かつての情熱を取り戻すため、夫婦が交わすべき一言は?

Culture 2022.08.05

決して、あなただけではない! 精神的負担に、職場での能率主義、理想の愛の追求。予定がぎっしり詰まった私たちの生活には、もはやカップルのための場所が残されていない。いまこそ欲望に再コネクトしなくては。フランスのマダム・フィガロのリポート。

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いつ愛し合うの? photo: Getty Images

ある晩、ノルウェンのもとに、会議からまだ帰ってこない夫からメッセージが届いた。「ETA(推定帰宅時間)23h12。P.S. 明日の朝のベビーシッターの手配は済んでいる?」彼女はおもむろに返事を書く。「OK。ベビーシッターの件は任せて。テーブルに連絡帳を置いておくからサインお願い」。その後、電話の前で、彼女は一呼吸する。この数週間、いや数カ月間で、この手のやりとり以外に何かメッセージを交わしただろうか?フロリアンが帰宅するまで12分ある。彼女は履歴を辿ってみた。

どれも重要とはいえ、ほとんどが現実的な話題だ。日常の些細な用事から子どもたちの柔道教室、バカンス中の借家手配から秋のお芝居の予約まで……。自分たちの生活がかなり正確に反映されている。子どもの教育はちゃんとしているし、カルチャーへの興味もたっぷり、手入れの行き届いた家、段取りがしっかり組まれた日常。言うことは何もない。しかし忙しさにかまけて、自分たちは愛し合うことを忘れてしまっていないだろうか? 少なくとも、それを言葉にすることを?

「これこそアクチュアリティ!」と興奮ぎみに話すアリアの口ぶりには、1ミリの皮肉も感じられない。起業して3年間事業を運営した後、まだ幼い3人の子どもを持つ母親である彼女は、数カ月前に時間も労力もかかるコンサルタント業に復帰したところだ。金融アナリストの夫は出張が多く、夕食の後に海外の顧客とのカンファレンスコールが入ることもしばしば。つまり、13年前、若い恋人同士だった彼らに、いまはもう単に喜びのために電話をかけ合う時間はない。最近、彼女は夫にこう言い放ったことさえある。「もし別れることになったら、もっと深い会話ができるかもしれないわね」

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ロジスティクスとガードレール

家の冷蔵庫に貼られたポストイットのメッセージをメロディに乗せて歌ったバンジャマン・ビオレの楽曲「ブラント・ラプソディ」のように、最初の頃に交わした愛の言葉は、いまや買い物リストのやりとりに変わってしまった。

「私たちの生活はロジスティクス」とアリアは苦笑いを浮かべる。親になり、自分たちの時間が少なくなってから、彼女はこのソフトな罠に慣れてしまっている。「愛情表現やうれしい褒め言葉をくれるのは、たいてい子どもたち」。彼女は冗談まじりに話すが、用心しなくてはならないと釘を刺す。「女性の人生では、キャリアを積むにつれ、仕事とプライベートに隔たりが生まれます。仕事では、やっていることが評価され、時には賞賛されることもある。プライベートでは、夫婦は互いに尊重し合う関係を維持するよう努めようとしても、実際には女性はプロジェクトチーフになってしまっている。その上、プライベートでは仕事が完璧にやり遂げられることは一度もない。なぜなら、単にそんなことは不可能だから!」

年月を経て、夫はいまや彼女にとっての「チーム」、彼女の「パートナー」となっている。「ちっともグラムールではない」と彼女は認める。「これもひとつの愛の形ではあります。でも愛は育まないと死んでしまう」。数カ月後に40歳の誕生日を迎える彼女が恐れているのはそのことだ。

こうした罠に陥らないよう、彼女より5歳年上のキャロルはガードレールを設けた。建築家の彼女は夫とともに設立した事務所で働いている。生活も、仕事も、子育てもいつも一緒だ。共同経営者あるいはルームメイトとなってしまうのを避けるため、彼女はある決まりを作った。週に1度、ふたりで選んだレストランで夫婦だけでディナーを楽しむこと。子どもは連れて行かない。電話は持って行かない(これは大事)。そして次のような一言で会話を始める。「私が知らないことを話して」

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欲望原則

哲学者のアレクサンドル・ラクロワはこのやり方に好感を寄せる。この発想を補強するために、彼はルーマニア人の哲学者で宗教史家のミルチャ・エリアーデを引き合いに出す。神話の隠された意味の探求に生涯を捧げたエリアーデによれば、ルーティンから外れる儀式を行うことで、恋人たちはふたりの関係の創世神話を、ちょっとばかり現在に蘇らせる。それが再びエロスにコネクトさせてくれる。「すなわち、欲望原則です」とラクロワは言う。

