王室でも、夫婦としても「永遠のナンバー2」な、ハリー王子という存在。
Culture 2023.01.05
ドキュメンタリー「ハリー&メーガン」に続いて待望のハリー王子の回顧録がもうじき発売になる。回顧録のタイトルが『Spare(スペア)』であること自体、すでに多くのことを物語っている。
メーガン夫人とハリー王子の新しいポートレート写真。 Instagram / @misanharriman
2021年7月、出版社のペンギン・ランダムハウスからハリー王子の回顧録の出版計画が発表された当初は、王子の取り組みを評価する人が多かった。王室を離れたハリー王子が妻のメーガン夫人も抜きにひとりで何かをしようとしていると。その後発表されたタイトルは「スペア」。つまりは「替え」とか「予備」ということだ。このタイトルは、イギリス王室に対してよく使われてきたある表現を連想させる。「the heir and the spare(継承者とその予備)」だ。王位継承者と、万が一の場合の予備というかスペアタイヤ的な存在を指し、意味深で重いタイトルだ。ハリー王子はこの本ですべてを書くと言っている。子ども時代や王室離脱のことも、母ダイアナ妃やメーガン夫人のことも、軍隊時代や人道的活動のことも、新国王夫妻のことも。ただし、ナンバー2からの視点で。
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「お兄ちゃんが王様になるんでしょ、僕じゃない」
王になることを兄が自覚したときから、ハリー王子はナンバー2となった。もしかしたら、黒塗りのセダンの後部座席に乗った4歳のハリー王子が兄と喧嘩してこう言い放った時からかもしれない。「お兄ちゃんが王様になるんでしょ、僕じゃない。だから僕はなんでも好きなことをやっていいんだ」と。確かに最初はそうだったかもしれない。ウィリアム皇太子は子どもの頃からよくウィンザー城に行かされて、女王のもとで必要不可欠な(しかし間違いなく退屈な)帝王学を学ばなくてはならなかった。一方、2歳年下のハリーはのびのびと過ごしていた。それでも地位は重くのしかかり、ライバル心が芽生えるのは不可避のこと。心理学者のニコル・プリユールは、「ふたり兄弟の場合、長男は相手の立場を受け入れられるかがポイントです。次男の方はその立場を引き受けて、自分の存在意義を見いだせるかどうかです」と言う。
そして「ウィンザー家では、一般家族よりも役割が厳格に決まっているため、ハリー王子はウィリアム皇太子の陰で成長せざるをえませんでした。いずれにせよ王位継承権はないわけですから」と続けた。ハリー王子は兄の邪魔にならないように陰で育ち、兄を守るためにひっぱりだされることもあった。歴史家で人気ドラマシリーズ「ザ・クラウン」のメインコンサルタントも務めるロバート・レイシーは著書『Battle of Brothers』の中で、タブロイド紙が書き立ててきたこととは裏腹に、10代のハリー王子は(15歳でかなりの飲酒量だったものの)兄と比べてそんなにやんちゃをしていたわけではないことを指摘している。ロバート・レイシーによれば、未来の国王が飲酒で失態を犯し、これを隠蔽する必要が生じたときバッキンガム宮殿は「代役」を立てることもした。こうしてハリーは「バッキンガムのバッドボーイ」、あるいは「ダーティハリー」とイギリスのマスコミから呼ばれるようになった。
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#FreeHarry
一度貼られたレッテルはなかなかはがれない。正確には、2016年にミス・メーガン・マークルという人物が登場するまでは。ハリケーン・メーガンはバッキンガム宮殿に新風を吹きこむと同時に、陰で生きる王子の運命も変えた。33歳のハリー王子は離婚経験を持つアメリカ女性と結婚し、平民と結婚した兄に続いて王室のこれまでの掟をこっぱみじんにした。ふたりはサセックス公爵夫妻となり、同時にイギリス王室の悩みの種となった。「メーガンは望むものは必ず手に入れる」とハリー王子はよく宮殿の従業員に言っていたので、従業員は最初、半ば冗談から#FreeHarry(ハリーを解放せよ)のハッシュタグを秘密裏に作ったそうだ......
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カリフォルニア州で優雅な生活
ハリー王子は、格式を重んじる家族と、自分が愛されていないし批判やハラスメントを受けて軽蔑されていると感じている妻との板挟みになり、自由とは言えない状態にあった。2020年に突然イギリスを脱出して自己主張をしてみても、その試みは「メグジット」と呼ばれ、(「ハリキット」と呼ぶのは語呂が悪かったという問題はさておき)ここでもハリーはナンバー2だった。メーガン夫人は、ハリー王子がウィンザー家の中で置かれている立場に目を向けさせ、そこと訣別する勇気を与えてくれたものの、ハンドルを握るのは彼女で、夫は助手席に座っている。夫妻がハリウッドから車で1時間半のカリフォルニア州モンテシートで優雅な生活を送るようになってから、率先して波風を立てたり声を荒げたりするのはハリー王子ではない。2021年3月のオプラ・ウィンフリーと衝撃的なインタビューにおいても、ハリー王子が何を喋ったのか覚えている人はいるだろうか、鶏小屋にいる冒頭のシーンを除いては?
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家族の構図
心理学者のニコル・プリユールによれば、ハリーの妻に対する態度は、彼が家族の中で学んだ成果だそうだ。「祖父のフィリップ王配と父のチャールズ皇太子(当時)は2世代に渡り、活躍する妻の陰にいる夫でした」とニコル・プリユールは言う。祖父は義務から、父はダイアナ妃のような資質に欠けていたから。メーガン夫人はその点でダイアナ妃と似た面がある。カメラに向かって話す術を心得ているのだ。10月初旬にサセックス公爵夫妻の新しいポートレートが公開された。夫妻の友人の写真家ミサン・ハリマンが撮影した。メーガン夫人は赤いモノトーンのブラウスとパンツ姿で正面を向き、満足げに小さく微笑んでいる。ハリー王子は少し後ろで体は斜めを向いている。「確かにメーガン夫人は夫に寄り添っていますが、夫の代わりに台座テーブルであっても構わない感じです」とボディランゲージの専門家ステファン・ブナールは写真が発表された当時に分析した。
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Netflixドキュメンタリー
イギリスを去ればハリー王子もようやく本当の自分を見せるのではないか、と多くの人が思っていた。だが、まだ自分ひとりで生きていこうとは思っていないようだ。そもそもそうしたいのだろうか。2021年の春にApple TV+で配信したメンタルヘルスの6回シリーズでは、オプラ・ウィンフリーと登場した。Netflixで12月8日に公開され、すぐに批判が巻き起こったハリー王子夫妻のドキュメンタリーは米国での新生活を取り上げたものだ。ハリー王子はこれまでよりも饒舌ではあるものの、妻の素晴らしさを正当化するか、兄への恨みを口にするかのどちらかでしかない。ハリー王子が数年前に始めた、戦傷者や退役軍人のためのスポーツイベント、「インヴィクタス・ゲーム2023」のオフィシャルトレイラーでも、卓球台の前に立つメーガン夫人を夫が嬉しそうに見つめる。だから彼が単独で書いたこの回顧録『Spare(スペア)』でついに真実のハリー王子が明かされ、ハリー王子とはどんな人物なのかがわかるかもしれない。
そしてドラマ「ザ・クラウン」がずっと作られ続けるのなら遠い将来、第23シーズンあたりには、離婚して憧れの地、アフリカに移住したハリー王子なんてストーリー展開もありかも?
『Spare(スペア)』サセックス公爵ハリー王子著 Bantam Books
text: Marion Galy-Ramounot (madame.lefigaro.fr)