KYOTOGRAPHIE 2023 11th Edition 母の死個人の体験が、世界で共感された理由とは?

Culture 2023.04.27

京都を舞台に開催される国際的な写真祭KYOTOGRAPHIE。初開催から11周年を迎えた今年のテーマは、BORDER=境界線。今回の展覧会に出展した6人の女性アーティストにインタビュー、彼女たちが向き合う“境界線”とその表現に迫る。


Miyako Ishiuchi

老舗の帯問屋である「誉田屋源兵衛 竹院の間」では、日本を代表する写真家の石内都と、若手写真家である頭山ゆう紀による二人展『透視する窓辺』が開催される。KYOTOGRAPHIEとパートナーシップを結ぶケリングが、女性写真家の認知度向上と、男女平等への貢献を目指しアーティストを支援するプログラムの一環となる。

石内が頭山をパートナーに選んだ理由とは?

「今回、初めから彼女を推薦したいと考えていました。センスの良い人なのに表にあまり出てこないので、もったいない、隠れてちゃダメと引っ張り出しました。頭山さんはお婆さまを介護してきて、その後お母さまも急逝されたと聞きます。私も共通するテーマで制作してきたので、女同士わかる感じがあって、これまでの長い縁が動き始めたと感じました。『女性たちが背後にいる写真』になるかと思っています」

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『Mother’s #5』 2000〜05年 ©Ishiuchi Miyako, Courtesy of The Third Gallery Aya

本展では、奥に向かって細く伸びる日本間が、それぞれの個展とふたりの作品が共存する展示空間に設えられる。石内が自身の母の遺品の数々を撮影した『Mother's』、頭山が友人の死をきっかけに撮影を始めた『境界線13』、そして祖母を介護し看取るまでの日々を写した最新作という3つのシリーズが展示される予定だ。世代を超えた作家同士の眼差しが時に向き合い、時に交差する親密なダイアローグとなるだろう。

石内都の代表作として愛される『Mother's』は、波乱の半生を背負った「母」をひとりの「女」としてとらえ、身につけていたシュミーズやガードルといった下着や衣類、使いかけの口紅、髪の毛の残るブラシ、入れ歯などの遺品を撮影した写真によって織りなされる。

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『Mother’s #39』 2000〜05年 ©Ishiuchi Miyako, Courtesy of The Third Gallery Aya

肌や髪に直接触れたこれらの品々は「肉体はすでに失われているにも関わらず、母の皮膚が詰まったものだった」と言う。人にあげることも、自分で着ることもできないが、捨てることはできない。悩んだ末「写真を撮っておけば捨てられるかもしれない」と、母と想像上の対話をするつもりで遺品に向き合い始めたのだという。

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美大で染織を専攻した石内は、事物に宿る「肌理」に対する並外れて鋭敏な感覚を通して、母が遺した品々に現れる生の痕跡を丁寧な眼差しと仕草で見つめてきた。母との確執が深かった分、想像以上だったという悲しみと喪失感を反芻し、84歳の生涯を生き抜いた現代の女性に捧げる、深遠なオマージュとして作品を発表してきた。

「もう亡くなってから23年も経つというのに、つい最近だった?と思うほど、写真を見る度に新しい発見があります。ここまでやってきた私の経験の中に、違う時間が生きているってことでしょうね」と石内は振り返る。

日本人では3人目となる“写真界のノーベル賞”、ハッセルブラッド国際写真賞の授賞式で「Weaving the Fabric of Photography」と評された石内の世界は、衣服や皮膚のように内面と外面、公と私、過去と現在のあわいにあるものを通して、「いつまでも片付けることのできない記憶」を炙り出してきた。

本作『Mother's』もこれまで幾度となく、異なるコンテクストや空間で展示され、その度に観る者に新たな気付きを与えている。作家自身の個人的な問題意識から出発した作品でありながら、「母と娘の関係」という世界中の人々が抱える、普遍的なテーマに行き着くものだからであろう。

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『Mother’s #57』 2000〜05年 ©Ishiuchi Miyako, Courtesy of The Third Gallery Aya

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石内 都
1947年、群馬県桐生市生まれ、神奈川県横須賀市で育つ。2005年、母親の遺品を撮影した『Mother’s』で第51回ヴェネツィアビエンナーレ日本館代表作家に選出される。07年より現在まで続けられる被爆者の遺品を撮影した『ひろしま』も国際的に評価されている。

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A dialogue between Ishiuchi Miyako and Y uhki Touyama
『透視する窓辺』
With the support of KERING’S WOMEN IN MOTION
誉田屋源兵衛 竹院の間
京都市中京区室町通三条下ル 西側
料)一般¥1,000

KYOTOGRAPHIE
京都国際写真祭 2023

『BORDER』
●開催中〜5/14
www.kyotographie.jp

*「フィガロジャポン」2023年6月号より抜粋

text: Chie Sumiyoshi

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