時代を見つめ直すために、毛利悠子が考えること。

Culture 2022.10.06

失われ始めていた質感を通し、いまの時代を見つめ直す。

毛利悠子

20220819-YUKO MOHRI-01.jpg

YUKO MOHRI
1980年、神奈川県生まれ。日用品や玩具、楽器など、さまざまなものを組み合わせてインスタレーションを制作。2018年の十和田市現代美術館『ただし抵抗はあるものとする』など、個展も多数開催。

 

クリエイティブの根源のひとつに、緊急事態が起きた時のプロセスにある

20220819-YUKO-MOHRI-02.jpg

空間の中に仕掛けられたさまざまな日用品が、絶妙なタイミングで動き出したり、音を発したり。毛利悠子の作品に入り込むと、日常では見過ごしていた些細な物音や動きに敏感になり、いつの間にか置かれたモノを超えて空間や時間へと意識が拡大する、そんな不思議な感覚に陥る。

2007年から作品を発表し続け、着実にキャリアを積み重ねた毛利にとって、コロナ禍は自身の活動を振り返る絶好の機会となった。この間、特に失われたものは何かと考えた時に「質感」という言葉が浮かび上がってきた。

「コロナ禍で質感が失われていたのだと感じました。また自分の作品を振り返ってみた時に、音はもちろん、素材や空気の質感を拡張する作品を作っているのだと、あらためて気付きました」

3〜6月に開催されたシドニー・ビエンナーレでは、久々に現場へと赴き、現地スタッフとともに作品設置を行なった。2009年から取り組み続けている、東京の地下鉄で見た水漏れ対策がきっかけとなったシリーズ『モレモレ』だ。

「クリエイティブの根源のひとつに、緊急事態が起きた時になんとかしないといけないというプロセスがあると思っています。この作品は自らに水漏れを課して、その空間で現地の日用品を使って即興的に作り上げていきます。シドニーって晴れのイメージなのですが、異常気象で雨が続き、本当に街中で水害が起きてしまって。作品と状況が重なる、という偶然が起こったのも興味深かったですね」

20220819-YUKO-MOHRI-03.jpg

新たに取り組み始めたのは、フルーツを使った作品だ。フルーツに電極を差し込んで、水分量を測る。乾燥したり腐敗したりすることで起こる抵抗値の変化によって、音階が変わり、フルーツそのものの色や形、匂い、環境自体が変わっていく。

さまざまな作品を通して何かのメッセージを伝えるというよりは、質感を残したいという。

「どの作品も同じですが、はっきりと形や答えがあるわけではない。ある状況を切り取って、抽象化した、その質感を伝えていきたいと思います」

『モレモレ東京』
会期:10/20~12/24
Akio Nagasawa(東京・青山、銀座)

●問い合わせ先:
www.akionagasawa.com
Neue Fruchtige Tanzmusik
会期:11/2~12/3
Yutaka Kikutake Gallery(東京・六本木)

●問い合わせ先:
www.ykggallery.com

*「フィガロジャポン」2022年9月号より抜粋

text: Keiko Kamijo

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

フィガロワインクラブ
Business with Attitude
パリとバレエとオペラ座と
世界は愉快

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories