「年の差」カップルが増えているフランスの恋愛事情。
Culture 2023.01.18
愛していれば、年齢など関係ない……。フランスでは、時代と平等の象徴として、女性が男性より年上のカップルが増えている。そして、こうしたカップルは、古典的な欲望の境界線を嫌う情熱的な関係が多い。関係者の証言を集めたフランスの「マダム・フィガロ」の記事を紹介しよう。
フランスでは、男性が年下の男女カップルが増えているという。photography: iStock
彼らは日当たりの悪い小さな通りの、ポーチの下に避難してきた。45歳のピエールがショーナにキスしようとしている。初めてキスをしようとした時、彼女は彼を引き止めるように「私は71歳になる」と告げる。彼は「君の誕生日パーティーに招待してくれないか?」と答える。映画『Les Jeunes Amants/若い愛人たち』(日本未公開)の中でファニー・アルダンとメルヴィル・プポーが演じるこの恋人同士は25歳差。そしてストーリーは続く。
脚本家のアニエス・ドゥ・サシーは、いまは亡き才能豊かな監督ソルヴェイグ・アンスパックとともにこの映画の脚本を書き始めた時、この物語にインスピレーションを与えた人物に出会った。ピエールのモデルとなった55歳の医師ニコラは、アンスパック監督の80歳になる母親、ヘグナとめくるめく恋をした。
その数年後、アニエスは男性から3時間以上にわたって彼らの情熱について聞き取り、それはいまでも感動的な記録として残っている。男性医師は、長らく結婚生活を送り、4人の父親であること、偶然彼女と出会い、3日間、まるでティーンエイジャーのようにふたりで部屋に閉じこもったこと、そしてその後の関係について彼女に語った。アニエスは、彼が思い出を語るときに放っていた雰囲気を思い出し、「これほどまでに信念を持って恋心を語る男性に出会ったことがない」と振り返っている。
ヘグナは92歳で亡くなったが、ニコラは、年齢差に関係なく、こうした情熱が映画の中だけに存在するのではないことを証明している。近年、雑誌メディアでは、年下の男性と付き合う女性のリアルな声を取り上げることが多くなった。この現象は、24歳の年齢差があるマクロン大統領とブリジット夫人によって増えたと紹介されることもある。
「フランスでは、10年ごとに、若い男性と付き合う女性が増えていることが調査で明らかになっているものの、大きな年齢差があるカップルは統計的に非常に少数派だ」とイザベル・ロベール=ボベは捉えている。INSEE(フランス国立統計経済研究所)の調査・人口統計学部門の責任者である彼女は、男性が女性より年上のカップル(10組中6組)、あるいは夫婦が同い年のカップル(10組中6組)が依然として多数派の状況だと説明する。
同研究所が2012年に行った調査によると、フランスのカップルのうち、年下男性と交際をしている女性ははわずか14%。「男性が女性より10歳年下の場合、この数字は1%に減少します」とイザベルは付け加える。そのレアさが、これらの年齢差カップルに特別感を与えているのだろうか?
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常識外れ?
ある土曜日の朝、30歳のエドゥアールは、約束していた予定をキャンセルした。前夜は夜遅くまで出かけていて、頭がぼんやりして、「シャンタル・ラデシュ(74歳のフランスの女優)の声になっちゃった」と、彼は笑う。もうすぐ船長のディプロマを修得しようとしている若い船員は、パーティと同じくらい、自分より年上の女性とベッドをともにするのが好きだ。彼は24歳の時、39歳の女性と出会い、6年間過ごした。さらにその1年後には10歳年上の女性と付き合った。彼はこう述べた。「恋に落ちたら、年齢なんて尋ねない。これが僕のやり方さ」
母親との“複雑な”関係が無意識のうちに、年上女性への関心へと導いているのではないかと思うことがあるものの、結局は映画に影響を受けてきた自分のパーソナリティと文化によるものだとエドゥアールは考えている。映画監督のベルトラン・ブリエの大ファンである彼は、時として、時代の流行りや常識からは外れることもある。「現代的な文化やファッションには関心を持てない」とエドゥアール。彼にとって、女優マルレーヌ・ジョベールやアンナ・カリーナは「まさに世界一の美女」なのだ。自分が愛する女性とこの世界をともに生きることが必要だと説明する。
