ハリウッドのパワーカップル、ブランジェリーナの泥沼離婚劇。

Culture 2022.09.03

大きな関心を集めた離婚を振り返る、マダム・フィガロの夏のシリーズ第4章は、アンジェリーナ・ジョリーブラッド・ピットのケース。オシドリ夫婦で社会貢献の象徴だったハリウッドの最強デュオが怨恨地獄へ落ちた理由とは。

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第62回カンヌ国際映画祭のレッドカーペットに登場したアンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピット。(カンヌ、2009年5月20日) photography : AP / Aflo

カップルは文字通り空中分解した。2016年9月15日、ジョリー=ピット一家は全員そろって(ブラッド、アンジェリーナ、6人の子どもたち)、所有するプライベートジェットでニースを出発し、ロサンゼルスへ向かった。到着すると、アンジェリーナと子どもたちは車でホテルへ。ブラッドは別の車でひとりで自宅へ。翌日、夫婦の間で話し合いが行われることになった。5日後、アンジェリーナが離婚を申請する。

彼女が即座にこれほど思い切った決断をするとは、一体何があったのか? アメリカの週刊誌「USウィークリー」の情報によると、ブラッドは15時間のフライトの間にダイエットコークしか口にしなかったわけではないようで、かなり酔っており、機内でアンジェリーナと口論になったという。

ジェット機がミネソタ州のフォールズ国際空港に給油のために着陸すると、女優は夫に、もうアルコールを飲むのは止めて、酔いを醒ましてくるように言った。ブラッドはその言葉に従って機外に出てターマックエリアをしばし散歩した。機内に戻ると、再び激しい口論になった。カンボジアから養子に迎え、後にブラッドが認知した、当時15歳の長男マドックスがふたりの間に割って入ると、父親は息子を乱暴に押しのけたという。

この振る舞いで堪忍袋の緒が切れた女優は、12年間の共同生活と2年間の結婚生活に終止符を打ち、6人の子どもたちの単独養育権を求める決意をしたらしい。ブラッドは打ちのめされ、アメリカ中が驚愕した。ニュースは世界中を津波のように襲った。ハリウッドで最もグラムールで、最も大きな影響力を持ち、最も羨望を集めるカップルの離婚。完璧な家族は引き裂かれ、神話が終わりを迎えた。

確かに、常に進んで脇道を選んできた規格外のパワーカップルだけに、普通の結末は望むべくもなかった。山岳ガイドなら誰もが同意するだろうが、コースの外に出るのは危険なのだ。しかし、子どもたちは両親の大胆な選択を承認していた。マドックスは母親にこう言ったという。「誰が普通の生活を望んでいるの? 僕たちは普通じゃない。別に何も変えなくていいよ」

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撮影現場で生まれた愛

生まれ育った環境が全く違うだけに、ふたりの共同生活はもともと賭けのようなところがあった。アンジェリーナ・ジョリーの両親は、ともに俳優同士のミシュリーヌ・ベルトランとジョン・ヴォイド。ジョン・ヴォイドは映画『真夜中のカウボーイ』でダスティン・ホフマンと共演してアカデミー賞にノミネートされた、危険な香りのする1970年代のスターだ。

親と同じ道に進んだアンジェリーナは7歳の時に初めて映画に出演する。ティーンエージャーの頃には、ゴシックロック風のルックに挑戦したり、型破りなファッションを楽しんでいた。最初の結婚相手は俳優のジョニー・リー・ミラー。レザーパンツと、自分の血で夫の名前を記した白いTシャツが花嫁衣装だった。

2番目の夫となる20歳年上のビリー・ボブ・ソーントンとの出会いも、撮影がきっかけだ。その一方で、彼女は着々と確固たるフィルモグラフィ(1999年には『17歳のカルテ』でアカデミー賞受賞)を築き上げ、国際的な名声を得る。2001年に公開された『トゥームレイダー』のララ・クロフト役で、アメリカのセックスシンボル、そしてハリウッドで最も高額の出演料を稼ぐ女性スターの地位に上り詰めた。

ブラッド・ピットはミズーリ州出身。進路カウンセラーの母と運送会社を経営する父の間に生まれた。キャリアの初期はそれほど華やかではないが、アメリカンドリームを体現する俳優だ。

典型的なアメリカのハンサムボーイの外見を武器に、ブラッドは1986年、ロサンゼルスに向かう。当時23歳、所持金は325ドルだった。引越し業者、皿洗い、給仕係として働く一方で、広告にも出演するようになる。

知名度が上がったのは、1991年に出演したリーバイスのCMがきっかけだった。トランクス一枚で拘置所から出てきた男が、かの有名な501を履くシーンを演じている。その後、リドリー・スコット監督作映画『テルマ&ルイーズ』でセクシーなヒッチハイカーに扮し、世界中を虜にした。その時彼は27歳。無名時代が終わりを告げた。

