少女と少年の視点から世界見つめ直す......映画館で必見の3本。
Culture 2022.08.27
地下から地上への運動感に、母娘の愛と情動が噴き出す。
『きっと地上には満天の星』
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パリの下水道で働く青年が薄幸の娘を伴って地上へ、さらに階上へと駆け登るラブストーリーの原点的名画『第七天国』が世に出てから100年弱。5歳の少女リトルは生誕以降、地上を知らない。ニューヨークの地下鉄の下、1990年代までは実際にコミュニティが存在したらしい廃トンネルに暮らす。絵本で見かけた星々に、いつか会うことを夢見ながら。リトルを溺愛する母ニッキーはゆえあって家を失い、ここに逃げ込んだ。隣人との互助の温もりが微かに漂う土中の日常。地下再整備の名目で母娘はその秘密基地も追われる。初めて地上に立ったリトルが光と騒音にくらくらする体験が鮮烈だ。地下鉄の小鳥に目を奪われ、駅に取り残された娘を母が捜し回るヤマ場は哀切極まる。
監督・脚本/セリーヌ・ヘルド、ローガン・ジョージ
2020年、アメリカ映画 90分
配給/フルモテルモ、オープンセサミ
8月5日より、新宿シネマカリテほか全国にて順次公開
https://littles-wings.com
新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。
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新鋭監督が捉えた浜に波打つ、少年たちの安らぎと覚悟。
『ぜんぶ、ボクのせい』
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児童養護施設を脱走した13歳の優太は、町外れの海辺に流れ着く。軽トラのエンジン故障で立ち往生した放浪者や、裕福な家庭にも息苦しい学校にもなじめぬ女子高生・詩織とそこで遭遇。潮風や焚き火やスケッチ画が繋ぐひとときは、再び荒波が襲う前の、憩いの時空を生成する。潮騒に乗って詩織が大滝詠一の佳曲「夢で逢えたら」を口ずさむ名シーンも。オダギリジョーが憎めない社会不適合者を好演。社会のせいじゃなく「ボクのせい」と、一切をひっかぶる少年の眼光の鋭さを、幻の曙光や潮騒とともに捉えた一瞬に身体が震える。トリュフォーの『大人は判ってくれない』やカネフスキーの『動くな、死ね、甦れ!』ほか、少年映画の系譜に瞬く、幾多の眼光の記憶とリンクして。
監督・脚本/松本優作
2022年、日本映画 121分
配給/ビターズ・エンド
8月11日より、新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開
https://bitters.co.jp/bokunosei/#
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アメリカの根底を揺さぶった、ロックンロール革命の雷鳴。
『エルヴィス』
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エルヴィスは少年期、黒人居住区のテント小屋に潜り込んでゴスペルに啓示を受ける。そしてルーツ音楽ひしめくメンフィスで、白人のカントリーミュージックと黒人のブルースを炉に溶かしたロックンロールを編み出す。ギター片手に腰をスイングさせて歌う。若い聴衆を未知の音楽的法悦へと連れ去る。『ムーラン・ルージュ』など、音楽と映画、夢のステージと舞台裏の現実を融合させてきた俊英の演出は、音楽革命の決定的瞬間にエルヴィスの多感な日々を凝縮させて華やぐ。彼はポップカルチャーを一変させ、アメリカの支配階級から総攻撃を浴びる。トム・ハンクス演じる札付きのマネージャーを信頼できない語り手にした、「時代遅れの大スター」への地滑り的転落劇も秀逸。
監督・共同脚本・製作/バズ・ラーマン
2022年、アメリカ映画 159分
配給/ワーナー・ブラザース映画
新宿ピカデリーほか全国にて公開中
wwws.warnerbros.co.jp/elvis-movie
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*「フィガロジャポン」2022年9月号より抜粋
text: Takashi Goto