ショーン・ペンと実の娘の姿が、現実とスクリーンで重なる『フラッグ・デイ 父を想う日』

Culture 2022.12.23

実生活を役に投影させた、別れゆえの父娘の情の綾。

『フラッグ・デイ 父を想う日』

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娘にひとときの幸福をもたらすも、浮き草稼業のジョンはヤバくなると不意に姿を消す。性懲りのなさに呆れつつ父を見限れない娘の視点から、物語は語られる。その照り返しのように、父の哀切の想いもあふれ出す。

ショーン・ペンの監督作で、娘のディランが主演となれば、話題性は事欠かない。というか、娘との初共演ばかりを取り上げられて、作品評価は二の次になりかねない。それほど娘を売り出したいのか、との批判まで出てきそうだ。ショービジネスの世界で長く生きてきたショーンが、そのリスクを考えなかったわけがない。それでも彼は、この作品を娘ディランと撮りたかったに違いないのだ。

主人公は典型的とも言えるダメな親父で、娘は思慕を抱きながらも父と家族の間で揺れ動き、自分を見つめていく。観ていくうちに、作中親子の葛藤と現実のショーン・ペンの生き様が、まるで二重写しのように重なり合っていく。

役者としてのショーンの実績は申し分ない。が、離婚と再婚をくり返し、飲酒運転と暴行で実刑判決まで受けている。愛すべき人柄でも、よき父親であったとは思いにくい。作中の父親は、ショーンの実生活を拡大投影させたような人物なのだ。その娘をショーンの娘がまた見事に演じている。悩みを抱えながら街をさまようシーンを撮る際、ショーン親娘の胸中には様々な想いが去来したことだろう。あとで知ったのだが、ショーン自身も父親が監督するテレビ作品でデビューしている。なるほど、と思わされた。

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タイトルがまた深い意を帯びてくる。アメリカ国旗の制定日に生まれた自分は生まれながらに祝福されている、と父親は考えている。そもそも家族の中で父親は、旗のような役割を持つのだろう。雨に濡れようと風に吹かれようと、翻る旗の下で、家族はひとつにまとまることができる。

実は私にも娘がいる。仕事に追われながらも家族の時間は作ってきたつもりでも、口うるさい小言ばかりを言ってきた気がする。彼女にとって自分はいい父親だったろうか。何度もそう思わされた。たとえ娘が見てくれずとも、ショーンのように娘を応援する旗を振り続けていたいものだ。

文:真保裕一/小説家
1991年、デビュー作『連鎖』(講談社文庫)で江戸川乱歩賞を受賞。代表作に『ホワイトアウト』(新潮文庫)ほか。2007年、映画版屈指の人気作『映画ドラえもん のび太の新魔界大冒険』の脚本を担当。最新刊は『英雄』(朝日新聞出版刊)。
『フラッグ・デイ 父を想う日』
監督/ショーン・ペン
出演/ディラン・ペン、ショーン・ペンほか 
2021年、アメリカ映画 112分
配給/ショウゲート
12月23日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国にて順次公開
https://flagday.jp

新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。

*「フィガロジャポン」2023年2月号より抜粋

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