珍事件発生！ アートに閉じ込められた男性の救出劇。

「アート作品の虜になった」とはよく聞く比喩表現だが、時として実際に捕らわれてしまうことがあるようだ。カナダののどかな河原で、人間がアートの中に閉じ込められるという、珍しい騒動が発生した。

男性が閉じ込められたというテイルス・ドーム。photography: Shutterstock

事件が起きたのは、西部アルバータ州の州都・エドモントンにある河川敷の公園だ。整備の行き届いた広大な公園の一角に、テイルス・ドームと呼ばれるパブリック・アートが設置されている。ステンレス製のシルバーのボールを約1000個積み上げたもので、ボール同士はしっかりと接合されている。ボールが並ぶのは表面だけで、内部は空洞だ。

カナダ放送協会（CBC）によると、ある土曜日の夕方、地元男性のコナー・シュイント氏が、イースターの夕食で食べ過ぎたカロリーを燃やそうと河川敷でジョギングに励んでいた。すると、見慣れたテイルス・ドームの前に、なにやら人だかりができていた。中に人がいると、ちょっとした騒ぎになっていたようだ。シュイント氏が当局に通報し、これが第一報となった。

中では若い男性が走り回り、出られないことからかなり動揺していたという。シュイント氏は少し意地悪な表現を使い、「バケツに落ちたネズミを見ているかのようでした」と振り返っている。

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前例ない救助活動、車を破壊する器具を投入。

CTVエドモントン局は、救出の様子を報じている。作業は夜間に実施された。作業中、オブジェは投光器によってまぶしく照らされ、技術クルーを含む3人の救助隊員が切断作業にあたった。球体同士の接合部分を破壊し、一部の球を外して男性を外へ出す作戦だったようだ。最終的に1つの球が取り外され、男性は無事に外の世界へと救助された。

救助には、ジョー・オブ・ライフ（生命のアゴ）と呼ばれる大型の油圧救助器具が投入されたという。本来は車両事故の現場などで、車体を破壊して取り残された運転者を救助するために用いられる。ペンチを人の頭ほどに大きくした形状で、対象の金属を油圧とてこの原理でねじ曲げる。

エドモントン消防救助サービスの地区長は、CTVに対し、「本当に初めての経験でした」「通常の（ジョー・オブ・ライフの）使用法とは間違いなく異なります」と述べ、異例の救助活動であったと語った。事件はアメリカでも取り上げられ、米スミソニアン誌は「異例の救助活動」であったと報じている。

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もっと簡単に出られた。

実のところ、よりスマートな救助法も存在したようだ。事件から1週間後、作品の製作にプロジェクト・コーディネーターとして携わったエドモントン・アート評議会は、メンテナンス用のハッチが設けられていたことを明かした。救助チームはこれを知らされていなかったという。

閉じ込められた人物は26歳の男性で、意図的に中に入った模様だ。ボールの山を登り、入り込めるような大きさの隙間を見つけて内部に侵入したところ、出られなくなったという。男は被害額5000カナダドル（約50万円）以上の迷惑行為の罪で起訴され、その後釈放された。作品は2011年に製作され、60万カナダドル（約6000万円）が投じられている。

男性のガールフレンドはあきれ顔だ。CBCの取材に対し、「中に一晩放置して、サンドイッチでも与えておけばよかったかもしれませんね」と笑顔で語ったという。

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自然との共存を象徴するアート作品。

エドモントンの公式ウェブサイトによると、テイルス・ドームは人工物と自然との共存を象徴している。

現場が河川敷として整備される前、この地には、自然現象で砕かれた岩のかけらが半円錐状に堆積する「崖錐（テイルス）」がよく見られた。その形状にヒントを得て、手作りのステンレス球およそ1000個を積み上げて、この作品が制作された。河川整備以前の自然の風景を想起させるオブジェであり、また、空模様が移り変わる様や行き交う車の情景を反射し、色褪せることのないステンレスが自然の永続性と変化を映し出す趣向になっている。

作品は米ロサンゼルスに拠点を構えるボール＝ノーグス・スタジオが制作した。ベンジャミン・ボール氏とガストン・ノーグス氏が共同で主催する同スタジオは、アート作品のデザインと制作を手がけており、ボールや金属片など同型のオブジェクトを多数組み合わせたスタイルを持ち味としている。

テイルス・ドームはひときわ目を引く作品だけに、これまでにもエドモントンの住民のあいだで賛否両論があったという。行き過ぎた好奇心を持つ男性の行動により、思いがけずまた新たな話題を提供することとなったようだ。

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【動画】アートの中に閉じ込められた男性の救出劇。

videography: CBC