ハリー・スタイルズ、ビリー・アイリッシュらミュージシャンたち、グッチを去るアレッサンドロ・ミケーレに賛辞。

Culture 2022.12.04

11月23日、グッチのクリエイティブ・ディレクターは突然の退任を発表し、皆を驚かせた。音楽界のスターたちとの数多のコラボレーションで知られてきたアレッサンドロ・ミケーレへの思いをミュージシャンたちが熱く語った。

【関連記事】アレッサンドロ・ミケーレ、グッチを去ることを発表。

 

Instagram@alessandro_michele

ファッション界のアンファン・テリブルよ、さようなら。アレッサンドロ・ミケーレは、11月23日にグッチを去ることになった。別れの告げ方は彼らしく、一枚の写真で表現された。退任の翌日の20時に、インスタグラムに投稿されたものだ。それは精緻なスタニスラフスキー・システムを採用しているアクターズスタジオの美学をほうふつとさせるような、高解像度のポートレートだった。

暗い背景の前に立つデザイナーに光があたっている。見えない観客に向かってお辞儀をしているのだろう。うつむいた顔はまるでフラ・アンジェリコの「受胎告知」のようだ。「ジーザス・クライスト・スーパースター」ばりのロングヘアが、着ているオレンジのざっくりしたニットセーターにかかっている。ローマ出身のデザイナーはコメディア・デラルテやアルテ・ポーヴェラといったアートの要素、あるいはスペクタクルの社会の無慈悲な奥義をうまくミックスする術に長けている。結果として意味や思いがずしりとこめられた写真となった。長文のキャプションはこれまでの長いキャリアを流麗な文章で振り返っている。「一人ひとりの考え方の違いから、道が分かれることがあります。今日、私にとって20年以上にわたる並外れた旅が終わりを告げました。それは、私がたゆまず創造への情熱や愛情を捧げてきた会社でのことです」

この投稿には数時間のうちに50万件近くのハートがついた。まるでデザイナーに送られた大きな拍手のようだ。写真の横に1万5千件近いコメントが連なったさまはまるで俳句が並ぶよう。“Alessandro sei Grande”「アレッサンドロ、あなたは偉大」とドナテラ・ヴェルサーチェは書いた。ナオミ・キャンベルは、「作品を、そして夢を共有してくれてありがとう」と書き、さらに「アフリカの新興市場の若いデザイナーを受け入れてくれてありがとう。次章での活躍を楽しみにしているわ」と続けた。それはどんな章だろう? いまのところアレッサンドロ・ミケーレの次の一手はまだ誰も知らない。

---fadeinpager---

ミュージシャンをこよなく愛す

しかし、彼の功績はファッションと音楽界の関係性のなかに永遠に刻みこまれた。これほど舞台芸術と密接な関係を持ったファッションデザイナーはこれまで存在しなかった。アレッサンドロ・ミケーレは長年にわたり、ポップ、ソウル、ロック、ラップ、ブルース、エレクトロなど、あらゆるジャンルの世界中の音楽スターとユニークで深い関係を築いた。既成概念に真っ向から挑戦するデザイナーをどのミュージシャンも好ましく思った。ヴァージル・アブローがストリートカルチャー、ラップやヒップホップの美学とヴィトンのクリエーションとの間に親密な対話を育むことに成功したならば、アレッサンドロ・ミケーレはさらにその上を行き、音楽界のスターたちの中で太陽王のように輝き、自らの作品を彼らの光で満たした。

グッチのデザイナーとなった翌年、彼はポップとロックの圧倒的なアイコン、サー・エルトン・ジョンと親しくなった。そして全ステージ衣装を手がけるなどのコラボをするようになる。「アレッサンドロと私は双子の兄弟のようなもの」とエルトン・ジョンは語る。「共通の友人」であるジャレッド・レトを通じて知り合ったそうだ。「自分の方がずっと年上だが、自分にそっくりな人を見つけた。アレッサンドロは美を愛し、アート作品をコレクションしている。彼の服は私の人生を幸せで満たしてくれる。私はいつも無鉄砲だった。だからアレッサンドロのことが好きだ。彼は人の目を気にしない」

 

 

エルトン・ジョンがワールドツアーの「Farewell Yellow Brick Road」で着たダイヤの燕尾服もアレッサンドロ・ミケーレがデザインしたものだ。エルトン・ジョンはデザイナーとオーラを共有し、グッチのロゴマーク、2つのGをきらめかせた。ミケーレは、エルトン・ジョンの音楽を聴きながら、彼の大胆な衣装に憧れながら育った。「グッチではエルトンがずっとムードボードに掲げられていました。モードの世界で仕事していると、必ず彼やデヴィッド・ボウイの1970年代の写真にお目にかかるのですが、ふたりは地球上で最も派手なタイプです。エルトンは私の仕事を大きく変えました。何しろ私はあの時代の大ファンですから」とミケーレは言った。

