機械が人間に注ぐ、愛と時間の物語:『アフター・ヤン』。

Culture 2022.10.31

ロボットの優しい視線が、二度とない「時間」を透過。

『アフター・ヤン』

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人型ロボットのヤンが自動シャッターを押す家族写真の時間は、やがて彼のメモリーが刻印する「失われた時」となる。テクノと自然、記憶と宇宙、有情と無常、充足と寂寞が、対立するのではなく隣り合い、呼応し合う。© 2021 Future Autumn LLC. All rights reserved.

秀逸なデビュー作『コロンバス』に続く、コゴナダ監督(小津安二郎ゆかりの脚本家、野田高梧をもじったアーティストネーム!)の待望の長編第2作である。前作は現代アメリカの地方都市を舞台としていたが、今回はなんとSFだ。

ヤンはAIロボット、この時代は「テクノ」と呼ばれる意識を備えた人工人間が一般の家庭にも普及している。茶葉店を細々と営む父のジェイク、外でバリバリ仕事をしている母のカイラ、中国系のまだ幼い養女ミカ、ヤンはミカの「兄」として購入された。4人家族は幸せな生活を送っていたが、ある日、ヤンが突然機能を停止し、動かなくなる。

ジェイクはミカのためにヤンを修理しようと奔走するが、故障は深刻で、なかなか対処法が見つからない。その過程で、ヤンのメモリバンクに過去の思い出が1日数秒ずつ記録されていることが判明する。ジェイクがそれを見てみると、彼ら家族との平穏で愛に満ちた暮らしの断片が映っており、さらに遡ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。

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このあたりからミステリアスな展開となるが、かといってこの映画はミステリーではない。ある意味ではSFでもないのかもしれない。この作品が描こうとしているのは、ヤンという一個の機械でしかない存在が、自分が大切に思う人間たちに注ぐ優しい視線と、そして「時間」である。

テクノは故障でもしない限り、半永久的に駆動する。つまりその寿命(?)は人間の一生よりも長い。ヤンはジェイク一家の前にも、たくさんの人々を見守ってきたのだ。謎の女性の正体が知れてから、この映画の真のテーマらしきものが次第に浮かび上がってくる。それをここには書けないが(ネタバレ厳禁)、淡々としつつも徐々に胸に染み入ってくるかのようなこの映画が、一方で極めて現実的な問題意識に支えられているということが、注意深い観客にはわかるだろう。コゴナダ監督、やはりただものではない。

文:佐々木 敦/文芸・音楽批評家、小説家
文学、音楽、映画などで批評、企画、制作活動を行う。近著に『それを小説と呼ぶ』(講談社刊)ほか。2021年、初小説『半睡』(書肆侃侃房刊)を上梓。新刊は児玉美月との対談本『反=恋愛映画論』(Pヴァイン刊)。音楽レーベルHEADZ主宰。
『アフター・ヤン』
監督・脚本/コゴナダ 
出演/コリン・ファレル、ジョディ・ターナー=スミス、ジャスティン・H・ミン、マレア・エマ・チャンドラウィジャヤほか
2021年、アメリカ映画 96分 
配給/キノフィルムズ
10月21日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国にて順次公開
www.after-yang.jp
 

*「フィガロジャポン」2022年12月号より抜粋

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