NewJeansを生んだクリエイターたち(1) "BTSの妹"NewJeansを生んだ異色の事務所代表、ミン・ヒジンとは?

Culture 2023.06.27

さまざまな記録を作ったK-POPガールズグループNewJeans(ニュージーンズ)が、7月21日にセカンドアルバムを発表、カムバック(※)する。
※K-POPの世界で新曲発表時にテレビなどメディアで音楽活動を行うこと。

昨年7月、BTSの所属する音楽事務所HYBEがデビューさせた5人組K-POPガールズグループNewJeansが、デビュー1周年で待望のカムバックを果たす。群雄割拠のK-POPガールズグループの中でもひときわ抜きん出た注目度の彼女たち。デビューミニアルバム収録曲の『Attention』と『Hype Boy』は韓国最大の配信サービスMelOnでK-POPアイドルのデビュー曲としては史上初の1位と2位に連続ランクイン。また1stシングル『OMG』はオリコン週間合算シングルランキングで初登場1位を獲得し、日本での人気も高い。

そして、音楽活動のほかにメンバー5人は、ミンジがシャネルのビューティ、ファッション、ウォッチ&ジュエリー部門、ハニはグッチとアルマーニ ビューティ、ダニエルはバーバリーとイヴ・サンローラン・ボーテ、ヘリンはディオールのジュエリー、ファッション、ビューティ部門、ヘインはルイ・ヴィトンと、それぞれが有名ブランドのアンバサダーに就任。グループとしてもリーバイス、コカ・コーラのグローバルアンバサダーに選ばれている。

デビューから1年でのこんなサクセスストーリーを語るうえで欠かせないのが、彼女たちを支えるプロデューサーなどのクリエイターチームだ。そこでNewJeansを産み、育てたクリエイターたちをシリーズで紹介していく。今回は、NewJeansの産みの親として知られる所属事務所代表のミン・ヒジンについてクローズアップしたい。

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異色の事務所代表、ミン・ヒジン。

BTSのパン・シヒョク、TWICEのパク・ジニョン、NCTのイ・スマンと、人気のK-POPアーティストには生みの親というべき大物プロデューサーが欠かせない。彼らは皆、音楽家として活動をスタートして音楽事務所を設立した。その意味でミン・ヒジンはNewJeansの産みの親なのだが、ほかのプロデューサーたちとはかなり異なる。なぜなら彼女は音楽プロデューサーではなく、デザインを本業とするクリエイティブディレクターなのだ。

だが、いわゆるデザイナーの枠に収まらない彼女の活動を音楽業界が高く評価していることは、アメリカの業界誌「Variety」の「世界のエンターテインメント業界に影響を及ぼした女性」、Billboardの「Billboard  Women in Music」「The 2023 Billboard International Power Players」などを彼女が受賞していることからも明らかだ。また、韓国の主要音楽事務所の中では女性としてただひとり年俸5000万円以上という報酬を得ているという。いったいどうして音楽の作り手ではないデザイナー出身の彼女がこれほどまでに注目されるようになったのだろう?

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新人デビューの方程式を打ち壊す。

彼女が手がけたガールズグループNewJeansだが、世界的なヒットになったいちばん大きな理由はやはりBTSを擁するHYBEが鳴り物入りでデビューさせたことがあるだろう。世界中のARMYが応援するのは圧倒的なサポートになる。だが、当然ながらそれだけが成功の要因ではない。デビューにあたってのプロモーションが従来のK-POPアイドルのデビュースタイルを打ち破ったものだった点も注目された。

一般的なK-POPアイドルのデビューは、メンバーひとりずつの名前やプロフィールをカウントダウン形式で発表していき、その後にグループ名を披露。そしてデビュー曲のティザービデオを公開、最後に新曲を発表……という形で、情報を細かく小出しに出していくことでファンの期待感を煽るようにして発表される。

ところが、NewJeansの場合、2022年7月1日にデビュー自体の告知はされたものの、その後グループ名やメンバー紹介などがまったくないまま、7月22日いきなりグループ名とデビューミニアルバムの収録曲『Attention』のMVを公開。その翌日になってようやくメンバーの名前が発表され、同時にアルバムの収録曲『Hype Boy』のMVが公開されている。

こうした型破りなデビュー戦略を指揮した事務所代表のミン・ヒジンとはどんな経歴の持ち主なのか?

