カンヌで絶賛!『PLAN 75』早川千絵監督✕磯村勇斗インタビュー。

Culture 2022.06.21

75歳以上の人が死を選ぶことができる制度「プラン75」が施行された架空の日本を舞台に、命の価値を問直す衝撃作『PLAN 75』。今年のカンヌ国際映画祭で「ある視点」部門に選出され、カメラドール(新人監督賞)スペシャルメンションを授与された早川千絵監督と、「プラン75」の窓口として淡々と仕事をこなす若者ヒロムとして鮮烈な印象を与えた俳優の磯村勇斗。カンヌ現地で、ふたりの対談インタビューを行った。

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左は磯村勇斗、右は早川千絵監督。©Kazuko WAKAYAMA

――おふたりが初めて出会ったのはいつですか?

早川千絵監督(以下、早川) 磯村さんが脚本を読んで引き受けてくださるとお返事をいただき、事務所に挨拶に行った時が初めてですね。

――オーディションはなく、一度も会わずに磯村さんに決めたのですか?

早川 はい。以前、TVのトーク番組に磯村さんが出ていらして、高校生の時に静岡の地元の劇団に飛び込みで電話して入って、かなり年上の劇団員の方々と舞台を一緒にやっていたという話をしていて、おもしろい方だなと思っていたんです。普通、年齢差があったらそれだけで怯んでしまいそうなものですが、この人はただものじゃないな、と。

磯村勇斗(以下、磯村) そう言っていただけてうれしいですね。

早川 それにとても売れっ子の俳優さんで、いろんな作品に出ているのに、それぞれの作品ですべて表情が違う。ヒロム役を磯村さんが演じてくれたら、私が想像しているヒロムとまったく違うヒロムになると期待しました。というか、私の中で、なかなかヒロムという人物像がイメージできていなかったんです。磯村さんがやってくださると決まってから、ようやくイメージが湧いてきて、お話しして、ホン読み(脚本の読み合わせ)をしていく中で、より人物像が見えるようになりました。

――磯村さんは脚本を読んで、どのあたりに興味を惹かれたのでしょうか?

磯村 脚本を読んだ時、直感的にこれはやらなきゃダメだ、この役をやりたいって思ったんです。それくらい『PLAN 75』の着眼点が胸に響いたし、明確な答えを出さず、観客にゆだねる余白があるところが美しいと思いました。社会的なテーマであり、死生観を問うテーマですが、人によって受け取り方が変わる題材だと思います。ひと言でいうと、脚本にひと目惚れしました。

――世代や立場、置かれた状況によって「プラン75」に対する捉え方が違うのを上手く描かれているのが、この作品の興味深いところだと感じます。特に若い世代が高齢化社会にどう対応していくのか、ヒロムや河合優美さん演じる瑤子を通じて考えさせられます。

早川 「プラン75」の制度自体については、私たちは議論せず、演じるキャラクターがそれぞれどのように高齢化社会に向き合っているかについて話したんです。磯村さんと最初にお話した時、ヒロムは高齢者を憎んでいるから「プラン75」を扱う仕事をしているわけではないのだということはお伝えしました。彼はただ想像力が欠如しているというか、想像することを止めてしまっている。仕事としてこなしているだけで、この制度を選択した人たちの行く先を想像していない若者なんです。

磯村 ヒロムは若い世代の代弁者でもあると思っていました。彼は「プラン75」に対して、あえて考えず、蓋をしてしまっているところがある。おそらく深く考えてしまったら、この仕事を続けられないだろうという危機感も無意識にあるのかもしれません。だからこそ、自分で強制的に蓋を閉じてしまった。それが伯父さんと出会うことで、閉じていた蓋を徐々に開いていき、恐れを感じ、ようやく人間的な考えが芽生えていったのだと思います。

――ヒロムの父と伯父さんは疎遠で、ヒロムも伯父さん20年くらい会っていなかったという設定ですが、どうしてこの設定にしたのですか?

早川 親が「プラン75」に申し込むのであれば、誰もが止めようと思うでしょう。それは、とてもわかりやすい葛藤になるし、そういったドラマは想像がつく。けれど、血の繋がりはあるにもかかわらず、少し遠い存在の伯父さんで、かつ長い間会っていなかった。そこまで伯父さんの人生にコミットすべきかどうか、躊躇する間柄ですよね。その微妙な距離感で生まれる葛藤をドラマにしたかったんです。

磯村 絶妙な間柄ですよね。

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伯父と再会する市役所職員のヒロム。©2022『PLAN75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

――そのあたりのヒロムの感情の変化は見事でしたが、どのような演出だったのでしょうか?

