エリザベス女王の「秘密の番人」、のっぽのポールの物語。

Culture 2022.09.30

エリザベス2世にとって、いなくても困る人はいなかった。ただひとりの男を除いて。その人は「のっぽのポール」の渾名を持つポール・ウィブルウ。女王に40年間仕えた、お気に入りの従者だった。女王から打ち明け話をされることもあった彼の横顔を紹介しよう。

ロンドンオリンピックでエリザベス女王がダニエル・クレイグと共演した際にも、のっぽのポールは女王の隣に。Instagram @royallifefanのスクリーンショット

9月14日、彼は直立不動の姿勢で、王室の人々の傍に控えていた。エリザベス女王へ哀悼の意を込めて。世間一般には知られていないが、ポール・ウィブルウは40年以上もの間、英国女王に仕えてきた人物だ。モーニングに身を包んだ63歳の従者はウェストミンスターホールに入場する棺をじっと見つめていた。最期の瞬間まで仕えた女王への最後の「グッバイ」の代わりに。

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「秘密の番人」

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英国女王の「秘密の番人」となったポール・ウィブルウ。(ウィンザー、2004年11月19日)photography: Getty Images

身長193cm。「トール・ポール(のっぽのポール)」の渾名を持つ彼は、確かに目立つ。しかし彼が傑出した人物であるのは、その長身ゆえではない。バッキンガム宮殿を見舞った数々の危機、スタッフ間のいさかい、そしてウィンザー家の騒動といった嵐の渦中にありながら、つねに自らの職務を忠実に果たしてきた、その実績のためだ。

銀行のディレクターの家に生まれた彼は、44年間にわたってエリザベス女王のために働いた。2021年にはついにバッキンガム宮殿で最古参のスタッフとなった。忠実な仕事ぶりが評価され、ロイヤル・ヴィクトリア勲章を授与されたポールは、王室内にひとりとして敵を作ったことがないという。その上彼は英国女王にとっていかなるときでも頼りになる相談相手だった。イギリスの複数のメディアから「女王の秘密の番人」と呼ばれている。

たとえば、「メグジット」の後、カリフォルニアに移住したハリー王子が電話を掛けてきた際に、女王に電話を取り次ぐのは「のっぽのポール」だった。また、女王のお気に入りのテレビ番組の放送時間を確認するために「ラジオ・タイムズ」をチェックするのも彼だった。エリザベス女王が晩酌に召し上がっていたジンとデュボネのカクテルを控えるよう勧告された時、代わりにりんごジュースを女王に給仕したのも彼だ。

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ウィンザー城へ引っ越し

1959年にエセックスのブレントリーに生まれたポール・ウィブルウは4人兄弟の2番目。質素な家庭に育った彼は、早くも中学生の頃には、将来は王室に仕える仕事に就きたいと考えていた。彼の最初の職務はジュニア・フットマン。しかしすぐに彼は「女王陛下」の目に留まる。女王の飼い犬のコーギーたちを手懐けるのがうまかったからだ。これが長いキャリアの出発点となった。

その後、控えめで謙虚な「のっぽのポール」は宮廷内で独自の地位を築き、専用の仕事場を持つまでになった。2006年に女王がウィンザー城に拠点を移すことを決めたとき、女王はロンドンを離れて、自分と一緒に引っ越してもらえるかポールに打診した。最初はとても悩んだものの、彼は最終的にこの依頼を承諾した。「彼なら民間企業でどんな仕事でも見つかったでしょう。そしてもっと稼ぐことができたと思います。でもそうした考えは彼の頭をよぎりもしなかった」と、友人のひとりが「デイリー・メール」紙の王室特派員リチャード・ケイに語っている。

ロンドンを離れることになったポールは、ケンジントン宮殿の元厩舎の上階に設けられた質素なアパルトマンを手放し、ウィンザー・グレート・パーク内にあるより豪華な一軒家に転居することになった。エリザベス女王はインテリアは好きなようにコーディネートしていい、請求書はこちらに送るようにとまで言ったと、イギリスのマスコミの間ではささやかれている。

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フェイガン事件の核心

何が起ころうと、いい時も悪い時も、女王は常に忠実な従者に信頼を寄せていた。1982年に34歳のイギリス人マイケル・フェイガンがバッキンガム宮殿に侵入し、女王の寝室に入り込み、女王と対面するという事件が起きた。この時もことなきを得たのはおそらく彼のおかげだ。ポールはまず侵入者を落ち着かせ、それから相手にウイスキーを一杯振る舞い、その後当局に引き渡したという。

別のエピソードもある。今度はもっと愉快な話だ。2012年のロンドンオリンピック開会式でセンセーションを巻き起こした短編映画で、ダニエル・クレイグ扮するジェームズ・ボンドと女王をエスコートしていたのは、「のっぽのポール」その人なのだ。

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こうして女王に仕えた年月には犠牲も伴った。ポール・ウィブルウは独身を貫いた。彼は自分の仕事と「結婚」したと彼の友人たちは冗談交じりに話す。王室で最も興味をそそる職務のひとつを担うための代価といえよう。9月19日、ウィンザー家の人々と同様に、最期の旅に出る女王をエスコートするため、彼も女王の傍に控えていた。

text : Ségolène Forgar (madame.lefigaro.fr)

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