不穏な情勢の中、不安を感じる時はどう対処すればいい?

Culture 2022.07.09

いま私たちは、かつてないほど未来の不確実さを痛感している。このような不穏な情勢のなかでは、脳が飽和状態になり、警報を発することもある。不安は絶対に避けられないものではない。フランスの精神科医のジャン=クリストフ・セズネクに、よりよく生きるためのアドバイスを聞いた。

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フランス国民の20%が不安障害の症状を抱えている。photography : Getty Images

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何でもないことでもきっかけになる。銀行から届いた1通のメール、何度もせき込む職場の同僚、滑走路の近くで群れる鳥……。それだけでもう、42歳の公認会計士のエリオットの脳はヒートアップする。「銀行口座が空っぽだと知らせるメールに違いない。同僚はコロナにかかったんだ。僕だって新しい変異株に感染するかもしれない。鳥がジェットエンジンに巻き込まれて、僕の乗っている飛行機は墜落する……」。こうした考えが瞬時に頭に浮かぶ。

多くの場合、同時に冷や汗が出る。心臓がどきどきして、パニックに襲われる。2年間のパンデミックは彼にとってすでにつらい試練だった。ウクライナで戦争が始まってからは、家の外に出られないことが多くなったと40代の彼は明かす。「もともと心配性です。子どもの頃は、夏のバカンスはちっとも嬉しくなかった。夏が終わったら学年が変わるわけだから。新しいクラスの顔ぶれも新学期になるまでわからない。絶対にひどいクラスに違いないと考えていた」と彼は回想する。

珍しいケースではない。不安症はいま最もよく見られる精神障害であり、フランス人の20%が症状を抱えている。心配性の人は、悲観的な観念や、反芻思考に陥りやすい傾向がある。不安によって集中することが困難になり、知的パフォーマンスが低下したり、プロジェクトを遂行することができなくなるなど、仕事にも影響が出る。また、筋肉痛、頻拍、消化不良、めまいなど、身体にも様々な症状が現れる。

「不安は本来は自然な現象。試練を乗り越えたり、危険を察知するための、身体の過渡的な適応反応なのです。ところが不安が過度に強くなったり、長く続いたり、通常は不安を感じるはずのない状況で不安に襲われるようになると、不安障害とみなされます」と『クライシス時の実用的サバイバルガイド)』(1)の著書のある精神科医のジャン=クリストフ・セズネクは解説する。

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クロマニョン人の遺産

私たちの情動的な脳は、生き残るためにあらゆる危険を察知する必要があった先史時代の遺産だ。以来、人類は生理的に環境の変化に適応してきたものの、そのスピードは進化のスピードほど速くなかった。「このデータ処理システムは穴居生活を送っていた人類の環境分析のために生み出されたものです。混雑した地下鉄の車内のように刺激があまりに多い環境では、このシステムに変調を来すことがある」とセズネクは話す。「一方で、不安に対する感度は人によって違います。筋肉の潜在能力が人それぞれなのと同じように、脳の装備も人それぞれ」

フランス国立衛生医学研究所所属研究員で、ボルドーのマジャンディ神経センターの不安神経回路チームを率いるアンナ・ベイレールは、不安を引き起こすメカニズムの一端を解明するという挑戦に着手した。「(フランスでは)ほぼ5人に1人が不安障害を抱えています。しかしその生理学的原因は依然としてよくわかっていません」

現時点で確かなのは、不安をつかさどる遺伝子はないということだけ。「研究によって複数の脳の領域が関連していることが明らかになりました。不安を感じているときには、島皮質と扁桃体の活動が過剰になります」と研究者は言う。

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心配性の脳を手なずけるために取り入れたい4つの習慣

心配性の脳を手なずけるためには予防が肝心。歯と口の健康習慣を取り入れるのに、虫歯を待つ必要はないのと同じで、不安の場合も情動の衛生管理に普段からしっかりと取り組むことが大切だ。

精神科医のセズネクが考案した不安と闘うためのプランは4段階。すなわち、(1)自分に働きかける、(2)行動に移す、(3)自分の人間性を補強する、(4)自分をケアする。「まずは、瞑想を活用していま現在にしっかりと根を下ろします。コヒーレンス法は精神的な緊張レベルを下げるのに役立ちます」と彼は説明する。

運動もおすすめだ。「身体を動かすことには不安抑制効果や抗うつ効果があります」とセズネクは断言する。「とくに屋外で行うと効果的。行動に移すということでは、日記をつけるのもいいでしょう。書くことで感情を吐き出し、日々の満足感を書き留めるためです。また、庭仕事など自分が得意な作業に打ち込むと自尊心も高まります」

感染症対策を無視して、心配性の人は「身近な人を抱き締める」といいというのもアドバイスのひとつ。「人間は群生動物ですから、接触や他者との友好的な関係によって安心感を得るものです」。そう強調する医師の診察室には、近頃、身体的接触が失われたことでうつ症状になったと考えられるティーンエージャが続々と訪れているという。最後に、自分をケアするためにおすすめの最良の薬は、何といっても……笑うこと!だそう。

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避けるべきは?

不安を助長しないために絶対に避けるべきなのは、過剰に情報に触れること。したがって、ニュース専門局やスマートフォンの通知設定は見ないことだ。「積極的にデジタル休憩を取りましょう。スクリーンは不安感を生み出す想像をかき立てます」と精神科医は断言する。

同じように、不吉な鳥は身の周りに寄せつけないように気をつけること。確かに人間関係は安心感をもたらしてくれるが、エネルギーを与えてくれる人をきちんと見極めることが大切! 単なるおしゃべりやちょっとした雑談は不安レベルを下げるのに役立つが、ウラジミール・プーチンが声明を発表するたびに心配性のアルターエゴを相手にくよくよ思い悩んでも、不安をエスカレートさせることにしかならない。

「未来はとても不確かなもので、あらゆるところに危険は転がっています。そこから目を背けてはいけません。とはいえ、私たちの脳のネガティブな側面には注意が必要。個人的には、人類はとても未熟なものだと私は考えています。それでも私は、われわれの時代に起きたふたつの大きな革命に目を向けたい。ひとつは寿命が2倍に伸びたこと、もうひとつはうまく老いることが可能になったこと。イギー・ポップを見てください。とても78歳とは思えません。私たちは年寄りにならずに年を取ることができるのです」と医師は結ぶ。

(1)Jean-Christophe Seznec著『Guide pratique de survie en cas de crise』Leduc出版。

text : Caroline Lumet (madame.lefigaro.fr)

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