子ども時代、家族、そして映画への愛があふれる、スピルバーグの新作『フェイブルマンズ』。

Culture 2023.02.28

天才スピルバーグが自分の半生を語った新作映画は子ども時代や家族映画への愛に満ちた感動作だ。

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『フェイブルマンズ』のプレミア上映会でのスティーヴン・スピルバーグ。(ロンドン、2023年1月18日)photography: Crossick Matt/PA Wire/ABACA

スティーヴン・スピルバーグはこれまでも『未知との遭遇』や『シンドラーのリスト』などの作品で両親のことやユダヤ人であること、子ども時代のことを小出しに語ってきた。しかし新作『フェイブルマンズ』ほど自伝的な作品は初めてだ。映画や家族を愛する気持ちを監督は四半世紀近く前から語りつづけている。新作の主人公はアメリカの少年、サミー・フェイブルマンズ。両親の結婚生活が破綻するなかで、映画への情熱が高まっていく少年の感動的な成長の物語は、監督の生い立ちに深く根ざしている。

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映画に興味が生まれた瞬間

1952年、6歳の少年スティーヴン・スピルバーグは生まれて初めて映画館に足を踏み入れ、『地上最大のショウ』を観た。セシル B. デミル監督作品のクライマックス、列車の衝突シーンに衝撃を受けた少年は帰宅後、おもちゃの電車でこのシーンを再現しようと、父親の8ミリカメラで素朴なリメイク作品を撮る。少年が初めて映画に興味を持った瞬間だった。スピルバーグ作品の一角をなすスペクタクル志向の片鱗がうかがえるエピゾードが映画監督を志すようになる主人公の原点としてごく自然に語られる。ちなみに主人公が監督の分身であることは名前からも明らかだ。スピルバーグの「スピル」はドイツ語読みで「シュピール」、すなわち「ゲーム」や「芝居」を意味する。一方、「フェイブルマンズ」の「フェイブル」は「寓話」を意味する。

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初期の映画

感受性の強い子供だったスピルバーグは、なにかあるとすぐに映画の世界やカメラ撮影に逃避した。映画館で『リバティ・バランスを射った男』を見た後は、遊び友達と初の西部劇撮影に挑戦、乳母車を加工して移動撮影を実現するなど工夫を凝らした。これに続いて第二次世界大戦の兵士であった父親へのオマージュとして短編映画『Escape to Nowhere』も撮っている。『プライベート・ライアン』の原点だ......10代になったアマチュア監督は冒険映画を15本ほど撮影している。この経験なしには、『インディ・ジョーンズ』や『ジュラシック・パーク』は生まれなかったかもしれない。当時、映画編集はフィルムそのものを切ったりつなぎ合わせたりした。この職人技を監督はいまも懐かしんでおり、新作映画はこの時代へのオマージュにもなっている。

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家族の影響

主人公の両親には、監督の両親がおおいに投影されている。監督がピーターパンみたいとよく評していた母親のリアは自由奔放なピアニストで責任感がなく、猿をペットとして飼っていた。ミシェル・ウィリアムズが演じる母親役もそのような人物として描かれている。ポール・ダノ演じる父親役はIBMのエンジニアだった監督の父親に似て、仕事熱心で思慮深く、妻をとても愛していた。両親の離婚に強いショックを受けた監督だからこそ、『E.T.』や『太陽の帝国』、『A.I.』など多くの作品で子供のさびしい気持ちを描いたのだろう。一方、監督にとって父母や3人の妹は最初の出演者でもあった。短編映画に出てもらったり、家族で集まっているところを撮影したり。これらのアーカイブ映像は今回の出演者に撮影開始前、すべて見せたそうだ。そこには、ある重大な過去があった。映画にも出てくるエピソードだが、撮影したフィルムで偶然、母親と父親の親友との関係を知ってしまうのだ。これがきっかけで両親は離婚する。

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スターの発見

『フェイブルマンズ』は成長の物語である以上、主人公の初恋や学校でのトラブル、無邪気ではいられない現実にも目を向けている。スティーヴン・スピルバーグは映画同様、反ユダヤ主義の生徒2人から目をつけられたことがあった。しかしながらそのせいで学校が嫌いになることはなかった。レオナルド・ディカプリオやトム・ハンクスを使うようになるよりもずっと前の高校時代に、監督は俳優のオーラとか映画映りのよい顔というものを発見している。学校で作品を撮ったところ、スポーツ選手の同級生が視線を一身に集めることになってしまい、あまりにもインパクトが強すぎて上映会の際、その子は泣きだして走って逃げてしまったそうだ。この実話も映画に盛り込まれている。

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映画のレッスン

映画の中で、若いサミーは父親と一緒にロサンゼルスに引っ越し、ドラマ「パパ・シュルツ」でプロ監督として初契約をする。これは全くのフィクションで、監督が実際に初めて手掛けた作品は「刑事コロンボ」と「四次元への招待」というテレビドラマだった。しかし、『リバティ・バランスを射った男』や『黄色いリボン』の名監督、ジョン・フォードとの出会いは実話に基づいている。アメリカ映画のレジェンド的存在は女性と楽しんだ後、葉巻片手に眼帯をしたまま、ほろ酔い気分で歩いているときに、自分のファンだと言う少年と出会う。写真の水平線を示せという注文に応じた少年に、巨匠は優れた監督の眼を持つ秘訣を教える。「水平線が上にあると面白い。下にあっても面白い。真ん中だとひどく退屈だ」と。巨匠を演じているのが映画界の巨人であるデヴィッド・リンチである点もひときわ味わい深い。

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マニフェスト

「お前は芸術に生きるだろうが、芸術はお前の心を傷つけ、孤独にし、追放者とするだろう」とサミーは大叔父から言われる。このセリフが実話に基づいているかどうかは定かではない。しかし、この言葉は、普遍的であると同時に個人的な物語で私たちの人生を彩ることに50年前から人生を捧げてきた監督の信仰表明のように響くのである。

 

text: Marilyne Letertre (madame.lefigaro.fr)

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