1995年にデヴィッド・フィンチャー監督によるサスペンス映画『セブン』、テリー・ギリアム監督作『12モンキーズ』で脚光を浴びる。その後も、再びフィンチャー監督とタッグを組んだ『ファイト・クラブ』、スティーブン・ソダーバーグ監督作『オーシャンズ・イレブン』、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督作『バベル』、クエンティン・タランティーノ監督作『イングロリアス・バスターズ』と、ヒット作に出演し続けている。

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2004年にブラッドとアンジェリーナが『Mr. & Mrs. スミス』の撮影現場で出会ったとき、ふたりのスターは知名度、影響力、資産、そしてセックスアピールと、あらゆる点で釣り合いが取れていた。ふたりはすぐに意気投合。お互いに一目惚れだった。

それに映画のシナリオも、エロス、バイオレンス、ミステリーと、情熱を掻き立てる材料がすべて揃っていた! シースドレスに身を包み、官能的なダンスを踊り、テキーラをボトルから直に飲む、プロの女殺し屋に扮したアンジェリーナはかつてなくセクシーだった。魅力溢れるブラッド・ピットはたちまち恋に落ちる。彼が共演者に惹かれているのはスクリーンを見ても明らか。無理もない。このときブラッドの頭の中で起きていたこととは?『Mr. & Mrs. スミス』でブラッドが演じた役がその答えを教えてくれる。「彼女は複雑で、危険な女だ。僕は彼女を愛している。彼女と結婚するつもりだ」。現実がフィクションを凌駕した。

しかし、ひとつ問題があった。それも大きな問題が。ブラッドは妻帯者だったのだ。彼が4年前に結婚した相手は、カルト的人気を誇るドラマシリーズ『フレンズ』のスーパースター、ジェニファー・アニストン。フレッシュな自然体の魅力と、ガール・ネクスト・ドアと呼ぶにふさわしい持ち前の親しみやすさで視聴者に絶大な人気を誇っていた。

2005年1月、ブラッド・ピットは「アメリカのガールフレンド」との離婚を発表する。アンジェリーナの登場は、パリスの寝床にメネラーオスの妻ヘレネーが現れたような衝撃をもたらした。ギリシア神話ではそれがきっかけで運命の歯車が狂い、トロイア戦争が勃発するが、ハリウッド神話ではバッドガールがグッドボーイの心を射止め、アニストンは追いやられてしまう。世論も結局のところ、このカップルの悩殺的な魅力に屈した。誰ひとり彼らには抗えない。そしてカップルはさらに努力を重ね、完璧さに磨きをかけてゆく。

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家族の空気

10年以上もの間、ハリウッドで最もアイコニックなカップルとして、ふたりは完璧なパワーカップルのイメージを作り上げてきた。ふたりのニックネームである「ブランジェリーナ」は成功、愛、社会貢献、才能の同義語だった。ハリウッドの頂点に立ったふたりは、何をするのも一緒。ふたりでレッドカーペットを歩き、人道支援活動のための基金を創設し、政治的活動に取り組み、ロゼワインを生産し、子どもを作り(ふたりの間には2006年にシャイロ、2008年にノックス・レオン&ヴィヴィアン・マルシュリーヌが生まれている)、養子を迎える(2002年にカンボジアからマドックス、2005年にエチオピからザハラ、2007年にベトナムからパックス)。時代に先駆けてインクルーシブを実践するXXLサイズのユニークな家族は、理想の家族と言われ、カメラマンたちは彼らの写真を撮りたがった。生まれたばかりの双子の写真は雑誌「ピープル」と「ハロー!」に1400万ドルで売却され、収益はマドックス・ジョリー=ピット財団に寄付された。

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その間もブラッドは映画に出演し、アンジェリーナは社会的なテーマを扱う映画監督としても活動を始める。2012年公開の初監督作『最愛の大地』では、旧ユーゴスラビアで起きた紛争を描いて注目された。彼女はまた、両乳房の切除手術を受けたことを公表し、乳がん撲滅運動のスポークスマンとなり、難民のための国連特使にも任命された。まさに時代を代表する女性運動家だ。

2014年8月23日、カップルは所有するプロヴァンス地方のシャトー・ミラヴァルで結婚式を挙げる。盛大な結婚式が予想されたが、招待客はわずか24人だった。

2年後、蜜月は終焉を迎える。ブランジェリーナはハリウッドで最も費用のかかる、そして最も凄惨な離婚訴訟に着手することになった。バトルの核心は、子どもたちの養育権。メディアと司法を巻き込んだこの闘いで、(誰でも予想がつくが)子どもたちの精神のバランスは不安定になった。世論は真っ二つに分かれ、ブラッド派はアンジェリーナはやりすぎだと言い、アンジェリーナ派は子どもたちを守ろうとする母の努力を支持した。

