「最高に居心地の悪いクリスマス」を過ごしたダイアナ妃の決意とは?
Culture 2022.10.19
悲劇の王妃の霊に接する、ダイアナの憂いと自尊心。
『スペンサー ダイアナの決意』
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サンドリンガム宮殿で行われる英国王室のクリスマスパーティ。ゴージャスなツリーに、贅を尽くした料理……世界で最高のクリスマスなのでは? と想像してしまいますが、ダイアナにとってはむしろ、最高に居心地の悪いクリスマスでした。この作品ではクリスマス期間、ダイアナが重要な決断をするまでが描かれています。
気怠い表情でポルシェを飛ばし、大幅遅刻しながら宮殿に向かうダイアナ。クリステン・スチュワートが演じるダイアナはCOOLでアンニュイ。学校行事行くのダルい、みたいな風情が素敵です。王室ゴシップ好きにとっては、パーティの裏側を知ることができる貴重な作品。1847年にアルバート王子が始めた体重測定のしきたりは、出席者がきちんと食事しているかをチェックするためだそうですが、摂食障害があるダイアナにとってはプレッシャーでしかありません。「どうせ体重の半分は宝飾品よ」と殊勝にジョークを放ちますが、無愛想な執事はスルー……。
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過去の価値観や残留思念が渦巻く宮殿は薄暗くて寒々しいです。ついにアン・ブーリンの幽霊まで出現。スペンサー家の遠縁で、夫のヘンリー8世に無実の罪をきせられ処刑された悲劇の王妃です。チャールズ皇太子の不倫に悩むダイアナの、哀しみの感情に共鳴して出てきたのでしょうか。霊だけでなく、父親の上着にも話しかけていて、ダイアナの孤独の深さが偲ばれます。ダイアナの癒やしは、息子たちと過ごす時間と、彼女を心配する王室スタッフとの交流。やはりダイアナはカリスマ性があり、ファッションセンスも最高です。英王室にはなじめなくても、英王室以外では皆に愛され憧れられていた……。そんな現実が見えてきます。世界レベルでアウェイだったのは、実は、古い価値観に縛られた王室一家だったのかもしれません。この映画でダイアナ先輩に憧れるファンがまた増えそうです。
俗世や女の欲を、毒の花束を添えてむき身にする作風が評判を呼ぶ。近著に『電車のおじさん』(小学館刊)、『辛酸なめ子の独断! 流行大全』(中央公論新社刊)ほか。最新刊は『辛酸なめ子、スピ旅に出る』(産業編集センター刊)。
監督/パブロ・ラライン
出演/クリステン・スチュワート、ジャック・ファーシングほか
2021年、イギリス・ドイツ映画 117分
配給/STAR CHANNEL MOVIES
10月14日より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて順次公開
https://spencer-movie.com
新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。
最新情報は各作品のHPをご確認ください。
*「フィガロジャポン」2022年11月号より抜粋