同年代の友人たちは、フランス映画についてよりも、インスタグラムで2000万人のフォロワーを持つスペイン語圏のシンガー、ロザリアについて度々話題にする。「(同世代とは)会話で話が合わない。要するに、誰もフランソワーズ・ドルレアックに興味なんてないんだ」。
しかし、よくよく考えてみると、彼の女性選びは、彼とその相手が経験する人生の時間帯に関係するのかもしれない。彼は最高のボーイフレンドであろうとしながらも、同世代の仲間が築いているもの、すなわち「家族、結婚、共同口座、愛犬」に対して心の準備ができていない。そして、そのためには、「コミットメントをしなくて良いパートナーが必要だ」と彼は続ける。
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これは、エルワンの場合も同じである。彼は若いジャーナリストで、まだ安心できるような地位や安定性、収入レベルを得ておらず、当面は議論の余地もなく、理想の父親を目指すことはないと考えている。というのも、彼のパートナーにはすでに2人の子どもがいるのだ。
4年前、ヴァレンティーヌは夫と別れ、それ以来エルワンと一緒に暮らしている。44歳の作家である彼女は、この話を始めたのは自分自身だと認めている。彼女は、「25歳の子ども」だった彼の前で初めて服を脱ぐことになった時のことを思い出す。「もちろん、若者に対する怖さもあります。たとえば、周りに見られることや関係が壊れてしまうことに対するね。でも幸せにも自分には、若い頃から築き上げてきた女性としてのエスプリ、そして難しい人生の時期を経て身につけた自信を持っています」とヴァレンティーヌは語る。
一方、アプリで知り合った女の子と付き合ったり、ピザパーティーや夜更かしが日常のエルワンの友人たちは、彼に遠慮なくこう尋ねる。「どうして自分より母親の年齢に近い女性とセックスができるんだ?」と。「道徳や慣習にとらわれない思いが、私たちを動かし、強くしていったのだと思う」と、エルワンは分析する。「私たちのような物語が美しいのは、それが反体制的だから。世界に対抗できる唯一の力かもしれない」とヴァレンティーヌは主張する。
ベッドルームの外で、ふたりはいくつかの障害に直面していた。ヴァレンティーヌの友人たちは、彼女が「熱に浮かされている」と思ったようで、エルワンが安心できる相手なのかを案じた。「仮にそうであったとしても、それがどうしたと言うの? 男性は老いを感じさせないために自分より若い女の子と付き合うけれど、誰もそこまで疎ましく思っていない。なぜ私はダメなの?」
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「“精神”があれば “身体”もそこにもある」
ジャンヌ・ティソンはさらにその上を行く。『Elles ont aimé un homme plus jeune(彼女たちは年下男性を愛した)』(Glyphe社刊)の著者である彼女にとって、これらの関係は男性支配と家父長制に逆行するものであり、いまに始まった事ではない。
2018年に出版された本書の構想は、長い時間を女性の伝記を探し、読むことに費やした後に頭に浮かんだと言う。運命に翻弄されたヒロインたちの多くは、自分より(ずっと)年下の男性を愛していた。彼女は最終的に、コレットやアガサ・クリスティーを経て、アキテーヌ公エレアノールからエディット・ピアフまで、中世から20世紀までの著名な20人の女性たちの人生に焦点を当てた。彼女たちの共通点は、自分より(ずっと)年下の男性を愛していたことだが、それ以外にも、「彼女たちは皆、才能があり、枠にはまらず、家父長制の規範から反し、大胆さを恐れず、嘲笑を恐れず、見捨てられることを恐れなかった」とジャンヌは分析する。
若い男性が彼女たちの人生の後半に登場するのは、自立した知的な彼女たちが、「愛されない」ことの苦悩や不快感を修復するためなのかもしれない。
アニエス・ドゥ・サシーが、船乗りの中で育ち、アイスランドで偉大な建築家となったヘグナについてニコラと話していると、彼はこんなふうに語った。「彼女を精一杯愛し、その結果、ようやく彼女に、女性としてふさわしい地位を与えることができたことが私にとって光栄なことだった」と。脚本家があえてふたりの身体の関係について尋ねると、彼はあっさりと答えた。「精神があれば、身体もそこにある。彼女は信念のある女性だった。そしてとてもエロティックだったよ」と。それに年齢は関係ないのだ。
text: Lisa Vignoli (madame.lefigaro.fr) translation: Hanae Yamaguchi