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金銭問題

2019年春に離婚は成立したものの、子どもの問題はいまも係争中だ。アンジェリーナは単独養育権を求めている。子どもたちの父親がアルコールと薬物を濫用するのは、「彼が怒りの問題を解決できていない」結果であり、そのことで子どもたちを危険に晒す可能性があると彼女は考えている。ブラッドは共同養育権を希望している。俳優は困惑していると公に語り、「前向きな姿勢」と過ちを認める能力を証明するために、アルコール依存症治療に通うつもりだと明かした。

自分の罪を認めることはアメリカでは必須だが、離婚によってふたりのイメージには傷がついた。アンジェリーナは一歩も譲らない強情な姿勢を貫き、ブラッドの家庭内での振る舞いについてFBIに捜査を依頼するという手段にまで出ている!

最終的には嫌疑は晴れ、俳優は断酒に成功したと明言したものの、彼女の怒りは収まらない。2018年6月、ふたりの離婚訴訟を担当する裁判官はスタンスを変え、アンジェリーナに対して、子どもたちがブラッドと「健全な関係」を維持することを妨げるべきではないと勧告する。雑誌「ピープル」が入手した資料には、もし子どもたちがこれ以上父親に会えない場合は、「子どもたちが母親と過ごす時間が短縮されることもあり得る」と記されている。2018年11月、ふたりは(ようやく)養育権をめぐって合意に達した。「子どもたちの利益を最大限保護するため」、内容は明かされていない。

金銭的な面でも、この離婚は底なし沼だ。「デイリー・メール」紙によれば、元夫婦はこの果てしない法廷闘争で少なくともそれぞれ100万ドルを失ったという。「ハリウッド史上最も高額で、最も長い離婚訴訟のひとつになると思います」と、弁護士のケリー・チャン・リカートはイギリスの新聞に語っている。「ふたりとも著名な弁護士を顧問に雇っています。相談料は1時間当たり1000~15000ドルと幅があります。そして、こうした弁護士たちは多くの場合、週に40~50時間請求します……」

それに加えて、双方とも自分の要求を通すために、プライベートジャッジや、各方面の専門家に助言を求めたりもしている。イメージを守るために広報のプロを雇っているのは言うまでもない。昨年8月に、やはり「デイリー・メール」紙が、ブラッド・ピットが養育権を取り戻すために、証人として裁判所に召喚する21人の人物のリストを提出したと報じた。そのなかにはメンタルヘルスの専門家も複数含まれていた。それに対して、元夫を怒りっぽい有毒な人物と非難するアンジェリーナ・ジョリーは、5人の専門家を含む7人の証人を召喚した。同紙は、こうした専門家たちに支払われる報酬の額は、最低でも1時間当たり500ドルと見積もっている。長引く訴訟期間を考慮に入れると、子どもひとりにつき費用は数千万ドルに達するとも言われている!

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なかなか消えない熾火

それだけではない。ブランジェリーナはふたりの資産と、共同生活期間中に築いた5億ドルを越えるといわれる財産、そして有名なプロヴァンス地方のシャトーを含む複数の共有財産の分割についても話し合わなければならない。

結婚の際に取り決めを交わしていたかどうか、あるいは離婚費用の分担についても、情報は一切伝わっていない。ふたりの俳優はこの件では口を閉ざし続けている。唯一わかっているのは、ミラヴァルのドメーヌと、敷地内にある人気のロゼワインが生産される名高いブドウ畑が2011年に6000万ドルで購入されたことと、最近、アンジェリーナが自分の持ち分を元夫に無断で売り払ったことだけ。これについては卑怯な手口だという声も上がった。

私生活でも社会的にも深い傷を負ったものの、どちらもスターとしてのイメージは崩壊していない。ブラッド・ピットは「キング・オブ・クール」として再評価され、2年前にはクエンティン・タランティーノ監督作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でアカデミー助演男優賞を受賞。58歳の今も年齢を感じさせない男の魅力を放っている。アンジェリーナ・ジョリーは一時映画界から遠ざかって、人道活動に熱心に取り組んでいる。

離婚をめぐる訴訟はしかし決着には程遠い。子どもたちは敵対する両親の間で引き裂かれている。「一番年下の双子ノックス&ヴィヴィエンヌは14歳になったところです。ということは、まだあと4年、彼らが成人に達するまで係争が続く可能性がある」とケリー・チャン・リカートは見る。破局のきっかけにもなった、母親と仲のいい長男のマドックスは、距離を取るために韓国留学を決めた。赤々と燃える家族から遠く離れて。

text : Isabelle Girard (madame.lefigaro.fr)

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