歴史あるフランス映画賞授賞式での、女たちの力強い声。

Culture 2023.03.08

アリス・ディオップ、ヴィルジニー・エフィラ、キャロリーヌ・バンジョ、アイ・アイダラ、ノエミ・メルラン……。2月24日に開催されたセザール賞授賞式で、多くの受賞者やプレゼンターが声をあげ、主要部門のノミネート者リストに女性が不在であることに不満を表明。男女格差を改めて告発した。

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第48回セザール賞授賞式に出席したアリス・ディオップ。(2023年2月24日)photography: Getty Images

1月末、ネットユーザーたちの間では、セザール賞最優秀監督賞に女性監督がノミネートされていないことを嘆く声が上がっていた。それから1カ月後、2月24日に行われたセザール賞授賞式で、女性受賞者たちや、プレゼンターを務めたアイ・アイダラが、フェミニズム運動を支持する立場から、忘れられた女性クリエーターたちへオマージュを捧げた。

まずは、映画『L’Innocent』の演技で最優秀助演女優賞に輝いたノエミ・メルランが次のようにスピーチ。「今夜、この場に出席していたはずのすべての女性監督に思いを寄せます。彼女たちがいなくて残念です」

 

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「一過性の現象や流行では終わらない」

これに続いて、『Saint Omer』で初監督作品賞を受賞したアリス・ディオップが援護射撃を加えた。メッセージを発する時間が限られていることを承知している彼女は、ユーモアを交えて「黒人女性のスピーチを途中でカットするようなことはしないでしょう?」と述べ、自らの作品の制作に携わった「素晴らしいチーム」を讃えた後で「フランス映画の新世代」に向けて賛辞を送った。

「今年、私は、映画の可能性について考えさせられた作品にいくつも出会いました。私はここで、深いインスピレーションを与えてくれた映画を挙げておきたいと思います。それは、クレール・ドゥニ、レベッカ・ズロトウスキ、ミア・ハンセン=ラヴ、アリス・ウィノクール、セリーヌ・ドゥヴォ、ブランディーヌ・ルノワールの作品です」。ディオップ監督は次のような力強い一言でスピーチを締め括った。「ありがとう! 私たちは一過性の現象や流行では終わらない。私たちは自分自身を更新し、一年一年、成長してゆく運命にあるのです」

 

 

アリス・ウィノクール監督作『Revoir Paris』に出演し最優秀女優賞を獲得したヴィルジニー・エフィラも、最優秀監督賞にウィノクールがノミネートされていないことを嘆いた。女優は「アリス・ウィノクール、あなたはどこにいるの?」と呼びかけ、「女性監督たちはどこにいるの? アリス、この賞はあなたのものよ」と続けた。

 

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「耳を傾けられなかったすべての女性たちのために」

『A plein temps』で最優秀オリジナル音楽賞を受賞した作曲家のイレーヌ・ドレゼルは、この勝利の歴史的側面を強調した。「セザール賞が設立されて今年で48年になります。この長い年月の間に、5人の女性がノミネートされましたが、受賞者はひとりもいませんでした。ですからこのセザール賞を、すべての女性作曲家たちに捧げます」

『Maria Schneider, 1983』で短編ドキュメンタリー賞を受賞した監督のエリザベート・シュブランは同様の思いを込めて「この賞はマリアと、耳を傾けられなかったすべての女性たちのものです」と語った。

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「私ならあなたたちに男性俳優と同じ額の出演料を払っていたでしょう」

今年の授賞式の9人のプレゼンターのひとりとして演壇に登場した女優のアイ・アイダラは、映画界の男女平等を訴えるスピーチを行った。「次のセザール賞は、5人の女性たち。助演女優賞にノミネートされた5人の素晴らしい女優です」と切り出した後、彼女は次のように述べた。「そのひとりひとりに語りかけます。ノエミ、あなたは『L’Innocent』で驚くべき演技を見せてくれた。情熱、大胆さ、自由によって、毎回、私たちに映画的瞬間をもたらしてくれるアヌークとともに、私たちを沸かせ、感動させ、笑わせてくれた」

 

 

スピーチはこう続いた。「ジュディット、あなたは『Le Sixième Enfant』で繊細さと野性味を併せ持つ女性を表現してみせた。優しさと反抗心をもった女性を。あなたの中にはあらゆるテイストと色がある。リナ、美しいリナ。エレガントなリナ。あなたはこれまでもずっと大きな役に挑戦し、強い物語を担ってきた。アナイス、あなたははつらつとしたひたむきな演技を堪能させてくれた。『Novembre』のあなたたちは見事だった」

そして、プレゼンターを務めたアイ・アイダラはこんな皮肉を付け加えた。「本当に、5人とも素晴らしい女性たち。もし私がプロデューサーだったら、あなたたちに男性俳優と同じ額の出演料を払っていたでしょう。残念ながら、まだそこまで至ってはいません」

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「女性と男性の間に問題が起きている」

そしてラストは、授賞式を締めくくる最優秀作品賞の栄冠に輝いた『La Nuit du 12』のプロデューサー、キャロリーヌ・バンジョ。関係者への感謝の言葉を述べたスピーチのなかで、彼女は女性たちへの暴力に言及した。「本作のふたりの登場人物が、女性と男性の間に問題が起きている、という点で意見が一致しています」と強調した。これは「婉曲的な表現」だと彼女は言う。「女性たちは異常な頻度で暴力に晒されている。3日に1人、ひどい年には2日に1人の割合で女性が命を落としていることがそれを物語っています。女性が被る暴力がいかなるものかを身をもって知っているのは女性だけです」

 

 

そして、この作品の監督を務めたドミニク・モルと脚本家のジル・マルシャンが彼女のもとに企画を持ち込んだときのことを振り返り、こう語った。「男性の視線はとても重要」であり、「男たちに発言権を与える」べきであり、映画人として「絶対にこの物語に取り組まなければならない」ことは明白だと感じたのだ、と。彼女は続けて哲学者ジュヌヴィエーヴ・フレスの発言を引用した。「MeToo運動は言葉を解放した。しかし、いまは耳を解放することが必要だ、と彼女は言っています」

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ジュディット・シェムラの涙

「ドミニクのこの映画では、男たちが耳を傾けます」と彼女は続けた。「彼らは自覚のないまま、極度に女性蔑視的な発言を垂れ流すほかの男たちに耳を傾ける。ですが、彼らがとくに耳を傾けるのは女性たちです。彼らに容赦なく鏡を向ける女性たちです」。彼女はこう続ける。「だからこそ、この映画は私たちにショックを与え、同時に深く癒してくれるのです。そして女性も男性も、誰もが必要としている映画だと思います。ですから私は、女性万歳、女性たちの闘いに同行する男性万歳、と言いたい。なぜならはこの闘いは私たちが協力して行わなければならないものだからです」

家庭内暴力の被害を告白したジュディット・シェムラは涙を流してキャロリーヌ・バンジョのスピーチに聞き入った。また、女優のゴルシフテ・ファラハニはイラン国民を支持するスピーチを行い、「女性、生、自由」というメッセージを訴えた。

text: Chloé Friedmann (madame.lefigaro.fr)

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