今年も波乱の予感? セザール賞の「黒歴史」を振り返る。

Culture 2023.01.18

フランスの映画賞のひとつにセザール賞がある。しかしながら、これまでレイプ事件を起こした当事者に賞を与えたりして、批判を浴びたりしてきたことも事実。問題となった過去の授賞式を振り返ってみよう。

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2020年、ロマン・ポランスキーへの授賞に抗議してセザール賞会場を去る女優のアデル・エネル。photography: Berzane Nasser/ABACA

セザール賞を主催するフランス映画芸術技術アカデミーは今回、どうやら面目を保ったようだ。俳優のソフィアン・ベナセルがレイプや暴力で起訴された事件を受け、1月2日に急遽、セザール授賞式に「暴力沙汰」を起こした者は出席させない方針を発表したからだ。今後ノミネートされた者が暴力行為(とりわけ性的暴力や性差別行為)で起訴されたり有罪になったりした場合、授賞式にも関連イベントにも出られないことになる。もっとも授賞対象になるかどうかに関しては不透明で、いまのところ授賞式に出られなくても賞をもらえる可能性は残されている。

いずれにせよ、今回の決定はこれまでいろいろ物議を醸したケースをなくすための第一歩となるだろう。1976年以来開催されているセザール賞授賞式で過去、どんなことがあったのか振り返ってみよう。

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1986年:ゲンスブールのえげつないキス。

1986年のセザール賞有望若手女優賞が発表された時のバツの悪いワンシーン。『なまいきシャルロット』で15歳のシャルロット・ゲンズブールが受賞した。すると、タバコを片手に持ったセルジュ・ゲンズブールが娘の唇にしつこくキスする姿を中継カメラが映しだした。母のジェーン・バーキンも同席していて、こちらは娘に軽くキス。のちにジェーン・バーキンは、日記『Post-Scriptum(原題訳:追伸)』を発売、第2巻のなかで当夜のセルジュ・ゲンズブールが式の前から「へべれけだった」と暴露した。

シャルロット・ゲンズブール自身、「Mマガジン」の取材に、この時期のことを「子どもにとってはつらい経験だった」と振り返っている。「やりすぎ、と思うことまでやらされて嫌だった」とも。今日だったら非難が殺到したことは間違いないだろう。

 

 

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1994年:ご執心のファブリス・ルキーニ

1994年のセザール賞授賞式では、最優秀作品賞のプレゼンターを俳優のファブリス・ルキーニと女優のクレマンティーヌ・セラリエが務めた。クレマンティーヌ・セラリエが胸の大きく開いたタイトなドレスで後から登場すると、ファブリス・ルキーニは「巨大だねえ」とコメント、唇を舐めたり相手の腕を触ったりしながら、かなり執拗に胸に執着していた。当時の観客は大笑いしていたが、今日なら大ブーイングだ。

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2017年:セザール賞審査員長にロマン・ポランスキー

1977年に児童に性的暴行を働いて米国から逃亡し、ほかにも11人の女性から性的暴行の訴えを起こされた監督が、第42回セザール賞の審査委員長に選ばれた。すでに1980年と2003年に2回も同賞を受賞している監督の任命は大きな騒ぎとなり、任命撤回を求める署名活動で6万人以上の署名が集まった。

当時、女性の権利担当相だったローレンス・ロシニョールは、「彼が非難されていることに対する無関心」と「レイプを普通のことだとみなす神経」を激しく糾弾した。騒ぎは大きくなる一方で、ついに監督は委員長職を自ら辞退した。

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2020年:ポランスキーの受賞

2019年、写真家のヴァランティーヌ・モニエがロマン・ポランスキーを告発し、監督はセザール賞授賞式の出席を取りやめていた。しかし、2020年2月28日に開催された第45回授賞式では、監督の映画『オフィサー・アンド・スパイ』が監督賞を受賞した。監督の受賞が発表されると女優のアデル・エネルは「恥知らず!」と叫んで退場することで抗議した。映画監督のセリーヌ・シアマ、女優のノエミ・メルラン、女優のアイサ・マイガ、そのほか多くの者が彼女に続いた。授賞式の司会を務めていたコメディアンのフロランス・フォレスティは賞の発表後、ステージに戻らなかった。

その間、会場のプレイエルホールの外ではこのイベントのために集まったフェミニストたちが怒りの声を上げていた。小説家のヴィルジニー・デパントはアデル・エネルが退場した瞬間を「セザール賞45年間の歴史のなかで最も美しい光景」と称え、「リベラシオン」紙の論壇記事のなかで「立ち上がって去ろう」と呼びかけた。

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2020年 : 物故者リストから「漏れた」ジャン=クロード・ブリソー

2020年2月28日の授賞式では毎年、過去一年間に亡くなった映画人を偲ぶオマージュ映像を流すのが恒例だ。ところが『ひめごと』や『白い婚礼』の作品で知られる監督、ジャン=クロード・ブリソーはそこに入っていなかった。

監督は2005年にセクハラで懲役1年の判決を受け、2019年3月に亡くなっている。監督の妻、リサ・エレディアはこれに対し、「短剣で刺され、唾を吐かれた気分。二度死んだようなもの」と怒りをあらわにした。

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2023年:そして今年の授賞式は......。

過去2回の授賞式はコロナ禍ということもあり、比較的穏やかだった。2021年に女優コリンヌ・マジエロが非正規雇用者の労働条件改善を訴えるためにヌードになったほかは。

しかし今年はまた、セザール賞で一波乱起きそうだ。11月23日、俳優のソフィアン・ベナセルがレイプとDV容疑で起訴されたことが明らかになった。ヴァレリア・ブルーニ・テデスキの監督作品、『Forever Young』でメインキャストのひとりだった彼の名前は、2023年の有望若手男優賞ノミネートリストからすぐに消えた。

しかしながら今回の事件を受けて1月2日に発表された新しい方針は非常に緩やかなものだ。暴力行為で訴えられても受賞の可能性はある。たとえばジェラール・ドパルデューは2020年12月からレイプやセクハラの容疑者として取り調べを受けているが、映画『Maigret(原題訳:メグレ)』でノミネートされる可能性がある。もし受賞したら単にステージでの登場もスピーチもなしというだけのことになる。

text: Zoé Grandjacques (madame.lefigaro.fr)

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