マーク ジェイコブスのファッションショーは、なぜ3分で終わったのか？

観客も驚くほど短時間のショーだった。ファッションショーがエンターテインメント化している時代に、アメリカ人デザイナーが発したメッセージとは。

マーク・ジェイコブス2023-2024年秋冬コレクションの所要時間は180秒だった。(ニューヨーク、2023年6月27日）photography: Imaxtree

3分間のファッションショーなんて前代未聞だ。それってそんなに驚くことなの、とこの業界を知らない人は思うかもしれない。ファッションショーの平均所要時間は12分、そして1930年代にさかのぼれば数時間かかるのが普通だった。一回のショーの費用は数百万ユーロに上ることもある。費用に見合う効果を得るため、服にできるだけ注目を集め、感動を生み出し、想像力をかきたてようと全力が注がれる。6月27日にマーク・ジェイコブスがニューヨーク公共図書館でおこなったファッションショーは、慣例やルールを破り、この点を逆手に取ったものだった。モデルたちは早足で会場のホールに入場するとゲストの前を往復した。それで終わり。通常のファッションショーが平均80人のモデルを使うのに対し、今回は29人だったため、時間も空間もコンパクトに収まった。

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文はChat GPTで作成

つかのまのショーはそのままさらりとやりすごされ、アメリカ人デザイナーの単なる気まぐれと片付けられていたかもしれない。しかし配布されたショーノートの執筆にChat GPTが使用されていた点にデザイナーの意図を汲みとることができる。コレクションのコンセプトや各ルックの説明文はやや仰々しい。「マーク・ジェイコブスのファッションショーは、メンズクチュールとフェミニンなエレガンスの驚くべき融合で観客を魅了した......この魅惑的なコレクションは、ファッションの変幻自在な力を思い起こさせ、印象的なアンサンブルを創りだすマーク・ジェイコブスの卓越した技を浮き彫りにした」とある。あたりさわりのない内容で、高揚したトーンはシニカルでさえある。どんなコレクションにでも当てはまるような文章とも言える。

3分間のショーはSNSでほとんど話題にならなかった。招待客の中にインフルエンサーはあまりおらず、すぐに携帯を取りだした人も少なかった。しかしながらこのショーは明らかにいろいろ考えさせようとさせている。マーク・ジェイコブスがはっきりそうと言ったわけではないが、疑問を提示したことは確かだ。SNSは絶えず新しいものを生みだすことで人々を依存させる。その仕組みへ供給するために創りだされたイメージがもろくはかない存在であることへの疑問。そしてより広く、ウルトラファストファッションという強力な武器が登場した今、衣類の供給と生産が膨張し、価格の低下と同じぐらいクリエティビティや品質、サスティナブルへの関心が急降下しているなかでの洋服の消費への疑問。3分というあまりにも短い時間でのショーは、人々の夢と欲望をふたたびかきたててくれるだろうか。