音楽が聞こえてきそうな、70年代ロックバンド一代記。
Culture 2023.01.02
『デイジー・ジョーンズ・アンド・ザ・シックスがマジで最高だった頃』
70年代のLAは、まさにロックの時代。テイラー・ジェンキンス・リードの書いたこの小説は、グリッターのごとくギラギラと栄光に輝き、その頂点で花火のように潔く散ったロックバンドの一代記だ。バンド名はデイジー・ジョーンズ・アンド・ザ・シックス。ブルースロックのバンドとしてスタートしたザ・シックスは、レコード会社の要望で同じレーベルの所属歌手デイジー・ジョーンズをアルバム曲のデュエット相手として迎え入れる。そこでリードボーカルのビリーとデイジー・ジョーンズの間に火花が散った。二人の化学反応はバンドをスターダムに押し上げる。しかし、才能があるのと同時に破滅的であるところもよく似ているビリーとデイジーが、一緒に音楽を作りながら無傷でいられる訳がない。ロックミュージックでしか互いをぶつけ合うことのできないビリーとデイジーの関係を主軸にしたこのバンドの物語は、やはり男女ボーカルがフロントだったフリートウッド・マックを思わせるところがある。
上手い!と思うのは、この小説が複数の証言者のインタビューから成るオーラルヒストリーの形式を取られているところだ。この構成で成功した最初のノンフィクションはイーディ・セジウィックの生涯を追った『イーディ』(筑摩書房刊)だった。ハリウッドでセレブの家庭に生まれ、10代から夜な夜なサンセト・ブールバードで遊んでいたというデイジーはまさしく“西海岸のイーディ”的なイットガール。この形式はそんな伝説的な女性を描くのにぴったりだ。インタビュー集はロック雑誌の記事のような趣もあり、バンドの姿がリアルに、生々しく浮かび上がってくる。当時の音楽業界やレコーディング、ドラッグなどのディテールも正確で、本当にロックバンドのツアーに同行しているような臨場感が味わえる。聞こえないはずの音楽が聞こえてきて、このバンド本当に最高だったんだろうなと思ってしまうのだ。
著作に『ランジェリー・イン・シネマ』(ブループリント刊)、『USムービー・ホットサンド』(フィルムアート社刊)、翻訳にサリー・ルーニー著『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』(早川書房刊)など。
*「フィガロジャポン」2022年4月号より抜粋
text : Madoka Yamasaki