Star Channel グザヴィエ・ドランの美意識があふれる新作ドラマとは?

Culture 2023.03.10

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“カンヌの申し子”グザヴィエ・ドランが監督した初ドラマ作品「ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと」が、Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX」にて独占配信中だ。

1989年生まれ、カナダ・モントリオール出身のグザヴィエ・ドランは、2009年に監督デビュー作『マイ・マザー』をカンヌ国際映画祭監督週間で発表。スクリーンから放たれる、ヒリヒリと胸を刺すエモーション、ゲイの息子と母と確執のドラマに絶妙に挿入されるファンタジックなメモワール、そしてクールなサウンドを背に、フォトジェニックな主人公を自作自演と、世界は恐るべき19歳の神童の登場に瞠目した。

続いて、同じ男性を好きになった男と女が織りなす三角関係を、ダリダの曲『BANG BANG』を効かせてポップに描いた青春映画『胸騒ぎの恋人』(2010年)、セクシュアリティの悩みを抱えた男性とその恋人の10年に渡る愛を描いたラブストーリー『わたしはロランス』(12年)を経て、同名戯曲を映画化した『トム・アット・ザ・ファーム』(13年)でベネチア国際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞。翌14年には、画角や音楽に変化を持たせた『Mommy/マミー』で、母と息子というテーマに原点回帰。ギャスパー・ウリエルやレア・セドゥらフランスのスター俳優を招き、12年ぶりに家族の元に帰郷する劇作家を描いた『たかが世界の終わり』(16年)ではカンヌ国際映画祭のグランプリを獲得し、名実ともにカンヌの申し子となった。

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今作で監督・脚本も務めたドランが演じるのは、薬物依存症のリハビリ施設に通う家族の末弟エリオット。ドラマの始まりは説明的でなく、視聴者は家族の立ち位置や状況をまるで推理するように見つめさせられ、その世界観に引き込まれることになる。

クレジットされた監督、脚本、出演のほかにも、フレーミングや衣装、美術、音楽選曲に至るまで自らの美意識を張り巡らせ、ドラン・ワールドを創り上げる若き天才は、幼い頃から子役として活躍していた経験を活かし、他の監督作にも俳優として参加。ホラー映画『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』では印象的にカメオ出演したほか、昨年のセザール賞を独占した『幻滅』(4月14日公開)ではフランスのスター俳優とともにコスチューム群像劇にも挑戦している。

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「ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと」は、そんな若き天才が満を持して挑んだ初ドラマ作品だ。今作でもドランは自ら脚本、監督、製作、出演を兼ねている。

舞台は、現代のカナダ・ケベック州の郊外。ラルーシュ家の母マドレーヌの死期が近づき、子どもたちが呼ばれるが、母は長男ジュリアンの顔を見るなり顔を引きつらせ、そして息を引き取る。かつて、この家にはマドレーヌとその夫、そしてジュリアン、妹のミレイユ、次男のドゥニ、末っ子のエリオットという4人の子どもたちが暮らしていた。その向かいに住むゴドロー家の息子ロリエは、ジュリアンとミレイユの幼馴染だった。ところが1991年に起きた“ある夜”の事件を境に、ミレイユは寄宿学校に送られてしまう。

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突如母の葬儀に現れた長女ミレイユ(通称ミミ、写真右端)に、家族は困惑し、街の住人はいかがわしい噂話を繰り広げる。30年前の“あの夜”に起きた事件とは?

そんなミレイユが、母の葬儀のために帰還する。母は、エンバーマー(遺体の衛生保全をする技術者)となった娘に、自らの死化粧を施してほしいと遺言してあったのだ。30年ぶりに現れたミレイユを、町の人々は好奇の目で見つめる。果たしてあの夜、ラルーシュ家に何があったのか……?

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第1話「マドレーヌが死んだ夜のこと」から始まる物語は、デビュー作『マイ・マザー』以来、ドラン作品のアイコンともいえるアンヌ・ドルヴァル演じる母マドレーヌが、どこからかかかってきた1本の電話の後に取り乱す場面から不穏な空気が漂い始める。そして実家の庭からは、赤い石のついた指輪や「quand même(それでも……)」と書かれた紙の切れ端が入った缶(蓋には鉄腕アトムの絵!)が掘り起こされる。

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物語は現代と、“あの夜”の事件が起きた1991年を行ったり来たりしながら進む。市長への立候補を表明した地方議員のマドレーヌ(マド)は、市民から尊敬される存在。しかし“立派な存在”であるはずの彼女も、家族関係の齟齬に悩まされていき……。

ドランは、映画音楽の巨匠ハンス・ジマーによる、ホラーテイストの劇伴で、初挑戦ドラマの第1話をドラマティックに盛り上げてみせる。物語は、ミステリーを仕掛けながらも、1話、2話と進むうち、スリリングなヒューマン・ドラマへと比重を移してゆく。謎めいたミレイユや、酒とドラッグを完全に断ちながらも、いまなお悪夢にうなされる兄ジュリアン、そしてドラッグのリハビリ施設から戻ったばかりのエリオットはもとより、しっかり者の妻シャンタルや、彼女やエリオットが一家の父親代わりと信頼を寄せる次男ドゥニの、秘めた不安や問題を薄皮を一枚一枚剥ぐように丹念に描き出してゆく。

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原案は、『トム・アット・ザ・ファーム』でも組んだ劇作家ミシェル・マルク・ブシャールの同名戯曲で、『マイ・マザー』や『Mommy/マミー』、『たかが世界の終わり』など、ドランが一貫して描き続けてきた家族、母の子の確執や、過去のトラウマと隠された秘密、久方ぶりの帰還といったテーマが重層的に組み込まれている。

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家族の元を離れ、ひとり暮らしていたミレイユ。“あの夜”にいったい何が起きたのか? ロリエ・ゴドローとは何者なのか?

そんな「ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと」は、まさに集大成的な全5話、5時間もののドラン映画とも呼べる仕上がりだ。先の読めないドラマの果て、明かされる最大の秘密には大きく心揺さぶられ、「quand même(それでも……)」の前に綴られた文字に気づくとき、涙を禁じ得ないことだろう。

●問い合わせ先: スターチャンネル

作品を観るなら
こちら

 

text: Reiko Kubo

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