パリジェンヌが体験した、日本の驚きの恋愛事情とは?
Culture 2023.06.18
びっくりしたプロフィール項目、知り合ってすぐのプロポーズ、ラブホテル……。4月にフランスで発売された『Tokyo Crush(原題訳:東京クラッシュ)』は、著者ヴァネッサ・モンタルバーノがマッチングアプリを通じた日本での体験を語った本だ。フランスのマダム・フィガロが彼女へのインタビューを通じて、日本の恋愛事情をリポート。
ヴァネッサ・モンタルバーノの本『Tokyo Crush』では、日本特有のデート事情が描かれる。photography: Getty Images
失敗したデートはネタの宝庫——。29歳のヴァネッサ・モンタルバーノは1年間の予定でパリから東京へ、ワーキングホリデーにやってきた。日本でマッチングアプリに登録したのは日本語がうまくなりたかったから。意外なプロフィール項目、出会ってすぐのプロポーズ、暗黙のデートルール等々、何もかもが驚きの連続だった。ヴァネッサはツイッターで自分の日本での体験を自虐気味に投稿しはじめた。
それから7年、いまでもヴァネッサは日本に住んでいる。これまでの体験を自らまとめた本『Tokyo Crush』が4月13日にフランスで発売された。デートのかたわら、ヴァネッサは日本の独身者向けビジネスにも興味津々。花嫁学校やホストクラブも取材した。ヴァネッサへのインタビューを通じて、興味深い日本の男女の恋愛事情にどっぷりつかってみよう。
C’est le grand jour ! 絵文字https://t.co/eRDKfE90Zo pic.twitter.com/JN6ACkUBez
— Vanessa Montalbano (@vanessamontlbno) April 13, 2023
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結婚物語
——マダム・フィガロ:日本でマッチングアプリに登録すると、まず相手のプロフィールに載っているのが体型や収入、そして血液型なんですね!
ヴァネッサ・モンタルバーノ:血液型の項目があることに一番びっくりしました。初デートで血液型を聞かれた時は、自分が聞き違えたのかと思いました。デートを3回した後、ようやく母に電話して自分の血液型を聞きました。日本では血液型ごとに性格の特徴があると考えられています。ウェブで調べたところによると、私の「O型RHマイナス」は生まれながらのリーダーで、自分の気持ちを隠しがちなタイプだそうです。
——日本では男女とも、マッチングアプリで探す相手の条件がワンパターンとのことですが。
日本では男女ともに、相手に望む条件が給与の額に至るまではっきりしています。日本の女性は一般的に、身長が180cm以上で優しく、高収入のハンサムな男性を求めています。結婚の風習はまだ根強く、初デートで相手の男性から「今後付き合う相手とは結婚するつもり」と宣言されたことがあります。
——その人から結婚を申し込まれました?
その人からはありませんでした。結婚を申し込まれたことはこれまで3回あります。それも知り合って割とすぐに。もちろん愛があれば構わないと思いますが、プロポーズがとても早い場合もあるのです。
不倫にも驚きました。日本で働きはじめてすぐに気付いたのは、奥さんがいるのに浮気をしている男性の存在です。若い世代はともかく、これまでの日本の夫婦関係でよくあるパターンは、妻は子どもができると仕事を辞め、夫は家庭を支えるために働くというものです。そして夫が浮気をする。あるいは妻が。日本人の結婚観に接して、私の考えもだいぶ揺らぎました。それでうまくいくならいいのではないかって。
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婚活について
——デートをするうちに日本で付き合うルールがわかってきたそうですが、初デートではどう振るまえばいいのでしょう?
たとえば初デートに女性はズボンではなく、地味なワンピースで行くべきです。初デートの服装やマナーをアドバイスしてくれる雑誌やサイト、専門ショップもあります。結婚相手を探す「婚活」をしているなら、なおさらアドバイスがほしくなりますね。婚活を始めた友人がワードローブやジュエリー、香水を一新するのを見てきました。すべて計算されています。相手に気に入られて新婚生活もうまくいくよう、女性に魅力的な話し方や歩き方、そして料理などを教える学校もあります。
——あなたはそうしたルールをどのように学びました?
少しずつ学びました。直接言われたこともあるし、働いている居酒屋で見聞きしたこともあります。たとえば「デートなのにジーンズで行くの?」とよく驚かれました。マッチングアプリのプロフィール欄で学んだ言葉もたくさんあります。一番すごかった思い出は、デート相手から「レディがしゃべるような日本語を教えてあげる」と言われたことです。何を考えていたんでしょう。ちなみに日本語は男言葉、女言葉があって、自分を言い表す言葉も男女別に何通りもあるのです。
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告白について
——出会ってどの段階から本気になるのでしょう?
