フレンチコメディの天才の、煌めく夢と愛がスクリーンに蘇る!『ピエール・エテックス・レトロスペクティブ』を見逃すな。

Culture 2022.12.24

ジャック・タチとの運命的な出会いから映画界入りし、監督・脚本・主演をこなしてフレンチコメディ映画の珠玉作を残した天才ピエール・エテックス。映画監督以外にも、ジャック・タチの『ぼくの伯父さん』や自身の監督作品のポスターのイラストを手がけ、手先の器用さをロベール・ブレッソンに買われて、彼の監督作『スリ』に出演、オタール・イオセリアーニの『月曜日に乾杯!』や『皆さま、ごきげんよう』等の常連俳優ともなった。ミュージシャンであり、サーカスのクラウンとしても活躍。後にシルク・ド・ソレイユのメンバーも輩出した、国立サーカス学校の開設にも尽力するという、まさにマルチアーティストだ。

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短編『破局』より、ピエール・エテックスの肖像。 ©️1961 – CAPAC

しかしその作品群は権利の問題により、長らく上映の機会を奪われていた。そこでジャン=リュック・ゴダール、ジャック・リヴェット、レオス・カラックス、ミシェル・ゴンドリー、デヴィッド・リンチなど、錚々たる映画監督が上映権を取り戻す署名活動を繰り広げ、2010年に晴れて上映可能となった。ピエール・エテックスは、16年に惜しまれながらこの世を去ってしまったが、今回のレトロスペクティブでは、コミカルかつエレガントな魅惑の長編4作品と短編3作品がスクリーンに蘇る。この機会にぜひ、フランスの洒脱さを体現した天才の魅力をたっぷり味わって!

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天才とパリの魅力が交差する、珠玉の長編4作品!

『恋する男』

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『恋する男』LE SOUPIRANT ©️1962 – CAPAC

ブルジョワ一家のアパルトマンに暮らす夫婦は、天文学が趣味の引きこもり息子ピエールを案じ、結婚して身を固めてほしいと願っている。そんな一家の元には、スウェーデン人女性が下宿していて、彼は「結婚してください」と言ってみるものの、彼女はフランス語の意味がわからない。しかたなくピエールはパリの街に繰り出して、女性探しに精を出すが……。

フランスの大脚本家となるジャン=クロード・カリエールとコンビを組んだ、エテックスの初の長編監督作。バスター・キートンやチャップリンにオマージュを捧げながら、おっちょこちょいの求婚者の物語を、セリフよりもパントマイムやギャグを利かせて観る者を楽しませる。アラン・ロブ=グリエの『不滅の女』とともに、1963年のルイ・デリュック賞を受賞し、商業的にも大成功を収めた監督デビュー作は、エテックス映画の魅力とともに、1960年代初頭のパリの風景やおしゃれな風俗も堪能できる珠玉作だ。

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『ヨーヨー』

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『ヨーヨー』YOYO ©️1965 - CAPAC

発明家や起業家を先祖に持つ、大富豪の男が城に住んでいる。家族はなく、使用人たちがいるのみだ。ある日、屋敷の庭にサーカスを呼ぶと、馬を操る美女が現れる。それは彼がかつて愛し、彼の息子を産んだ女性だった。折しも1929年、世界恐慌の嵐が吹き荒れ、彼は破産。すると彼は、車にキャラバンをくくりつけ、彼女と息子の3人の一座を仕立て、旅に繰り出す。時はめぐり、息子は「ヨーヨー」という名のクラウンとして、サーカスの舞台に立っている。そんな彼の心の片隅には、いつも父の城への想いがあった。

ピエール・エテックスが幼い頃から夢中だったサーカスの物語に、父と息子のドラマを絡めた監督第2作。親子2代にわたる物語を、サイレント映画時代、トーキー時代、そしてテレビ時代という年代に即した演出をとりながら、愛と孤独と自由をメランコリックな旋律に乗せて描く。トリュフォーが絶賛し、ゴダールがその年のベスト10に選んだというのも納得の傑作!

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『健康でさえあれば』

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『健康でさえあれば』TANT QU’ON A LA SANTÉ ©️1973 - CAPAC – Les Films de la Colombe

『恋する男』と『ヨーヨー』の間に撮った2本の短編『不眠症』と『もう森へなんか行かない』に、「シネマトグラフ」、表題作の「健康でさえあれば」を加えた4篇からなるオムニバス映画。冒頭の「不眠症」は、ピエール・エテックス初のカラー映画。寝息を立てる妻の横で、寝つけない男が「ドラキュラ」を読み始めと……。ここでもエテックスがベッドの男と本の中のドラキュラの二役を演じ分けている。西部劇上映中の映画館を舞台にした「シネマトグラフ」、工事の振動から始まり、騒音、大気汚染、渋滞といった都会の環境悪化を風刺した「健康でさえあれば」、田舎にやってきたハンターと農夫、街からピクニックにやってきた夫婦の失敗続きのスケッチ「もう森へなんか行かない」の3篇はモノクロ。

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『大恋愛』

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『大恋愛』LE GRAND AMOUR ©️1968 - CAPAC

幼い頃から女性にモテた(と思っている)男ピエールは、工場経営者のひとり娘と結婚。義父の会社の跡取りに納まり、義両親の階上の住まいも手に入れて悠々自適、夫婦円満に暮らしている。ところがマスオさん状態の生活に、どこか満たされない想いが募ってゆく。そんなある日、ベテラン秘書の後任として、18歳の美しいアニエスがやってきて……。

ピエールが眠りの床でアニエスを想うと、彼と彼女を乗せたベッドが車さながら田園風景の中を走り出すという妄想の楽しさ! どこの世にも存在する噂好きマダムに、「結婚するなら若い女!」と自論をぶつ男友だちなど、脇のキャラクターも愉快。軽妙洒脱なエテックスの手にかかると、ミドルエイジクライシスものもこんなに茶目っ気たっぷり、チャーミングになるのかと驚かされる逸品。フランスシネマ大賞を受賞。 

『ピエール・エテックス レトロスペクティブ』

12月24日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

配給:ザジフィルムズ

www.zaziefilms.com/etaix

text: Reiko Kubo

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