早川 この感情の変化を表現するのはとても難しいと思っていたのですが、磯村さんは自然に演じられていましたね。

磯村 ホームレスの人たちのための炊き出しのシーンでは、僕自身が彼らの存在を知らず知らずのうちに、排除してしまっていたのではないかとか考えましたし、自問自答しながら演じました。でも時に、自分でもどうしたらいいのか見失いそうになったこともあります。そういう時には、過程をしっかりと監督と話して細かく積み上げていきました。

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『PLAN 75』でカンヌのレッドカーペットを歩くふたり。©Kazuko WAKAYAMA

――早川監督はとてもオープンで、現場でいろいろな人の意見を聞き、吸収しながら演出されていたそうですね。磯村さんはどのように感じましたか?

磯村 早川監督は、自然に生まれるものを大事にされています。少しでも大げさな芝居になると指摘してくれるんです。なので、余分なものを削ぎ落とす作業を意識的にやっていました。また監督は演出がとても丁寧で、俳優に寄り添ってくれるというか、優しくて安心できる存在でした。監督は言葉だったり身振りだったりで説明してくださる方が多いですが、早川さんは俳優のアクティングスペースに入って同じ目線で考えている。ヒロムがベッドに座っているシーンだとしたら、早川監督もベッドに座り、ヒロムがどういう風に感じるか、ヒロムからはどういう風に見えるかを考え、一緒にディスカッションするんです。そういった監督との仕事は僕の経験で初めてで、とても印象的でした。

――いちばん大変だったシーンはどこですか?

磯村 後半は、感情的になりがちなシーンが続くんです。それは画でみると劇的に見えるし、役者としてもその方がわかりやすく演じられるかもしれないです。でも僕は、この映画で、蝋燭の火が揺れ動くような、些細な変化をどう表現していくのかが大事だと思ったので、過剰にならないように演じることに気を遣いましたね。

――カンヌの会見で、早川監督は、演出を学んだわけでも助監督についたこともないと話していましたが、自分の演出方法をどのように確立されたのですか?

早川 長編映画を撮る中で、いちばん心配だったのが演出でした。いままで映画を作るというと、どういう絵にするかということばかりに気が向いていたんですが、今回、長編を撮る中で、監督の仕事とは役者さんとシーンを作っていくことなんだと初めて実感しました。とても楽しかったですね。
 

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公式上映でカンヌを訪れた磯村勇斗。©Kazuko WAKAYAMA

――少し前までは、声も大きくて威圧的で、力づくで現場を引っ張っていくというのが映画監督のイメージだったのではないかと思います。穏やかに俳優たちを引っ張っていく力は素晴らしいと感じます。今回の映画で気を付けていたのはどんなことですか?

早川 映画の制作現場では、役者さんたちが安心して現場にいられることが大事です。精神的な安全をまず確保しないといけない。特に役者さんは、カメラの前に立ち、みんなに見られているわけで、そこは監督として気を遣うべきだと思うんです。もし自分がカメラの前に立たされ、無造作に「はい、演じてください」と言われても、できないですよね。安心できることと安全であることは、何よりもいちばん意識して撮影に臨みました。

――早川監督は、2014年に学生映画部門「シネフォンダシオン」に『ナイアガラ』で入選しています。今回は8年ぶりのカンヌ映画祭ですね。

早川 8年前は学生映画だったので、プロデューサーもいなくて、私と、出演してくれた俳優ふたりと3人で訪れました。空港で映画祭の方に迎えてもらいましたが、ホテルのチェックインができず、会場近くの公園で車から降ろされ、右も左もわからず右往左往しました。今回は、出演してくれた磯村さんやステファニー(・アリアン)やプロデューサーなど、みんなと一緒に来られてとてもうれしいし、心強いですね。日本にいらっしゃる倍賞(千恵子)さんにも早くご報告したいです。

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公式上映では拍手喝采、パルムドールを受賞。©Kazuko WAKAYAMA

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『PLAN75』は倍賞千恵子が主演。©2022『PLAN75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

『PLAN 75』
●監督・脚本/早川千絵
●出演/倍賞千恵子、磯村勇斗、河合優実ほか
●2022年、日本・フランス・フィリピン・カタール映画
●112分
●配給/ハピネットファントム・スタジオ
●全国にて公開中

 

text: ATSUKO TATSUTA

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