NewJeansと一緒にバラエティ番組に出演したミン・ヒジン。

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公募採用から役員にまで駆け上がった異色のデザイナー。

1979年生まれのミン・ヒジンはもともと音楽は好きだったものの、それはアイドルなどのK-POPではなく、ジャズなどさまざまなジャンルのものを聴いていたという。そうした音楽好きなことと、グラフィックデザインで多くの人々に驚きを与えられるという理由から大学卒業後に選んだ会社が韓国最大の音楽事務所SMエンターテインメントだった。

2002年に入社した当初は普通のデザイナーだったものの、2004年末にリリースされた東方神起のクリスマスアルバム『The Christmas Gift from 東方神起』ではトータルなコンセプトを構築して撮影、セット、デザインを決めるという企画を実現。2007年に少女時代がデビューした際には、事務所のイ・スマン代表にイメージマップを見せて「どんな少女にならなければいけないか」とプレゼンし、これをきっかけに社内での活動の幅を広げ“ビジュアル・ディレクター”という肩書を授かったという。

その後は、SHINEE、f(x)、EXO、Red Velvet、NCTとSMエンターテインメントがデビューさせたアーティストのコンセプトとアルバムデザインを手がけ、2017年には役員というポストを手に入れた。一般公募で採用された者が韓国ナンバーワン芸能事務所の役員になったのは前代未聞の快挙だった。
 

評価の声の一方でファンからの批判も。

もっとも、いいことばかりあったわけではない。2016年以降、ファンの間からはあまりにデザインやコンセプトが先行しすぎてアーティストごとの違いがないという批判が起こる。

ちょうど毎週音源配信サービスでSM所属のアーティストがさまざまな組み合わせで新曲を発表するプロジェクト“SM STATION”が開始され、リリースされる作品の数が飛躍的に増えたこともあり、ミン・ヒジンたちクリエイティブ・チームの負担が大きくなった時期だった。

もちろん、通常のアルバム制作も同時に進行しており、一時期は毎月MVを5本ずつ制作する状況だったという。彼女はこの時期精神科でカウンセリングを受けるなど心身ともにすり減っていき、バーンアウト状態になってしまった。

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BTSの事務所に招かれ自身のレーベルを設立。

2019年、SMエンターテインメントの役員名簿からミン・ヒジンの名前が消えたことが音楽関係者の間で話題になっていた。さまざまな憶測が流れ、多くの音楽事務所が接触を試みたというが、同年7月1日、BTSを擁するBig Hitエンターテインメント(現在のHYBE)に迎えられ、CBO(Chief Brand Officer)に就任した。彼女が初めに手がけたのは社名変更にともなうHYBEのロゴを含めたコーポレートアイデンティティ、ソウル市龍山区に移転した新社屋のディレクション、そして社名変更に伴い発表されたブランドプレゼンテーションだった。

一方で、この時彼女に対してHYBEのパン・シヒョクはさらにふたつのミッションを与えていたという。それが新人ガールズグループのデビュープロジェクトとミン・ヒジン自身が代表となる音楽レーベルの立ち上げというものだ。このふたつが実現したものこそ、2022年7月彼女が代表を務める新レーベルADORからのNewJeansデビューというわけだ。

とはいえ、アイドルグループの育成は彼女ひとりでできることではない。実は彼女がSMエンターテインメントを辞めた際、彼女と一緒に仕事をしていたクリエイティブチームのスタッフが行動をともにして、新レーベルの立ち上げに加わっていた。ADORの副社長のシン・ドンフン、チーフ・クリエイティブ・ディレクターのキム・イェミン、クリエイティブディレクターのキム・ナヨンといったメンバーだ。こういう気心の知れた精鋭メンバーとともにレーベル立ち上げをできたことこそが、NewJeansの大成功に繋がったと言っても過言ではないだろう。

それまでのクリエイティブディレクターからレーベル代表という重責まで担うことになった彼女だが、この点については「完全に音楽のためでした。音楽に対して外部から干渉されない環境が必要だったため、独立レーベルを発足しました。『ヒットするためにはこうしなければならない』という公式化された既存のK-POPスタイルを暗黙のうちに強要されてきた感じがあって、その公式を破りたかったんです。 成功するためにみんなが似たようなスタイルを目指すことが業界で働く者として残念で、ほかの方法を提案したかった。 基本に立ち返って気軽に聴きやすい音楽を出したいという気持ちがありました」と語っている。

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photography: yllyso / shutterstock

2023年7月にNewJeans待望のセカンド・アルバムがリリースされることが発表され、プロモーションには米カートゥーンネットワークの人気キャラクター「パワーパフガールズ」とのコラボレーションが行われることが明かされた。ADORのサイトもすでにパワーパフガールズのビジュアルになっている。

一方でミン・ヒジンの挑戦はNewJeansのプロジェクトに留まらない。すでに次にデビューさせるグループのため、グローバルオーディションを東京・大阪・福岡など世界各地で開催している。今度の新人はボーイズグループになる予定だ。

デビュー1年でNewJeansがどんな成長を見せてくれるのか、またNewJeansをはじめとしてガールズグループ全盛のK-POP界に将来デビューさせる新人ボーイズグループが新たな波を起こすことができるか? ミン・ヒジンとADORの今後の動きに期待したい。

ミン・ヒジンのフェイバリット・プレイリスト

text: Takeshi Taketara

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