男中心の社会を疾走する女性......目を背けてはいけない映画『Rodeoロデオ』。

Culture 2023.06.01

男中心の無法集団の新星、呪縛を解いて疾駆する。

『Rodeoロデオ』

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バイクの曲乗りとスピードを磨く男たちのパリ郊外版『イージー・ライダー』集団に、ジュリアは腕と独立心を頼りに潜り込む。男女二元論に収まらない性認識の監督が女性映画の枠組みも刷新。昨年のカンヌの旋風に。

「笑えよ」。男たちは当たり前のようにジュリアに言った。女はニコニコと機嫌よく笑っていればいい。女は男が運転するバイクの後ろに黙って乗っていればいい。劇中、バイク乗りの男たちは、そう彼女に要求する。ジュリアはバイクに乗るために生まれてきたような、本来素直で自由な精神の女性だ。だけど、色々な理由からその自由は制限されていくことになる。まるで、こちらから理解されることを拒むかのように暗闇に向かって疾走する。慌てて後ろを追いかけてみても、とても追いつくことはできない。

ジュリアはアウトローな男たちの視線にさらされ、いつも何かに怒っているように見える。そして同じくらい自身の女性性に対しても怒っているのだ。それはコミュニティの中で、彼女が頭角を現してくるのと比例して、より強く描かれる。男たちはジュリアが自分たちよりも能力があるということを決して認めたがらないし、ましてや自分たちより勇気があるということは、もっと認めたくはない。三歩下がった所からのサポートは大歓迎だが、一歩でも前に出ようものなら途端に叩き潰されてしまうのだ。これって日本で普通に暮らす私たちにとっても、あるあるなのではないだろうか。自分の能力を半分くらい隠して、男たちから嫌われない範囲で調和しながら上手くやることを、いつの間にか身に付けてしまってはいないだろうか。

今作はパリ郊外の決して裕福とは言えない街の話なのだが、そういう視点から見ても私たちに関係のない話では決してない。ジュリアが唯一心を許した女性、オフェリー(アントニア・ブレジ 兼・共同脚本)とその息子を自分のバイクに乗せて疾走するシーンが最高に素敵だ。頰に風を感じ、誰の手からも自由になってただひたすらに走る。このままずっと走り続けてどこか遠くの別の場所で幸せに暮らしてほしいと考える私はまだまだ甘いのかもしれない。

文:梶原阿貴/脚本家、俳優
1990年、『櫻の園』で俳優デビュー。2022年、非正規雇用の女性の孤立と連帯を描いた『夜明けまでバス停で』(監督/高橋伴明)で脚本家として飛躍を遂げる。同作は国内の数多の映画賞を受賞。DVDが今年5月25日に発売。
『Rodeoロデオ』
監督・共同脚本/ローラ・キヴォロン
出演/ジュリー・ルドリュー、ヤニス・ラフィ、アントニア・ブレジほか
2022年、フランス映画 105分
配給/リアリーライクフィルムズ、ムービー・アクト・プロジェクト 
6月2日より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて順次公開
www.reallylikefilms.com/rodeo

*「フィガロジャポン」2023年7月号より抜粋

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