あなたの周りにもいませんか? ナルシストの5つのタイプ。
Culture 2022.07.08
ナルシストは自分のことしか見えていない人たちだが、常に「私は、私は」と自分のことばかり話したり、自分の功績を見せびらかして、自己愛傾向を表に出すとは限らない。見かけよりも複雑なナルシストのさまざまなニュアンスを解明した、フランスのマダム・フィガロの記事を紹介する。
ナルシストは自分のことに執着するが、「私は、私は」と表立つことはない。photo : Getty Images
ナルシシズムとは自己イメージに抱く過度の愛情、と、ラルース百科辞典は定義している。一般大衆にとってナルシストといえば、自惚れ屋で自己中心的で目立ちたがりのことだ。しかし、ナルシシズムを正確に把握するのはそう簡単ではない。現在乱用されているこの言葉の裏には、複数のニュアンスが隠れている。『Un zèbre sur le divan(寝椅子の上のシマウマ)』(1)、『Moi moi et moi(私、私、そして私)』(2)の著作があるフランスの精神分析家のエレーヌ・ヴェッキアリがさまざまなナルシストのタイプを定義し、私たちの身近にいるナルシストの見分け方を解説する。
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ほどほどのナルシスト
社会通念に反して、「ほどほど」のナルシシズムも存在する。これは私たちの誰もが持っている特性だ。「好意的で善良な人たちに囲まれて育った場合、ナルシシズムはポジティブな形で表れる」とヴェッキアリは言う。「具体的には、自信を持って自分を前面に押し出し、自分の知的あるいは身体的長所をアピールできる一方で、引くべきときは引き、友人たちの成功を喜ぶこともできる人です」
ごく普通に見られるこの人格的特徴は幼少期の遺産だ。低年齢児は精神分析用語で「原初的ナルシシズム」と呼ばれる段階にあり、万能感を持っていると精神分析家は解説する。「だから子どもは自己評価が高く、自分をスーパーヒーローだと思い、自分には素晴らしい運命が待っていると想像するのです」と彼女は続ける。
成長するにつれ、この幼児期のナルシシズムは「変異」し、多くの場合他者との接触によってバランスが取れていく。「自己愛があまりに強くなると、通常は他者に配慮するのが難しくなることに自分で気が付き、自分を誇示することを控えるようになる」と彼女は説明する。
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ハイパーナルシストとサクセスストーリー
ただし人によっては、この大事なバランスが揺らぐことがある。彼らは境界線を越え、やたらと自慢話ばかりする。こうした行動はハイパーナルシシズムの特徴、とヴェッキアリ。「私たちが最も頻繁に出会うナルシシズムのネガティブな面。このタイプは会話を独占する能力に長け、絶えず人と自分を比較して、自分により高い価値を与えるので、すぐに見分けがつきます。“私の行きつけのパン屋はこの辺りで一番美味しい”といった単純なものから、“子どものために超一流の名門校を選んだ”、あるいは“僕の彼女は世界で一番美しい女性だ”といったものまでさまざまです」
しかし、誤解しないように気をつけよう。いかに胸を張っていようと、ハイパーナルシストの心の中には、実は、自分は本当は価値のない人間だという感情が隠れているのだ。「幼少期にお前は天才だとか非凡だとか周囲から絶えず言われ続けると、そのうちに自分にそんな才能がないことに気付き、正体がばれてしまうのを恐れるようになります。そのため彼らは代償行動で紛らわそうとするわけです」とヴェッキアリは解説する。したがって、ハイパーナルシストの自己評価は実は低いのだという。「彼らが自慢話をするときは、他者だけでなく、自分自身に対しても、自分の価値を認めさせようとしている」と精神分析家は付け加える。
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ハイポナルシスト、もうひとりのカリメロ
ナルシストはまた、延々と失敗談を語って会話を独り占めすることもある。これはハイポナルシシズムと呼ばれる。このタイプはあまり知られていないが、想像以上に頻繁に見られる、とヴェッキアリ。その特徴は、世界のあらゆる不幸を背負っているかのように考える傾向だ。
「ハイポナルシストはしょっちゅう嘆いてばかりいます。当人に話を聞くと、いつも失望や大小の病気を招き寄せている。周りは悪人だらけ、くじや恋愛で幸運に恵まれたことは一度もなく……」と精神分析家は列挙する。「もちろんこのタイプは、これらの不幸を他人よりもたくさん背負って生きている、というわけです」
この特性も幼少期に原因があると精神分析家は断言する。「親が会話のなかで子どもの強みや弱点を過度に強調すると、子どもが自分自身を過大評価したり、逆に過小評価する傾向を持ちやすい。また幼少期に、意識的かどうかに関わらず、親が子どもの話を聞く、子どもの欲望に耳を傾けることを疎かにしていたケースもよく見られます」
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避けたほうがいい病的なナルシスト
これらのタイプはかなり鬱陶しいが、周囲にとって毒になる存在ではなく、好意的に接すれば態度を改める可能性もある、とヴェッキアリは言う。反対に「病的ナルシスト」のように、ナルシシズムが病的に発展してしまった場合は注意したほうがいい、と彼女は呼びかける。
病的ナルシストは、大風呂敷を広げたがる、共感力が欠如しているという点が目立った特徴だ。「このタイプの人たちは、自分の目的を達成するためや自分の評判を高めるためなら、他者を利用することも厭わない」と専門家は分析する。「たとえば、自分のキャリアアップのために同僚のアイデアを横取りすることもあります」
病的ナルシシズムを抱える人は他者の良心につけこむとはいえ、彼らの目的は、他者を意図的に傷つけることではない。「誰かが自分自身の利益を優先したときは、病的ナルシストは単にその人を見放すだけです。罪悪感も抱きません」とヴェッキアリ。彼らはこうして過干渉で有毒な親との関係の図式を再生産しているのだという。
逆に、他者を操作することから不健全な喜びを引き出す、倒錯的ナルシストと呼ばれる人もいる。「このタイプは男性に多い。幼稚な無力感を抱えて生きており、他者を操って破滅させることが自分自身の価値を高める方法だと信じています」と精神分析家は説明する。「彼らは自分が神のように完全な力を持っていると思い込み、他者を自分の所有物と見なしている」
専門家であるヴェッキアリはこのふたつのタイプの病的ナルシシズムを抱えている人は、人口の10~20%と推定する。万が一、このタイプの人と遭遇してしまった場合はどうしたらいいのだろう。ヴェッキアリは次のように警告する。「こうしたタイプの人と話し合いをしても、頓挫するのは目に見えています。自分を守るためには逃げるしかありません」
(1)Hélène Vecchiali著『Un zèbre sur le divan』Albin Michel出版刊
(2)Hélène Vecchiali著『Moi moi et moi, Narcissisme : le bon, le mauvais, le pathologique』Marabout出版刊
text: Tiphaine Honnet (madame.lefigaro.fr)