クラシック音楽はみんなのもの! "ラ・フォル・ジュルネTOKYO"が東京で4年ぶりに開催。
Culture 2023.04.25
2005年から東京でも開催されているフランス発の音楽祭、ラ・フォル・ジュルネ。毎年、大きなテーマを掲げ、コンサートはもちろん、子ども向けのワークショップや参加型のイベントなど、東京国際フォーラムを拠点に街全体でクラシック音楽を楽しむことができるゴールデンウィークの大型イベントだ。5月4〜6日の3日間で開催される今年のラ・フォル・ジュルネTOKYOのテーマは「ベートーヴェン」。このイベントならではの多彩なプログラムを発案し、音楽祭をプロデュースするアーティスティックディレクターのルネ・マルタンに話を聞いた。
――ラ・フォル・ジュルネのメインコンセプトを教えてください。
もともとのラ・フォル・ジュルネのコンセプトはクラシック音楽をできるだけ多くの方に聞いてもらい、“クラシックの民主化”を目指すと言うものです。クラシック音楽は一部のエリートのためだけでなく、すべての方々に手の届くものであることを示したい。クラシック音楽は楽器を演奏する人だけ、そして知識を持ち合わせてないといけないと思われがちですが、そうではないのです。単にクラシック音楽に触れる機会がなかっただけの人が多いのではないでしょうか? だからこそラ・フォル・ジュルネというイベントを考え付きました。若い人たち、家族連れの方々がベートーヴェンやモーツァルト、そしてシューベルトの音楽と出会えるようにしたかった。それを考慮し、各45分と時間の短い演奏会を企画しました。あまりに長いコンサートだと「自分には無理かな……」と感じる人がいるのではないかと思ったからです。そしてもうひとつ、入場料が高過ぎないことも重要だと考えました。チケットの価格が理由でクラシック音楽を楽しむ機会が遠のいてしまうのはもったいないですからね。あらゆる人々が来られるようにする、それがイベントのメインコンセプトです。
――クラシック音楽は多くの人々にとって敷居が高いものである、とマルタンさん自身も感じた経験はあったのでしょうか?
ありました。私がフランスで色々な音楽祭を手がけていた時のことです。私はジャズもロックも大好きなのですが、その頃にロックグループのU2のライブを観に行ったんです。その時、会場には若者が3万5千人も集まっていたんです! それを見て「この若者たちは、なぜ僕がやっている音楽祭にはいないんだろう?」と思ったんですよ。そして気づいたんです。彼らはクラシック音楽と出会う機会がなかったのだろうと。ならばクラシック音楽のほうから、彼らに近づいていかないといけないのだと分かりました。その人たちが興味を持つようなプロジェクトを作らなければ、と思ったのです。
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――マルタンさん自身はどのようにしてクラシック音楽と出会ったのでしょう?
若い時には、ジャズやポップスばかりでクラシックは聞いていませんでした。特にジャズのベーシスト、チャーリー・ミンガスが好きだったのですが、彼が癌で亡くなったことを知り、彼の人生について綴られた本を読んだのです。そこに、チャーリーが好んで聞いていた曲の中にバルトークの四重奏曲があったと書いてありました。本を読んだ翌日、私はバルトークの四重奏曲のCDを買いに行きました。そこで私は、これまで知らなかったクラシック音楽の世界に出会ったのです。そこから音楽院に通って、音楽史や和声、対位法などを学び始めました。音楽を学び始めて初期の段階で、すでにラ・フォル・ジュルネのような音楽祭を開いてみたいという構想は持っていました。音楽家としてではなく観客としての立場で、そんなことを考えるようになったのです。私はその時16歳でした。私も過去、クラシック音楽に触れる機会をもらったので、多くの人に同じ経験をしてもらいたいのです。いま私が取り組んでいることは、その頃の自分自身の体験を再現しているところがあるかもしれないですね。クラシックは人間を豊かにしてくれます。そしてより素晴らしい音楽を知れば知るほど、心が揺り動かされます。
――コロナ禍を受け4年ぶりの開催になります。今回の音楽祭には特別な思いはありますか?
まず2005年から2019年の間にラ・フォル・ジュルネ TOKYOというイベントを開いたことで、日本の音楽界に変化をもたらしたのではないかと思っています。それまで接点のなかった多くの人がクラシック音楽を聴くために参加してくれるようになりました。一般的に日本の幼い子どもたちは、クラシックコンサートに行く機会にあまり恵まれてないように見受けられました。しかしラ・フォル・ジュルネ TOKYOではたくさんのお子さん、そして家族連れの方にも来ていただきたいと思っています。今回は4年ぶりの開催ですが、まさにその部分がこの音楽祭が人気の理由ですし、今年もそれは変わりません。
――フランス・ナントで生まれた音楽祭が東京で開催されることになった経緯は?
もともと日本の音楽事務所の社長が「ナントで起きたクラシック音楽祭の革命」、ラ・フォル・ジュルネに興味を持ってくれたのが始まりでした。その方がナントにいらっしゃり、「これは信じられないことが起きている! ぜひ、東京で同じことを一緒にやりませんか?」と声を掛けてくれたのです。それから私は何度か東京に来て、この街で人々はどのように音楽に触れているのかを観察しました。自分の目で見た上で、ラ・フォル・ジュルネは東京でも成功できると確信したのです。ラ・フォル・ジュルネは、これまでクラシック音楽を聴いてない人たちにリーチするためのイベントです。東京ではその新しいリスナーを必ず獲得できると思いました。
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――東京での音楽祭の特色はありますか?
東京は大都市で、素晴らしいコンサートホールがいくつもあります。中でも東京国際フォーラムは、ラ・フォル・ジュルネの開催に理想的な場所です。子ども向けのワークショップを開いたり、いろいろなことができるのです。ナントではやっていないようなことも東京では挑戦しています。ナントだけでなく、ワルシャワ、リスボンなどさまざまな都市でラ・フォル・ジュルネを開催していますが、じつは東京のものがいちばん規模が大きいんですよ!
――ラ・フォル・ジュルネを制作する工程でいちばん楽しいところは?
テーマを選ぶことですかね。「このテーマなら豊かな世界が表現できるのではないか」と思い付くとワクワクします! リサーチを重ねてたくさんの音楽を聴くことは、まるで宝探しをしているよう。そこからどんな演奏家に出演してもらおうかと構想を練って、毎年250くらいのプログラムを作り上げていきます。
ラ・フォル・ジュルネは気軽に参加してもらえるクラシックコンサートです。服装にも決まりはありません。ぜひ、この機会にクラシック音楽の魅力を身近に感じてもらえたらうれしいです!
開催日:2023年5月4日(木・祝)、5日(金・祝)、6日(土)
会場:東京国際フォーラム、大手町・丸の内・有楽町、東京駅、京橋、銀座、日本橋、日比谷など
有料公演50公演のほか、無料公演多数
www.lfj.jp/
text: Tomoko Kawakami