「ちょっぴり浮気」と本物の浮気の境目は?
Culture 2022.09.28
会話をしたら、それは浮気をしたことになるのか? 不貞には度合いがあるのだろうか? メッセージのやり取りをしたら、写真を送り合ったら、一緒に飲みに行ったら……? 浮気の指標はどこに置けばいいのだろう。
話をしただけで、それは浮気…? photo: Getty Images
イリスと暮らし始めるまで、現在35歳のサミュエルは自称「口説きの常習犯」だった。昔から女性を口説き落としたり、相手の瞳にときめきを灯したりするのが好きだった。「全員と関係を持ったわけではありませんよ。大抵の場合は唆す段階で止めていましたから」と付け加える。4年前、口説き文句は心の奥にしまい、笑顔はイリスだけに向けようと彼は決めた。しかし本性はそう変えられるものではなく……
3年以上ひたむきにイリスだけを見続けた映画監督の彼は、あるCMの撮影でソフィに出会った。最初は褒め言葉を投げかけてみたり、彼女のお気に入りのパンを買っておいたり。仕事上のやり取りの最後にはちょっと意味深な一言を付け加えてみた。そして一緒に組んでいたプロジェクトが終わっても、メールのやり取りは続いた。
曖昧な表現は度を増していった。「完全にプラトニックな関係です。写真などは送り合わないし、実際に会うこともない。イリスとの関係を脅かすものではありません。いうなれば、自分のエゴを満たすための無害な口説きゲームです」とサミュエルは言う。しかし果たしてイリスは同じ意見だろうか? 「確かに、同じ尺度でものを見ているわけではないでしょうね」と彼も認めた。
では浮気の尺度はどう測ればいいのだろうか。ちょっとした色目使い、知らない人から一杯おごってもらう、列車の中で交わしたちょっと怪しげな会話、それともキス……?
「人を魅了したいという欲求自体は必ずしも深刻な問題ではありません。それに必ずしもカップルがうまく行っていないというサインでもありません。ある程度の軽さと自由度は受け入れる必要はあります。問題となるのは、長期に渡って並行した関係が続くことです」と“ラブコーチ”であるアニエス・ヴェルファイイーは説明する。このような現象が急上昇しているのを自身の診療所で目のあたりにしている。「SNSはさまざまなことを矮小化させました」と彼女は分析する。
ヴェルファイイーの意見を裏付ける数字はたくさんある。今年4月にExtraconjugales.comというサイトがフランス、ベルギー、ルクセンブルク、スイスでの浮気行動について行った調査によると“マイクロ・チーティング(マイクロ浮気)”という現象は増え続けていて、フランスでは男性の58%、女性の52%がこのような形でパートナーを裏切ったことがあるとのこと。「パートナーではない相手と感情的な関係を結ぶことをマイクロ・チートと言います。かなりギリギリの恋愛ゲームで、危険をはらんでいます。悪い方向へとずるずる引きずられていく可能性があり、パートナーはそれを裏切りだと感じる可能性があります。これは感情的な浮気ですから」とアニエス・ヴェルファイイーは警告する。
39歳のビジネス法律事務所の弁護士、アントナンはまさにそう感じた一人だ。妻が職場のアペロ(飲み会)がある度に、特定の同僚と残って飲み続けていたことを知ってショックを受けた。妻のフレデリックはこの“罪のない口説き合い”について女友達に話し、その一人の夫がアントナンに忠告したのだった。
追い詰められた妻はマイクロ・チーティングを認めた。この関係は日常に少し刺激を与え、アラフォーの不安を拭うための無害の戯れゲームでしかないと彼女は説明した。しかしアントナンは考えてしまう。「もしいまの段階で発覚していなかったら、ふたりの関係は更に発展していたのだろうか。朝、彼女が身支度をしていて2着の服の内どちらを選ぼうか悩んでいる時、きっと僕ではない誰かのためにきれいに見せようとしているんだなと思ってしまう。耐えがたいですね」。ふたりは現在、カップルセラピーを受けている。「信用できなくなってしまいました。壊れてしまったものを修復できるか疑問ですし、実際修復したいのかも分かりません」
41歳のカミーユはマッチング・アプリTinderでプロフィールを作った。「ただどれくらいのマッチング率が得られるのか知りたかっただけ」と彼女は説明する。数日後、すぐにパートナーにこのことを打ち明けた。「激怒するかと思いきや、彼はどうして私がそのようなことをしたのかを知りたがりました。その晩、ふたりでたくさん話しました。彼が昔と同じくらい私に惹かれているのか疑問を抱いていることも打ち明けました。もちろん、互いに対する性的欲求がいくらか薄れてしまうのは当然のことです。でも以前のように私の姿を褒めることはしないし、愛情の込もった仕草も減っていました」と彼女は語る。
話し合いの成果なのか、10数名の男性がアプリ上で彼女に興味を示したからなのかはわからないとカミーユは言うが、ふたりの関係はこの難関を突破したそうだ。それ以来、パートナーの求愛行動は続いている。花束、ちょっといやらしいメール、そして……「週末には目覚ましにアソコの愛撫まで」とカミーユが顔を赤らめて打ち明けた。
カップルを盛り上げるためのマイクロ・チーティング? 悪くないかもしれない。「長く続くカップルは、衝突のないカップルではなく、衝突を解決できるカップルです。マイクロ・チーティングはふたりの関係性を一から考え直す機会にもなり得ます」とアニエス・ヴェルファイイーは答える。欲望の炎が再燃する可能性もある。
text: Caroline Lumet (madame.lefigaro.fr) translation: Hana Okazaki, Hide Okazaki