---fadeinpager---

神秘的でアバンギャルド

音楽をこよなく愛するアレッサンドロ・ミケーレは、グッチのクリエイティブ・ディレクターだった7年間、あらゆるジャンルや年代のスターとコラボレーションした。ポップアイコンのハリー・スタイルズやラッパーのエイサップ・ロッキー、ラナ・デル・レイやイタリアの人気ロックバンド、マネスキン等々。ミュージシャンらと結びつくことで彼はグッチをいやおうなしに巻きこみ、スターたちの輝きのなかに引きいれた。「翼の生えた戦車で、アレッサンドロは芸術のミルキーウェイを進む」と言ったのは、ロサンゼルスを拠点に活躍するカリフォルニア出身の歌手ビリー・アイリッシュ(20歳、グラミー賞7つ受賞)だ。デザイナーのお別れインスタ投稿にも、鮮血のハートマーク3つで即座に反応していた。アレッサンドロ・ミケーレにステージ衣装(やグラミー賞授賞式での衣装)を依頼しているビリー・アイリッシュはデザイナーを高く評価している。「魅力的な人。彼の世界観が好き。指に古い指輪をたくさんつけているところが好き。どの指輪も神秘的でスピリチュアルな意味がある」と言うと、「奇抜でユニーク、常識破りの彼の服が大好き。アレッサンドロは奇妙でゆがんでいるけれどとても美しい顔を持つモデルたちをカタパルトでタラップに放りこんだ。ファッション界でトランスジェンダーのモデルにスポットライトを当てる勇気を持った人。10歳の頃、ブロンドになりたくて髪を染めたという話を本人から聞いた。彼がグッチにやってきたとき、私の世代はこのブランドをほとんど知らなかった。彼のことをこんな風に思ったことを覚えている。全能の神よ、彼はとても変わっているわ! って。火星かどこか遠い星から来た人みたい。トム・フォードが去ったグッチはずっと死んだも同然と言われていたのに、突然彼が来て......私たちふたりは多くのことを共有している。もしかしたら口にしていること以上に密やかなことを共有している。素敵だわ。私たちミュージシャンにとって、アレッサンドロ・ミケーレはビーコンのような存在。彼はレーダーを持っているから、私たちは彼につき従う」と熱く語った。

---fadeinpager---

超繊細なことで有名

カール・ラガーフェルドと親交があり、燃えるような赤毛が特徴的なシャネルの元ミューズ、イギリス人歌手フローレンス・ウェルチ(フローレンス・アンド・ザ・ザ・マシーンのボーカル)もビリー・アイリッシュ同様、アレッサンドロ・ミケーレのソウルシスターだ。彼女の印象的なステージ衣装を手がけたデザイナーはコンサートにも必ず顔を出す。「彼とはゴシック様式やルネサンス美術の点で趣味が一致している」とフローレンス・ウェルチは言う。そして、「わたしはずっとアレッサンドロのファン。なぜなら、カール(ラガーフェルド)同様、非常に教養があってオープンマインドで、好奇心旺盛なクリエーターだから。アレッサンドロは超繊細なことで有名。ミュージシャンが皆、彼を支持するのは、彼がアーティストと共感関係を作りあげるから。私たちのことを理解して、そっとデリケートにやすやすと私たちの世界に入りこんでくる。全く異なる世界を渡り歩いて多様な文化からインスピレーションを得られる人ね」と評した。

フローレンス・ウェルチによると、イギー・ポップもパンクも、タイラー・ザ・クリエイターもラップも、ハリー・スタイルズもポップミュージックも、あるいはフレンチR&Bシンガーのクリスタル・マレーに代表されるニューソウルも、「アレッサンドロ・ミケーレはどうやったら、あふれんばかりの魅力をサーフィンしていけるのか、その術を知っている。彼のファッションショーは感動的なコンサートのよう。アレッサンドロはグッチにかつての栄光と華やかさをもたらし、触れるものすべてをモダンで雄弁にする。ビッグなアーティストに対する嗅覚はあるわ。彼はそのひとりで、これからますます活躍することでしょう。彼のビジョンはファッションの世界を遥かに凌駕している」

---fadeinpager---

社会を巻き込むビジョン

 

 

イグアナの異名で知られるパンク界のゴッドファーザー、イギー・ポップは、アレッサンドロ・ミケーレと何度もコラボレーションしている。あるキャンペーンではアメリカ人の名ラッパー、タイラー・ザ・クリエイターと共演した。「多くのデザイナーとは異なり、ミケーレは有名歌手を写真の中に閉じこめてブランドのミューズに仕立て、単に服を売るために高額の契約を結ぶということをしない。彼は出会いのきっかけを作り、アーティストの仕事を尊重し、彼らがどんな道を歩んできたのか、社会をどう捉えてどう変えようとしているのかに興味を抱く。彼が2つの世代、すなわちタイラー・ザ・クリエイターと私を近づけようとする姿勢も好感が持てた。私が支持している#BlackLivesMatterの活動について意見交換することもできた。あなたがアメリカに住む黒人なら、健全な精神状態を保つのはとても難しい。ここでは人種差別が絶えない。同性愛を禁止する法律の復活を望み、中絶の権利を否定し、民主主義を脅かすアメリカが存在する。一見サーカス芸人のように見えるミケーレは政治的な立場を表明していないが、たとえステージ衣装ひとつにしても人々に考えることを促す。これこそ、私たちミュージシャンもやっていることだ」

