映画『君の名前で僕を呼んで』公開から5年......阿部顕嵐と醍醐虎汰朗、朗読劇に挑むふたりの気持ちとは?
Culture 2022.12.25
どんな付き合いの関係性になろうとも、さかのぼれば「初めまして」とあいさつを交わす、すべての始まりの瞬間が存在する。醍醐虎汰朗と阿部顕嵐、2023年1月27日から29日に開催される『君の名前で僕を呼んで 5th Anniversary』の朗読劇でふたりは一生、忘れることのない激しい恋愛を表現する。醍醐が演じるのは映画ではティモシー・シャラメが演じた17歳のエリオ・パールマン。阿部が演じるのはアメリカから研究に来た24歳の大学院生オリヴァー。奇しくもこの取材の日がほぼ初顔合わせといい、私たちは貴重な出会いの瞬間に立ち会うこととなった。ここから舞台が終わるまで、ふたりの関係性がどう紡がれ、どう変わっていくのか。舞台に臨む心境を聞き、またいつもとは違う表情を写すため、ふたりに互いを撮り合ってもらった。
――おふたりに共通の知り合いがいて、何度かすれ違ったことはあると伺っていますが、きちんと話をするのは今日が初めてだそうですね。『君の名前で僕を呼んで』のエリオとオリヴァーの物語は、ふたりの出会いから始まるので、この先、稽古期間を経て、公演が始まり、最終的には深い関係性にいたるまでを、毎日行ったり来たりされる作業になるんだろうなと思いますが、まずは、お互いの第一印象を教えてください。
阿部顕嵐(以下、阿部) 第一印象は、同じ匂いがする人だなと。もちろん、まだ気をつかっていると思うんですけど、ナチュラルですね。変に飾ったりしなくて。現場にいる雰囲気も含めて、お互い似ているんじゃないかなと勝手に思ってます。
醍醐虎汰朗(以下、醍醐) 僕も今朝会って、ここまで一緒に過ごしてみて、前から友だちだったみたいな感覚があります。顕嵐くんから、「タメ語でいいよ」と言ってもらい、同い年の友だちみたいだなって思ってます。
阿部 初めて会ったのは虎汰朗が10代の時で、芸能の仕事をしていない共通の友人とご飯に行った時、そこにいたんですよ。
醍醐 僕は昨年共演した俳優といまでも仲がいいんですけど、顕嵐くんもその人と近い間柄らしくって。
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――今回の朗読劇のキャストを聞いた時、おふたりともイメージどおりだと思いました。特にオリヴァーが最初、主導権を握る関係性などは、顕嵐さんのイメージと重なり合うと感じましたが、いかがですか。
阿部 オリヴァーはやっぱり魅力的でないといけないじゃないですか。それは役作りとして作るものではなく、普段の生活から惨み出るものだと思う。で、自分は多分、 魅力的な人間だとちょっと思っているんですけど(笑)、それが役に出せればいいなって。男性、女性関係なく、人から好かれる魅力を出していけたら、僕が演じる意味があるんじゃないかなと思います。
醍醐 そうですね、そう言えるって最高ですね(笑)。エリオとしてもオリヴァーには魅力的でいてもらわないと困ります。
阿部 僕は、エリオもオリヴァーも共通してミステリアスだと感じていて、特にオリヴァーは気持ちとして秘めているものが大きい。映画を観た時も描写されていない要素が多いと感じて、そこに引きつけられるというか、人としての奥深さに興味が向きました。
醍醐 僕は朗読劇をやると決まってから映画を観たので、当然、自分が演じるエリオの芝居に注目して観たんですけど、演じたティモシー・シャラメが卓越した技術を持っている俳優で、とても魅力的だなと感じました。個人的には嫉妬の表現力がすごいなって思いました。でも、僕らがやるのは朗読で、話す言語も違う。どうはまっていくのか、いまはまだわからないですが、挑戦するのであれば、原作ファンの方も喜んでくれる形に落とし込めたらいいなと。まだ、稽古が始まる前ですけど、いまの段階ではそう思っています。
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――映画では細かい会話があまりなく、目線の応酬でふたりの感情を観客が推し量るような構成になっていましたが、その間を朗読劇ではどう成立させるんでしょうか?
醍醐 おそらくト書きの感覚で喋っていって、その情景を観客が頭の中で、自分のこれだと思い浮かべている風景とあてはめながら、楽しんでいただけたらいいんじゃないかな。
――朗読劇にも最近はいろいろスタイルがあり、動き回るバージョンもあれば、ずっと座ったままもありますが、どういう感じになりそうですか?
