夫と別れて、同性と暮らすことを選んだ女性たち。

Culture 2022.09.07

彼女たちは長い間、自分のパーソナリティの一部を隠し続けてきた。ひとつの出会いがすべてを変えたその日まで。30歳を過ぎて、それまでと違う恋愛指向に目覚め、遅まきながらカミングアウトした女性たちの証言を、フランスのマダム・フィガロがリポートする。

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「夫と別の人を好きになったらどうするか? 夫と別れて“その別の人”の元へ行けばいい。たとえその人が女性であっても」と、セラピストのアンヌ=ロール・ビュッフェは読み解く。
Getty Images

「それまでの私は、あまりにまっすぐな人生を送っていました。学業、安定した仕事、結婚、出産。ひとつのカーブもないまっすぐな直線」と、37歳のイシャは遠い目で過去を振り返る。彼女の人生はそのまままっすぐ続いていたかもしれない。同じ通りに新しい隣人が引っ越して来なければ。そして、自分より3歳年下のこの女性に恋をしなければ。

「ベネディクトに出会う前も私は幸せでした。凸凹のないシンプルな幸福。でもいまはわかりますが、心底幸福だったわけではなかった。元夫に対する気持ちが変わったわけではありません。気付いたのは、彼は私の親友だということ。ふたりの子どもを育てるという大仕事を一緒に担う存在です。ベネディクトに出会って、私は初めて”大きな愛”という言葉の意味を知りました」と彼女は話す。

自分の体験を語りながら、イシャは何度となく「ステレオタイプとは大違い」というフレーズを繰り返す。小学校教師のイシャと銀行員のベネディクトは「タトゥーもない、ショートヘアでもない。レザージャケットより花柄のワンピース、ロックよりフレンチポップが好き。ステレオタイプとは大違い」、彼女たちはふたりとも「それぞれの元夫と良好な関係を維持していますし、男性との関係で問題を抱えたことは一度もありません。ステレオタイプとは大違い」——まるで自分たちカップルをスタンダードにするための合言葉のようだ。そう指摘すると、イシャは大笑いして「もちろん私たちは普通のカップルです。でも最初の頃は、“異常”だと思われないように必死だったので……。そのときの名残だと思います」

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子ども、そして転居

家族や身近な友人たちは彼女たちの愛の物語に理解を示してくれたが、ふたりが住んでいたブルターニュの村の人々の反応はまったく違った。カミングアウトしたイシャを、生徒の保護者たちは冷淡にあしらった。生徒たちは敬意を欠いた態度を取るようになった。陰にこもった敵意に1年間耐えた後、ふたりは仕方なく、より大きな都市に引っ越すことにした。

「元夫は素晴らしかった。私たちはそれはもう、たくさん、たくさん、話し合いました。彼は私が満たされていないことを感じ取っていました。そのせいで彼も、ベネディクトが現れる前から、わたしたち夫婦の関係に不満を抱いていたのです。アパルトマンを見つけてくれたのは彼です。引っ越しの日も私たちを手伝いに来てくれた。子どもたちに別れる理由を説明するときにもそばにいてくれました」と彼女は明かす。

バカンスの間、元夫は娘たちの本棚を充実させた。下の娘には『愛のニュアンス』『ジューヌの冒険』『クリステルとクリオリーヌ』といった児童向けの絵本を買った。上の娘には、ジョゼット・シシュポルティシュの『知られたくない』を読み聞かせた。どれも、さまざまな愛の形や同性愛、離婚を子どもに向けて語った物語だ。「娘たちはこのことを乗り切ってくれました……ごく自然に。最初はもちろん私たちが離婚することを心配していました。でも私たちは娘たちの質問に答え、娘たちを安心させるようにいつも心がけてきました。いま娘たちは義理の母親であるベネディクトととても仲良くやっています。私より彼女の方を大事にしているくらい。特にいまは」とイシャは語る。ベネディクトは現在妊娠中なのだ。秋には弟が誕生する予定だ。

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「自由な気持ちになった」

56歳のヴィクトリアが夫と別れて人生で最も大切な女性の元へ行った時は、事態はもっと複雑だった。離婚という言葉が出る前から、夫は子どもたちを連れて遠く離れた地域に転居した。子どもたちとは、7年間の苦闘を経て、ティーンエージャーになるまで再会がかなわなかった。「こうなることは予想がついたはずだった。やり方を間違った、といまも思っています」と彼女は語る。

彼女の夫はもともと「かっとなりやすい」タイプだったという。実際、酷い扱いを受けていた。出て行く力を与えてくれたのは、職場の年上の同僚のマリ=ジョーだった。「彼女は私に救いの手を差し伸べてくれた。ふたりでたくさん笑いました。彼女は細やかな気遣いをしてくれた。彼女からキスされた晩は、とても優しくて、安心感に包まれました。彼女と一緒にいると、自由な気持ちになった」と彼女は振り返る。

「私の世代では夫と別れて同性を選ぶ理由は、ほとんどの場合、男性や男性が象徴するものから逃れるためでした。カウンセリングでも、多くの女性患者から“女性と一緒に暮らすつもり。危険な目に遭わないですむから”という言葉を聞いたものです。これはもちろん誤りです。男性と同じように、虐待する女性もいます。それでも彼女たちが家父長制から自由になりたいという欲求に駆り立てられていたことは事実です」とセラピストのアンヌ=ロール・ビュッフェは読み解く。それに対して、いまの世代の女性たちにとって、選択は明らかなものだという。「夫と別の人を好きになったらどうするか? 夫と別れて“その別の人”の元へ行けばいい。その人がたとえ女性であっても」という具合に。

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自分を定義しない

ヴィクトリアとイシャは自分はホモセクシャルであると自認しているが、イウリアナは違う。3年前、37歳のとき、彼女は夫が経営するバスク地方のレストランに季節労働者としてやって来た若い女性に夢中になった。「テルヴァは私と正反対の女性でした。太陽のように朗らかで、しっかりして、自由。自分に自信を持っている女性。私には驚きでした。彼女の旅やパリでの生活の話もびっくりすることだらけ」と彼女は語る。

24歳の給仕係に店長の妻は魅了された。夏が終わると、イウリアナは11年間一緒に暮らしてきたパートナーと別れ、屋根裏の小さなアパートに住むテルヴァの元へ行った。家族にとっては激震だった。母親は元のパートナーと復縁して、「手遅れになる前に」子どもを作りなさいと彼女に懇願した。と。彼女は聞き入れなかった。両親はその後1年間、口を利いてくれなかった。「本当に彼女を愛しているわけではないとすぐ気付きました。それに自分はレズビアンでもないと。私はただ電気ショックを必要としていたのです。自分の恋愛の手綱をもう一度握るために……。というより、自分の人生の手綱を」と彼女は分析する。

その後、彼女は何度か「かりそめの恋」を経験した。相手は男性の場合も女性の場合もあった。家族との関係も徐々に修復しつつある。「でも、自分自身を犠牲にして、家族が期待するような人間であろうと努力するのはやめました」。特に、と彼女は続ける。「自分を知ることを学びました。これまで一度もそのために時間を取ったことがなかった。そして、太陽のように朗らかで、しっかりした、自由な自分を発見できた」。男女に関わらず人を愛する自由。彼女が気に入っているのはそのことだ。

text : Caroline Lumet (madame.lefigaro.fr)

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