革新的な女性写真家、マダム・イェボンデを知っていますか?
Culture 2023.06.20
2020年から3年間に渡って改装をしていたナショナル・ポートレイト・ギャラリーが、6月22日に待望の再オープンを迎える。
©️Forbes Massie
ロンドンの中心部に位置し、観光客にもお馴染みの外観。
©︎David Parry
新しくなったスペースで展示準備中のエリザベス一世の戴冠式のポートレイト。
そのこけら落としとなる「イェヴォンデ:ライフ&カラー」は、カラー写真の創成期にロンドンで活躍した女性フォトグウラファーでマダム・イェヴォンデと呼ばれたイェヴォンデ・ミドルトンのエキシビションだ。
© National Portrait Gallery, London
イェヴォンデのセルフポートレイト。
イェヴォンデは1893年にロンドンの裕福な家庭に生まれ、幼い頃より演劇やアートが身近にある暮らしに親しんでいた。16歳から学んだベルギーの全寮制の学校で女性たちへの参政権を求めるサフラジェットの活動を知って参加するように。卒業後にロンドンへ戻ってからは精神的な強さと経済的な自立のために職業を得ることを志し、女性フォトグラファーとして当時成功を収めていたラリー・チャールズに弟子入りする。
3年後の21歳となった1914年には自分のスタジオを設けて独立、被写体がかしこまったポーズを取って撮影する従来のポートレイトとは一線を画した、フォーマルでありながらも自由で独創性豊かな写真で注目を集めるようになる。
1930年代を迎えてカラー写真が登場すると、多くのプロのフォトグラファーが従来の白黒にこだわり続けるなかでイェヴォンデは「カラー写真には歴史も伝統もなく、その道の達人も存在しない。あるのはただ未来だけ」と言っていち早く興味を持って研究を重ねる。三色のフィルターをかけて別々に撮影したポジティブフィルムを重ねて現像することで独特の色調を作り出す手法のパイオニアとなり、照明や構図にも凝ってストーリーを感じさせる絵作りに熱中していく。
© National Portrait Gallery, London
映画『風と共に去りぬ」で知られる俳優ヴィヴィアン・リーの肖像。
© National Portrait Gallery, London
斬新な構図の1920〜1950年代の俳優ジョーン・モードのポートレート。
そんな彼女の美意識にあふれたスタイルは当時の社交界の花形たちに気に入られ、1937年にはジョージ六世王の戴冠式に参列したゲストたちのポートレイトを担当。ロイヤルファミリーや、俳優や作家などの文化人の肖像写真を数多く手がけるようになる。さらにはローマ神話やギリシャ神話の神々を題材とした彼女の代表作「ゴッデス」シリーズを作り上げていく。
© National Portrait Gallery, London
ローマ神話の豊穣の女神、ケレスに扮したレディ・ブランティスフィールドの肖像。
© National Portrait Gallery, London
1930年代から活躍したイギリスの俳優ジョン・ギールグッドはリチャード3世の衣装をまとって。
© National Portrait Gallery, London
© National Portrait Gallery, London
© National Portrait Gallery, London
オリジナリティあふれる世界観で、媚びることなく女性の美しさを追求した写真は特に印象的だ。
常に挑戦を続けたイェヴォンデの写真は、撮影から100年近くが経った今見ても斬新かつ優美で心に残る。特に女性たちのポートレイトは、イェヴォンデ自身が独立心に富み時代を先駆ける存在だったこともあり、力強さで満ちている。
そんな彼女の作品に刺激を受けながら心ゆくまで堪能したい。
「Yevonde: Life and Colour」
6月22日〜10月15日
National Portrait Gallery
St Martin's Place, London WC2H 0HE
text: Miyuki Sakamoto