フロイトは欲望を「ストックの量に限界があり、我々の生の様々な領域に振り分けられ、出現した順序に従って量と強度が減少する」と捉えていた。「この論理によれば、スケジュールの詰まった仕事に、子育てやスポーツなどの趣味が順次加わると、セックスにほとんど欲望が残らないことになります。それぞれの人に日々割り当てられている欲望とエネルギーの量は一定だからです」。しかしラクロワは、欲望が一枚岩であるという考えには同意しない。「恋愛で強い欲望を感じている時期は、仕事にも精力的に取り組める。それが何よりの証拠ではないでしょうか?」

彼によれば、問題なのは、この愛の時間に向き合うにあたって、私たちが目まぐるしい現代社会のコードでアプローチし、パフォーマンスと成果を重視する文化を持ち込でいるせいだという。

ふたりの時間がポジティブな価値を持つためには、無期限で特別な地位を与えるべきだろうか? その方向を目指して、37歳の弁護士のルイーズは、婚約者と共有するグーグルカレンダーを活用することにした。ふたりきりのディナーの誘いも、バーチャルスケジュール帳を介してされるとロマンティックじゃない、と相手に必死で説いた後、彼女は共通スケジュールに「緊急」メモを追加することにした。内容は「私のどこが好きか思い出すこと」「“愛している”と言うこと」といったものだ。あるいは、ある日の午後のスケジュールをブロックし、「この時間帯に会議の予定を入れたらだめ。一緒にシエスタをすること」

こう話しながら彼女自身も笑っている。「ばかばかしいと思います。付き合って2年でこんなことをするなんて、悲しいですよね」。しかし彼女は、もう一度恋愛初期のふたりに戻るためには(うまくいく保証はないが)、この解決策しか思い浮かばなかった、と途方に暮れる。

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物語の本筋

目まぐるしい日常に追われて、プライベートと誘惑に穿たれた亀裂がどんどん深まってしまわないよう、アリアも運命を少々ねじ曲げる必要があった。子どもが生まれるたびに、夫婦はふたりだけで旅行に出掛けた。「旅行の間に、お互いの身体を再発見し、セックスをする時間も持てる。これは神経戦のようなものよね?」と彼女は本音を漏らす。「日常ではお互い疲れ切っている。生活リズムも違う。みんなどうやっているんだろうとよく不思議に思う……」

では、疲労回復のためしっかり睡眠を取り、翌日も効率的に働くために、別寝室を選択する夫婦についてはどうだろうか?「最初は少し決まりが悪かった。でも自分たちだけではないと気がついた」とキャロルは明かす。

実際に、物語の本筋を見失わないように気を配るカップルは多い。おかげで順調に事は運んでいるが、それを享受する十分なゆとりが彼らにはない……。「都会で生活していて、この問題を免れているという人を私はひとりも知りません!」とシーヌ・ランズマンは語気を強める。女性リーダー育成コーチの彼女はこう続ける。「私はこの問題を相当研究しました。なぜならこれは私自身の身に起きたことだからです! 私のクライアントの80%にもです!」

バランスを取り戻すために、彼女が勧めるのは「とても具体的な」ことだ。たとえば、週に1度の「調整会議」で、家庭の実務的側面やロジスティクスに関わる一切の問題をクリアにする。「そうしないと、ずっと家のことを話してしまう。そのうち、水を買ってきてといったようなやりとりしかしなくなります」

ふたつ目のアドバイスは、これとは大分趣を異にする。すなわち、セックスのアポイントをとる! それでは自発性が失われる、ロマンティックじゃないという声に、ランズマンはこう反論する。「なぜ夫や妻に会うのにドキドキしないのですか? 2週間後に恋人に会えると知ったらドキドキするのに。私に言わせれば、思い込みに縛られているだけです!」

先月、毎年恒例の友人たちの結婚式シーズンを迎えて、アリアとシャルルは10年以上前に出席した教会での挙式を思い出した。あの頃はふたりとも若くて、自由だった。神父の説教はふたりに大きな感銘を与えた。「いいですか、あなたがたはこれからひとつの会社に入社するのです。これは簡単なことではありません。ですから、時間を大切にしなさい。そして何でも話し会うこと」。

その時のことを思い返しながら、ふたりは自分たちを結びつけているものを改めて見つめ直したい気持ちになった。少し立ち止まって、なぜ相手のことを好きなのかをもう一度思い起こすことが、ふたりの時間を持ちたいという欲望を呼び覚ます最善の方法なのかもしれない。

text: Lisa Vignoli (madame.lefigaro.fr)

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