カギとなるのは「告白」ですね。公にカップルとなるために面と向かって申し込むのです。それまで何回デートして手を握ったりキスしたりしていたとしても、カップルになるのは「告白」から。ちょっと形にこだわりすぎな気もします。せっかちな日本人もいます。たった2回のデートで好きだと言われると、疑うわけではありませんが、そんなにすぐに自分の気持ちがわかるものかなと思います。
——日本の独身者をターゲットにしたビジネスもいろいろ紹介していますね。結婚相談所や花嫁学校などがありますが、こうした場所で何が学べるのでしょう。
こうした場所では独身女性向けにさまざまな有料サービスを提供しており、たとえばマッチングアプリのプロフィール作成代行もしてくれます。あとは洋食や中華料理でのテーブルマナーとか、内容はびっくりするほど具体的できっちりしています。こうした学校などが存在する一方で、突飛な商売も存在します。若い女性が膝枕をしてくれるサービスとか……日本では、独身者向けのビジネスが完全に根づいています。
——相手と付き合ううえで飲食が重要な役割を果たすとのことですが、それはどういうことでしょう?
日本人は食べることが大好きです。一緒に食事をすることで連帯感を強めます。マッチングアプリのプロフィールにもよく食べ物の写真が載っています。何を食べたか、あるいはどんな料理が好きかを紹介しているのです。
お酒はツールとして使われます。「ノミニケーション」という言葉があるのですが、日本語の「呑み」と、「コミュニケーション」を合体させた造語です。つまり、お酒を通じたコミュニケーションということですね……。日本人は自制心が強いですがお酒が入れば舌が軽くなります。夜になると会社の同僚ともお酒をたくさん飲んで騒ぎ、酔って帰る人も多いです。フランス人の私からすれば、上司とタバコを吸ったり大声で話したり歌ったりして、翌日には何事もなかったように出社するのは驚きです。日本でお酒はひとつの社会的役割を担っているのです。
——ホストとは、お金を払えば楽しい時間を過ごさせてくれるプロの彼氏のようなもの、とのことですが、一体どんなことをしてくれるのでしょう。
髪にハイライトを入れてメイクをし、派手で独特な格好をしている男性ホストは本当にすごい存在です。女性たちが金に糸目をつけず車やアパート、高級時計などを貢ぐので、月に何百万ユーロも手にするそうです。
システムはとてもよく考えられています。初回はあまりお金がかかりません。ホストが集うクラブに行って2時間いても、飲み放題で20ユーロ程度です。10分ごとに新しいホストがテーブルにやってきて飲み物を作り、会話をし、こまめに気を配ってくれます。そうすることでお気に入りホストが見つかる可能性が高まり、再来店の確率も高まるからです。2回目以降は値段も上がりますが、ホストは、ショートメッセージを送ってご機嫌を伺い、客を繋ぎとめようとするのです。
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社会規範
——日本人のセクシュアリティについて何か発見がありましたか?
日本人のセクシュアリティは果てしないと感じています。ポルノ、セックストイ、性産業……巨額が動く巨大市場です。おもしろいのは、日本語が読めるようになって、東京の至る所に風俗関連の広告やお店があることに気付いたこと。たとえば観光客に人気のある渋谷でホストクラブやラブホテルの宣伝トラックがバンバン通ります。性というものが遍在している。その一方で、日本社会ではよく「セックスレス」が話題になります。日本人はセックスもしないし、子どもも作らないことが論じられるのです。
——日本でカップルはどのように別れるのでしょう?
自分の経験や友人の日本女性たちの体験談によれば、少しずつ疎遠になって別れます。面と向かって振るより、相手が傷つかないと考えられているからです。私も実際に体験しました。相手と突然連絡が取れなくなったのですが、それまでに段階があり、しょっちゅう忙しいと言っていてメッセージの来る間隔がどんどん長くなり、いつの間にか消えていました。
——一番印象に残っているデートは?
ある男性とのデートです。店に入って席に座り、注文を終えるとすぐに「数カ月後に海外転勤になった。一緒に来てくれないか。結婚して生涯をともにしてくれ」と言われたことです。
text:Chloé Friedmann (madame.lefigaro.fr)