阿部 そもそも僕たち自身、朗読劇が初めてで、今日の昼、演出家の岡本さんと初顔合わせで話をしたんですけど、基本的には座って、たまに立つぐらいになりそうだと。僕は結構、動き回るのかなと想像していたんですけど、そうではないみたいですね。生演奏のバンドがいてくださって、先ほど、図面を見せていただいたんですけど、舞台美術のセットも屋外のプールがある素敵なものになるようで、座って演じるスタイルになるけど、新しいものに見えるんじゃないかなって思います。
――映画を踏襲するとなると、エリオとオリヴァーの初めてのキス、初めての夜など、肉体的に踏み込んでいく関係性を声だけで表現するのは、相当難しいチャレンジだと感じたのですが。
阿部 確かにそこは難しいなって純粋に思いますけど、僕たちは初めてだからこそ、「朗読劇はこうあるべきだ」という発想もないので、枠に囚われずに、もっとこうしたらいいんじゃないかと意見も出しつつ、岡本さんと一緒に協力して探っていけたらいいなと思っていますね。
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――エリオはオリヴァーと出会う前はガールフレンドもいて、いろんなことがまだ固まっていない状態の青年です。その曖昧な部分に醍醐さんはどうアプローチをしようと考えていますか?
醍醐 役作りとしては普段ときっと変わらないんでしょうけど、ひとつ気をつけなきゃいけないなと思ったのは、80分間ひたすら、僕たちが喋っているのをお客さんが聞き続けていくこと。それはきっと、お客さんにとっても大変なことだ思うので、 少しでもその負担を減らすために、起承転結をちゃんと計算して、感情の抑揚をいつもより、もっとわかりやすくやらなきゃと考えています。演目上、ふたりの関係性が、結構スローに進んでいくし、日常の光景を切り取っている物語で、どうしてもダレる瞬間がくる時もあると思うんです。でも、そういう瞬間をできる限り、潰していこうと思っています。技術が大事なのかなあ。
――醍醐さんは新海誠監督の『天気の子』の森嶋帆高を演じて、声のお仕事はすでにかなりのキャリアですよね?
醍醐 いやいやいやいや。
阿部 確かにそうですよね。なんか、俺に任せろみたいな感じ(笑)?
醍醐 いや、全く(焦)。声優もやらせていただきましたけど、本業のプロの声優の方たちとのレベルの差なんて、天と地以上に感じましたから。 気軽に「声の仕事、得意です」なんてとても言えない。ただ、『天気の子』を経験したことは、きっとどこかで生きてくるとは思っていますけど。なので、自分の色を出せていけたらいいのかな。
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――阿部さんに伺いたいのですが、エリオが告白しなかったら、オリヴァーとしては、あのままエリオへの思いは封印していたと思いますか?
阿部 自分からは言ってなかったんだろうなと、僕は想像しましたね。映画では、ずっと、やめておけという自制心が強い描き方をされていたので、このまま普通の生き方をしなくてはいけないという歯止めが本人にはあったんじゃないかと考えます。
醍醐 エリオがピュアだから、オリヴァーの自制心を突破できたんだと思います。オリヴァーもピュアなんだろうけど、その気持ちを隠して生きていて、ふたりの対比がすごく繊細に描かれていますよね。
――映画版のルカ・グァダニーノ監督に取材したとき、エリオとオリヴァーはユダヤ系であるという共通要素での関係性も強いと話されていました。脚本を手がけたジェームズ・アイヴォリーがユダヤ人の要素を一度外そうとしてグァダニーノ監督は原作者であるアンドレ・アシマンに確認したところ、やはりその設定は重要であると知り、映画でもそこを大切にしていると。
阿部 六芒星のペンダントがふたりを結ぶ重要なシンボルとして出てくるので、そのペンダントがないと、違う物語になってしまうと思う。そのアイデンティティを考えると、やはりオリヴァーが背負っているもののすごみが見えてくると思います。
――小説ではエリオとオリヴァーの20年後の続編もありますが、読まれましたか?
阿部 まだですが、これから読んでみたいと思っています。
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――おふたりには、映画のキャストの放つ幻想を取り払うという戦いもあるかと思いますが。
醍醐 言語が違うから、そもそも別物なんじゃないかなと思っています。感覚的には、字幕で観るか、吹き替えで観るかくらい違うというか。もちろん、観に来てくださるお客さんの中には映画を見た方もきっと多いと思うんですけど、その方たちの多くは字幕で、ティモシー・シャラメの声を聴いて観ていると思います。なので、それが日本語になった時点で、内容は一緒でも、また別の作品として観ていただけるのではないかと。僕たちとしては、「これもよかったね」と言われることがベストじゃないかと思います。オリジナルの幻想を追いかける作業を、僕らはする必要ないのかな。
阿部 ラストシーン、エリオのお母さんが、彼に話しかけるじゃないですか。「エリオ」って。その時の声色や目線、雰囲気から、息子のすべてを悟っているような、特にセリフはない場面なんだけど、すべてが感じられて、すごく素敵だなと思ったんですね。あと、個人的に好きな場面として、エリオのお父さんの友だちのゲイカップルが家にやってきて、ベチャクチャベチャクチャ口うるさく喋るのに付き合っているお父さん、お母さんの佇まいが好きでした。今回は、他のキャラクターってどうなるんでしょうね?
