「ハリー王子は正気を失っている」王室の番記者が語る、ドキュメンタリーの影響とは?

Culture 2022.12.24

12月15日、Netflixドキュメンタリー、「ハリー&メーガン」の全エピゾードが配信開始された。長年ロンドンで王室を取材してきたジャーナリスト、マーク・ロッシュにインタビュー。

00-221216-interview-about-prince-harry.jpg

王室離脱前の「フェアウェル・ツアー」でのメーガン夫人とハリー王子。(2020年3月5日、ロンドン) photography: Getty Images

バッキンガム宮殿に激震が走るかと思いきや......「ハリー&メーガン」のドキュメンタリーは結局、イギリス王室の機密事項暴露といった事態にはならなかった。少し王室に噛みついた程度で、主にターゲットにされたのはウィリアム皇太子だ。「災い転じて福となる」かもしれないとマーク・ロッシュは楽観視している。

仏「ル・モンド」紙の元特派員のマーク・ロッシュは、イギリス王室をルネッサンス期のボルジア家にたとえた『バッキンガムのボルジア』(1)など、イギリス王室に関する著書を執筆しているジャーナリストだ。1980年代からロンドンを拠点に活動する同氏に、ハリー王子夫妻のドキュメンタリーがイギリス王室に与えた影響を聞いた。

---fadeinpager---

--Netflixのドキュメンタリーが最終エピゾードまで配信された直後のイギリスのマスコミの反応は?

イギリスのマスコミは王室が大好きで、メーガン夫人とハリー王子を嫌っている。だからこのドキュメンタリーの2回目の配信は、1回目の時以上に否定的に報道された。マスコミがもっぱら非難するのは、「バッキンガム宮殿はマスコミへリークするためにあらゆる手を尽くした」というふたりの主張に何の根拠も示されていないという点だ。

---fadeinpager---

--この点についてハリーは、王室と英国のタブロイド紙の間に存在する「汚いゲーム」を告発している。要するにロイヤルファミリーの情報を提供する代わりに好ましくない記事の掲載をやめてもらうということだ。実際のところはどうなのか?

バッキンガム宮殿とタブロイド紙がつながっていることは明らかだ。宮殿にとってタブロイド紙は国民とのインターフェイスであり、ロイヤルファミリーのメンバーが不愉快に感じようとも、タブロイド紙は必要な存在だと考えている。一方でバッキンガム宮殿を取材する報道陣は「ロイヤルロタ」という王室記者制度に組み込まれている。ロイヤルロタのメンバーは厳しい規則に従う。勝手な引用は許されず、記事は宮殿のチェックを受けなくてはならず、事前の許諾がない限りロイヤルファミリーのメンバーや側近(私設秘書など)に接近してはならない。唯一の窓口は広報部長とその補佐の人たちのみ。だから必然的にギブアンドテイクの関係になる。いずれにせよ、宮殿がメーガン夫人をおとしめようとしたとは思えない。彼女はロイヤルファミリーの一員だったのだから。広報担当はロイヤルファミリー全員に仕えるべきという宮殿の鉄則がある。だから、少なくともメグジットよりも前に、宮殿が反メーガンキャンペーンを企んだとは考えにくい。

---fadeinpager---

--メーガンとハリーは、2018年秋のオーストラリア訪問がターニングポイントだったと主張している。ふたりによると、メディアからのバッシングは、この公式訪問から帰国した後のふたりの人気の高さを見たバッキンガム宮殿の指示で始まったという......

繰り返しになるが、私はそう思わない。キャサリン皇太子妃もウィリアム皇太子もすでにとても人気があった。さらに継承順位は明確で、疑問の余地がないものだ。エリザベス女王の死後はチャールズが国王となり、次はウィリアム皇太子の番だ。変えようがない。それ以外はハリウッド的なメディア騒ぎであって、体制側は単なる余興だとみなして、あまり気にしない。しかも、メーガン夫人やハリー王子の人気が高くてキャサリン皇太子妃やウィリアム皇太子の影が薄くなったこともない。ハリー王子は挫折した母にこだわるあまり、ダイアナ妃が抱えていた思い、夫のチャールズよりも人気が出たから王室から虐げられたという気持ちをなぞっているのではないだろうか。

---fadeinpager---

心理面から見て、ハリーは正気を失っている
マーク・ロッシュ

--後半の3エピソードは、ウィリアム皇太子への激しい非難がげんなりするほど続く。兄が自分との関係を円滑にするために何もしなかったという非難だ。なぜ、あれほど執拗に攻撃するのだろう。