数えきれないほどたくさんの歌手が声をそろえてアレッサンドロ・ミケーレを讃えるさまはまるで合唱のようだ。アレッサンドロ・ミケーレが手がけたフィレンツェの複合スペースはカフェテリアも備え、音楽イベントがあったりアーティストを招聘している。たとえば、イギリスのインディーポップとジャズ・エレクトロの分野で大注目の22歳の新進女性シンガー、アーロ・パークス。「彼と仕事するのは楽しい。カリスマ性があって一瞬のうちにクリエーションが生まれる。彼のおかげでガス・ヴァン・サント監督とのコラボレーションが実現し、ポエジーあふれる動画が誕生した。それは人生と地球に関する考察で、インターネットで見ることができる。アレッサンドロは、社会や環境問題を意識していて......こうした問題は、私の音楽制作の中でも重要な関心事だ」とアーロ・パークスは言う。

グッチのアンバサダーを務めるクララ・ルチアーニもアレッサンドロ・ミケーレが好きだと言う。「歴史的なさまざまな要素を組み合わせ、レトロもコンテンポラリーも取り込む力。キリストのような風貌も惹かれる」とのことで、さらに「アレッサンドロ・ミケーレがグッチに入った時から、インスタグラムでフォローしているわ」と語った。「私が好きなヴィンテージのファブリックやカッティングをうまく取り入れて今日性をもたせる術を心得ている。ラナ・デル・レイが音楽でやっているようにね。それに、彼が多様性を許容奨励していること、それを反映させたファッションキャンペーンには感心するし応援している」と言う。

 

 

---fadeinpager---

ハリー・スタイルズと仲良し

アンドロジナスな雰囲気を漂わせるポップ歌手のハリー・スタイルズの横でドレスを着たアレッサンドロ・ミケーレを見かけることも多い。ハリー・スタイルズの方はアレッサンドロ・ミケーレがデザインした透ける黒サテンのチュニックや、70年代風のスーツを着たりしている。ふたりは長年の友人で、「GUCCI HA HA HA 」コレクションでもコラボレーションした。「HA HA HA」とは「ハリー」と「アレッサンドロ」のイニシャルを並べたものであり、「笑う顔」の絵文字の擬音語でもある。「ハリーはすごいファッションセンスを持っています」とミケーレは言う。「コラボのアイデアはある日、ふたりが電話で話していた時に思いつきました。一緒に“夢のワードローブ”を作ろうと提案したのです......こうして、1970年代のポップやボヘミアン、男性服のテーラリングの概念がひっくり返ったなかでのジェントルマン像の再解釈など、さまざまな美学を取り込んだものが生まれました」とミケーレは語る。グレンチェックのダブルブレストコート、パールのシャツボタン、キルト、ストライプのパジャマ、ビビッドカラーのベルベットスーツ等......アレッサンドロ・ミケーレのロマンチシズムと奇抜さはハリー・スタイルズを魅了した。ふたりは10年ほど前、スタイルズがソロ活動を始めた頃に仲良くなった。以来ハリー・スタイルズがウェンブリー・スタジアムで熱狂的な観衆の前に立つときは、アレッサンドロ・ミケーレの衣装を必ず着ている。

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

@gucciがシェアした投稿

 

---fadeinpager---

共同プロジェクト

イタリア人デザイナーのミケーレは、他にも多くの有名ミュージシャンを魅了してきた。エレガントなブルースマン、カーティス・ハーディングや歌手のルー・ドワイヨンは共にアレッサンドロ・ミケーレの招きでデジタルプロジェクト「GucciGig」に参加した。これはインスタグラムを通じてコンサート体験を共有するもので、同プロジェクトの写真と映像は、パンク写真家のジェイミー・ウジコンスキーとミニマリスト画家のジョン・ザバワが手がけている。

アレッサンドロ・ミケーレは、アートやデザイン、歴史、哲学、ポップカルチャーに精通し、アーティストのクリエーション活動を促進するために数々の共同プロジェクトを立ち上げてきた。そしてシーズンごとに、画家、イラストレーター、パフォーマーなど、幅広いアーティストと組んできた。彼の退任で歴史のひとつのページが閉じられる。しかしながらこのクリエーターの未来を想像せずにはいられない。彼を囲むローマの宮殿のピンクが、素晴らしいミュージシャンたちの先鋭的な色とぶつかることがない未来を。

text: Paola Genone (madame.lefigaro.fr)

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

フィガロワインクラブ
Business with Attitude
パリとバレエとオペラ座と
世界は愉快

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories