弱さと向き合う強さを宿す、人気作家の最後の日記。
Culture 2023.01.28
台湾の人気脚本家が描く、性愛に揺れる10の短編。
『愛しいあなた』
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「子供が欲しい」。表題作はそんな切実なひと言で始まる。恋人と身体を重ねていても口に出せなかった言葉だ。独身を貫いてきたシングルマザー。不倫を繰り返してきた女性。台湾の人気脚本家による初の小説集で描かれるのは、性と愛の間で揺れる女性たちの物語だ。セックスはした。でもそこに愛はあったのか。ベッドの上で起こった事実を淡々と現場検証していくようなさらりとした筆致で、結局結ばれなかった恋の愛おしさを描き出す。
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がんで急逝した山本文緒、余命宣告からの闘病記。
『無人島のふたりー120日以上生きなくちゃ日記ー』
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2021年4月、作家・山本文緒は末期のすい臓がんと診断され、コロナ禍の自宅で夫とふたり、無人島に流されたかのような闘病生活が始まった。ドラマ化もされた『恋愛中毒』をはじめ、生きていればどうしても抱えてしまう負の感情を描き続けた。弱さと向き合うことのできる強さ。その眼差しはこの日記にも宿っている。病気から逃げる“逃病記”だと緩和ケアの日々を綴りながらも、書くことを手放さず、日常を日常のまま生き抜いた誠実な記録。
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誰もやらなかったことをやったから、名画になった。
『CONTACT ART 原田マハの名画鑑賞術』
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キュレーターとしての経歴を持ち、ルソーを描いたアートミステリー『楽園のカンヴァス』など、画家をモチーフにした小説を多数執筆してきた著者が日本全国のいま観るべき名画を徹底解説。ミレーの『種をまく人』はなぜすごいのか。モネの絵はなぜ動いて見えるのか。名画には理由がある。時代背景や画家の人生を知ると、新たな地平を切り開いた彼らの深い思いが見えてくる。日本各地へ美術館を訪ねる旅に出たくなる一冊。
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木彫りの動物たちに宿る、神聖な佇まいに震える。
『土屋仁応 進化論』
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木彫作家・土屋仁応の作品を初めて目にしたのは今村夏子の小説『こちらあみ子』の装丁で使われた『麒麟』だった。乳白の肌の内側から色彩が淡く現れる胴体。光を宿した水晶や色ガラスの眼。仏像に用いられる技術を使って創り出される動物たちは、実在するものもそうでないものも神獣と呼びたくなるただならぬ佇まい。ともに暮らした猫や犬が作品に与えた影響など、作家自身による創作エピソードも収録。10年ぶりの第2作品集。
*「フィガロジャポン」2023年2月号より抜粋
text: Harumi Taki