「食べてしまいたいほど愛してる」を演じ切った、ティモシー・シャラメの新境地。

Culture 2023.02.27

満を持した名匠の「自伝」の、成功譚に収まらない奥深さ。

『フェイブルマンズ』

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葛藤の末の和解や永遠の少年性への思慕。スピルバーグ映画では父子関係が浮上すれど、逞しい母は概して脇に控えてきた。この自伝的映画は様子が違う。映画少年サミーがホームムービーを編集中、父の親友と母の危うい関係にふと気付き、表も裏も写してしまう映画の魔力に触れて身をすくめる。1950年代ハリウッド家庭劇風の顔だちと装いの母は、結婚前にピアニストを夢見た情熱の熾火を制御できない半面を覗かせる。ミシェル・ウイリアムズ演じる、さざめくようなその芸術家気質を活劇好きの少年が密かに継承する麗しさ。さて、ハリウッド入門を叶えたサミーを舞い上がらせるエピローグの静かなる一撃とは? 今春の米アカデミー賞で作品賞ほか7部門にノミネート。

 

『フェイブルマンズ』
監督・製作・共同脚本/スティーヴン・スピルバーグ
2022年、アメリカ映画 151分
配給/東宝東和 
3月3日より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて公開
https://fabelmans-film.jp

新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。
最新情報は各作品のHPをご確認ください。

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疎外されたマイノリティの、アメリカ中西部の純愛の旅。

『ボーンズ アンド オール』

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女子仲間と睦み合う勢いで、18歳のマレンは好きな子の指を喰いちぎってしまう。衝撃の冒頭だ。相手の首に噛みつくのではなく、四肢に喰いつくヴァンパイア変異種の新伝説か。グァダニーノ監督に主演ティモシー・シャラメという『君の名前で僕を呼んで』の黄金コンビは、喰うという衝動に呪縛されるのを拒むふたりが、未熟さを糧にして宿命の彼方へとさすらう、清冽な青春ロードムービーにこれを結晶させる。人里から追放されたマレンが出会い、やがて恋に落ちるのが、ティモシー演じるリー。茜色の光を浴びた米中西部の原野のラブシーンは、ヴェネツィア国際映画祭新人賞に輝くマレン役テイラー・ラッセルの、無垢な感応力も相まって感極まる。同映画祭監督賞もW受賞。

『ボーンズ アンド オール』
監督/ルカ・グァダニーノ
2022年、アメリカ映画 131分
配給/ワーナー・ブラザース映画
新宿ピカデリーほか全国にて公開中
wwws.warnerbros.co.jp/bonesandall

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父親と幼子のそぞろ歩き、その帰らざる時を刻印する。

『いつかの君にもわかること』

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ジョンは個人営業の窓拭き職人。カフェやブティックや個人宅の活動ぶりの温度感を、ガラスの反映ともども、窓越しに垣間見える風俗画のように感じつつ、寒空の下で仕事する。日本でもロングランヒットした『おみおくりの作法』の監督の、卓抜な日常の点描が身に沁みてくる。病を患って余命を悟ったシングルファザーの彼は、仕事の合間に息子の養い親を探しまわる。感傷過多の陳腐な難病ものではない。死とは何か、里親とは何か。身近なたとえや行いを通して4歳の子へ伝え継ぐ道々は、その心ばえが父子の日常の小冒険を透かし彫りにするよう。息子のためにはここ! のファイナルアンサーに唸ってしまう。瞳の一瞥を残した、映画ならではの幕引きに胸を衝かれる。

『いつかの君にもわかること』
監督・脚本/ウベルト・パゾリーニ
2020年、イタリア・ルーマニア・イギリス映画 95分
配給/キノフィルムズ
YEBISU GARDEN CINEMAほか全国にて公開中
https://kinofilms.jp/movies/nowhere-special

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最新情報は各作品のHPをご確認ください。

*「フィガロジャポン」2023年4月号より抜粋


text: Takashi Goto

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