兄に対する攻撃は、制度的なものというより個人的なものだ。ハリー王子はずっと自分がスペア、二番手であることを恨んでいた。心理面から見て、ハリーは正気を失っている。マスコミからの攻撃にピリピリしているが、彼が敵視しているタブロイド紙はもう別な話題に移っている。アンドルー王子同様、ハリー王子は王室のなかで自分の果たすべき役割がないことに気づいていない。一方で、もしハリーが離婚することがあれば、王室やイギリス国民は暖かく迎え入れるだろう。

---fadeinpager---

--「ザ・ファーム」(イギリス王室の異名)批判がチャールズ3世を弱体化させる危険はないのだろうか。

イギリスでは、ハリー王子夫妻の発言はあまり重視されない。そうした質問すら出てこない。チャールズ3世の治世は好調なスタートを切った。大成功と言ってもいい。ウィリアム皇太子やキャサリン皇太子妃もうまくやっている。カミラ王妃は言うまでもない。私の考えでは、このドキュメンタリーは王政をかえって強化することになるだろう。大きな秘密の暴露もない。ふたりが主張していることは証拠もなく、具体性に欠ける。君主制は嵐の中でも強固な岩のように存在すると人々は考える。しかもエリザベス女王の死後、支持する人が増えている。ただ、別な動きが水面下ではありそうだ。サセックス公爵夫妻は金欠状態で、ハリーの回顧録(1月に発売予定の『スペア』)もそう目新しいことはないだろう。国王は次男となんらかの金銭的な取引をしたのかもしれない。王室としては、前国王エドワード8世とその妻ウォリス・シンプソンに与えられていたウィンザー公爵夫妻の称号にふたりを封じこめ、その見返りとして黙らせようとしているのではないか。そうでなければ、なぜふたりが過激な告発をしないのか理解できない。

---fadeinpager---

--意外なことにドキュメンタリーでキャサリン皇太子妃は攻撃されていない。なぜだろう。

彼女が不可侵な存在だからだ。とても人気があり、ウィンザー家の中で重要な存在になった。しかもメーガン夫人はフェミニストなので、キャサリン皇太子妃を攻撃するのは得策ではないことに気づいている。誰も女性同士がつかみあう争いを見たくない。

---fadeinpager---

--ハリー王子は、王室離脱を交渉する際、祖母に会って話をしたかったが、宮殿側に阻まれたと主張している。メグジットにおいて、エリザベス女王はどのような役割を果たしたのだろうか。

メグジットでは、エリザベス女王と当時皇太子だったチャールズ、その息子のウィリアムが協動した。ハリー王子がサンドリンガム会議(王室離脱直後に行われた家族会議)以外で祖母に会うのは論外だった。エリザベス女王は晩年、チャールズやウィリアムと近く、そのふたりの助言に従っただけだ。しかし、もちろん女王自身の意志も働いた。戦略的な意思決定は3人でおこなわれた。エリザベス女王が恐るべき戦術家であったことを忘れてはならない。

---fadeinpager---

メーガン夫人は、ウィンザー家に欠けていた多様性やフェミニズム、若々しさをもたらすことができたかもしれないのに。
マーク・ロッシュ

--こうした結末を残念に思うべきだろうか。メーガン夫人はイギリスに多くのものをもたらす可能性があったのではないか。

まったく、もったいない話だ! メーガン夫人は、ウィンザー家に欠けていた多様性やフェミニズム、若々しさをもたらすことができたかもしれないのに。残念ながら、悪いのはほぼサセックス公爵夫妻で、メーガン夫人を迎え入れたイギリス王室にはあまり非がないように思う。確かに大歓迎というわけではなかったかもしれないが、セーラ・ファーガソンやキャサリン皇太子妃だって同じような扱いだった......とはいえ、ロイヤルファミリーの計算違いはメーガン夫人がアメリカ人ですでに名が売れている女優、そして離婚経験者という点を考慮しなかったことだ。もっと柔軟に対応すべきだったのかもしれない。メーガン夫人がやってきたウィンザー家には感情プランなど存在しなかった。イギリス人のやり方は我々とは全く異なる。

(1) 『バッキンガムのボルジア家(原題:Les Borgia à Buckingham)』 アルバン・ミシェル社、 2022年5月発行

text: Ségolène Forgar (madame.lefigaro.fr)

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

フィガロワインクラブ
Business with Attitude
パリとバレエとオペラ座と
世界は愉快

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories