福島の女性が米国原子力技師に出会う、ロードムービーさながらのルポ。
Culture 2023.03.11
温かくておいしい61編、スープにまつわるストーリー。
『スプーンはスープの夢をみる─ 極上美味の61編』
スープが沁みる時がある。辰巳芳子のいのちを支えるスープ、石井好子のオニオングラタンスープ、伊丹十三のブイヤベースに茨木のり子の牛肉とワカメのスープ……食いしん坊垂涎の名手たちによるアンソロジー。ひとりの部屋でままならない片思いの夜を煮込む。高山なおみの野菜丸のままシチューといい、スープ作りは疲れた心を癒やす、処方箋でもあるらしい。書き下ろしも加わり、読むほどにお腹がすくこと間違いなしの全61編。
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65歳の女殺し屋にシビれる、韓国発、新感覚ノワール小説。
『破果』
65歳の爪角(チョガク)は一見小柄で平凡な老女だが、実は45年のキャリアを持つ殺し屋。唯一の相棒は、気の迷いで拾った犬の無用(ムヨン)。何かと絡んでくる若き同業者トゥと役者が揃ったこの設定。映画『グロリア』のジーナ・ローランズを彷彿とさせる、こんなハードボイルドなヒロインを待っていた。すご腕の殺し屋の最大の敵は、いまや老いと孤独なのである。「守るべきものは持たない」を信条にしてきた彼女の最後の死闘を描く。
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ロードムービーさながら! ルポをとおし、原発のいまがわかる。
『スティーブ&ボニー 砂漠のゲンシリョクムラ・イン・アメリカ』
広島で生まれ、福島で夫と植木屋をしている著者が、アメリカで開催される原子力の会議に出席することに。滞在時のホストファミリーが、原子力技師のスティーブと妻のボニー。言葉の壁、国の違い、被災地で暮らす生活者の実感と科学的正しさの乖離。わかりあえなさを越えていく姿に胸打たれる。原発の話と身構えずとも、ロードムービーさながらのおもしろさで読めるノンフィクション。
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注目の写真家のフォトエッセイは、誰かといることの幸せを写す。
『ふたりたち』
どんな関係かなんて見た目だけじゃわからない。リンガラ語を教えてくれたジャック先生は祖国を逃れてきた難民で、横で笑っている金子真紀さんは日本での身元保証人だったりする。やがて巣立つ息子と母親、以前は3人組だった音楽ユニットなど、いろんな「ふたりたち」を撮り集めた一冊。「普通の人」のポテンシャルを見せつけた前作『島根のOL』で注目の写真家による初フォトエッセイは、誰かが隣にいてくれることの幸福が写っている。
*「フィガロジャポン」2023年4月号より抜粋
text: Harumi Taki