醍醐 本当にどうなるんでしょうね(笑)。僕らふたりだけで、他のキャラクターはどうなるんだろう。なんにもまだわからない。
阿部 本当にわからないんですが、先ほど、出来上がったばかりの台本を読ませていただいた時、映画でのラストから始まる? みたいな感じでした。
醍醐 これから全部、ちゃんと読まないといけないんですけど、何回も何回も読み込んでいくことになります。
阿部 朗読劇だけど、正直、セリフは全部、覚えようと話しているんだよね。今回、稽古時間が短いけど、多分、僕的には余裕があるほうがやり辛いんですよ。初めての朗読劇で、単に読むだけだと音読になっちゃうから、セリフは全部覚えようってさっき話し合ったんだよね。
醍醐 はい。でもちらっと見た脚本、セリフがすごい量でしたね……。まるまる1ページ、自分のセリフがぎっしりというのも、あったっぽい。すごいプレッシャーです。
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――お正月休みは、記憶の時間に捧げるという感じになりそうですか?
醍醐 わあ、そういうことか。まだ先のことだと思っていました。なるほど。
阿部 まだ何も始まっていない段階で取材をしていただけるのはありがたいし、珍しいですね。
――まさにゼロ地点を取材させていただいたので、この先、おふたりがどれだけ熟成させていくか、貴重な観察の期間になりそうです。最後に伺いますが、おふたりがこれまで活動してきた中で、声のお仕事で刺激を受けてきた方はいらっしゃいますか?
醍醐 『私の頭の中の消しゴム』の朗読劇での梶裕貴さんですね。『天気の子』で梶さんのすごくお世話になったので、観に行ったのですが、すごかったです。それまで普通のトーンで喋っていたのに、突然、スイッチが入って怒りだすところが。で、そこからプツって切れて、違うシーンに移る。なにか新しいジャンルのものを見ているというか、物語そのものよりも、その時は梶さんの声の技術力に圧倒されてしまいました。うわ、やばいなと。自在に、その場の空気を掌握されていて、声の抑揚のつけ方が半端なかったです。さすがプロって思いました。
阿部 僕は朗読劇自体、昔、7ORDERのメンバーが以前出た作品を一度観ただけで、声の仕事で想像するものはアニメーションなんですけど、それこそ、最近のアニメで刺激を受けたのが、「王様ランキング」の梶裕貴さんのダイダ役。一昨日観終わったばかりなので、強く印象が残っています。
――では、最後に観客のみなさんにメッセージをお願いします。
阿部 これからチケットを買おうと思っていらっしゃる方々へ。普通の朗読劇とは違う贅沢な空間になると思います。映画は未見で、初めてこの作品に触れる方にも、この作品が好きな方にも、さらに好きになってもらえるように。初めて見た方が、朗読劇の後に、ぜひ映画を観たいと思ってもらえるような舞台にしたいと思います。
醍醐 いまの段階で言えるのは、原作や映画へのリスペクトを忘れずに、 僕らなりの落としどころをしっかりと考えて、目標に向かって、一生懸命稽古できたらいいなと思います。今回が初めての朗読劇だというお客様もきっといらっしゃると思いますが、さきほど演出家の岡本さんに演出意図を聞いたところ、バンドの生演奏もあるし、ショーみたいだなと。いい会場で、生の演奏を聴けるだけでも最高だなと思いますし、あと、あっと驚く仕掛けもあります。僕が客席にいたら「うわっ」となると思うので、身構えずにすっとショーを観に来る感じで見に来ていただいたら、 満足して帰っていただけるんじゃないかと思います。みなさんの満足点を高めるためにも、 僕らは精一杯、いまから動き続けたいと思います。
上演期間:2023年1月27日(金)~1月29(日)
会場:恵比寿ザ・ガーデンホール
第1部:朗読劇「 君の名前で僕を呼んで」/ 第2部:映画スペシャルトーク
脚本・演出:岡本貴也 音楽監督:土屋雄作
出演:醍醐虎汰朗、阿部顕嵐
チケット: 全席指定9,680円(税込)
https://l-tike.com/kimiboku5th
問合せ:contact@808.baby
主催・企画・製作:カルチュア・エンタテインメント株式会社
© Frenesy, La Cinefacture、© Culture Entertainment Co.,Ltd.
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©Frenesy , La Cinefacture
発売元:カルチュア・パブリッシャーズ セル販売元:ハピネット
text: Yuka Kimbara styling: MASAYA(ADDICT_CASE)(Daigo) hair&make: Mika Nakamoto(Daigo), Saki Arai(ADDICT_CASE)(Abe)