして、ヴィオラはそのオズの国にふさわしい、と」。

まだまだ人種差別やジェンダーバイアスは根強く、闘い続けることは必要だと話したデイヴィスでしたが、彼女の声が後進の背中を押す大きな力になることは間違いありません。

映画ジャーナリスト 立田敦子
大学在学中に編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上とか。カンヌ映画祭には毎年出席し、独自の視点でレポートを発信している。

 

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